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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第二部 第五章 貧困都市リグラスラム編 『妹弟子と運命のコイン』
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フレスとギルパーニャの心理戦

 ★第一ベットラウンド★


「さあ、どうする?」

「……どうしよう」


 フレスは最初のベットから悩んでいた。

 賭ける順番は、フレス→ギルパーニャ。

 場のカードはまだ一枚も開けられていない。

 互いに最初の二枚だけで勝負するかどうか決めることが出来る。

 それがこの第一ベットラウンドである。


「……チェックするよ」


 フレスはチェックを宣言。

 チェックとは賭け金を提示せず、次の人へ賭ける権利を回す宣言で、相手の様子を窺う時に行う。

 ちなみにこのゲーム、お互いにウェイルの24時間(1時間につき1枚)を持ってスタートする。

 つまり手持ちチップは24枚だが、最初にブラインド(ゲーム参加費)として2枚ほどポットに入れている為、実質22枚からのスタートである。


「なら私は……そうだね。ベット、チップ10枚!」


 ギルパーニャはベットを宣言。

 賭けチップを10枚、場に置いた。

 フレスはすぐさまギルパーニャの表情をジッと窺う。

 ギルパーニャは笑ってそれに応えた。


(……いきなり10枚……!! それほど手札がいいのかな……?)


「どうするの、フレスちゃん? レイズ? コール? それともフォールド?」


(この手札では……)


 しばらく考えたフレスだったが、


「……フォールド」


 フォールドを宣言。

 この手札で10枚賭けの勝負は出来ないと判断した。


「ラッキー! ならポットのチップは私のモノね!」

「……むぅ……」


 ◎現在 フレス 22枚 ギルパーニャ 26枚


 ~第二ゲーム~


 ★第一ベットラウンド★


 フレスの手札は♦のQ、♠のA。


(これならいける……!!)


「よし、ベットするよ! チップ5枚!」


 フレスはポットにチップを5枚追加。

 これでポットのチップは9枚になる。


「どうする? ギルパーニャ?」

「どうするって。アハハハ!! もちろんその勝負、受けるよ! とりあえずコール宣言しておく!」


 ギルパーニャはコールを宣言。

 コールとは相手と同じ金額を賭ける宣言。

 ギルパーニャもフレスと同じくチップを5枚ポットへ追加し、ポットは14枚に。


「……いいの? ギルパーニャ?」

「何言ってんの、勝負は始まったばかりだよ?」


 互いに宣言を終えたので、第一ベットラウンドは終了。


「さあ、フロップ(コミュニティーカードの最初の三枚)をオープンするよ?」

「……ゴクリ……」


 そして開かれたカードは――――♣の9、♦の2、♦のK。


 ★第二ベットラウンド★


(……ボクの手は♦のQ、♠のA……。ワンペアすらない……!! でも後二枚あるんだ。ワンペアくらい……!! それにまだフラッシュ、ストレートの可能性も……!! だからまずは様子見で……!!)



「ベット、チップ2枚――」

「――レイズ! チップ5枚!!」

「……え!?」


 フレスがベットを宣言した瞬間に、ギルパーニャはレイズを宣言。


「どうするの? フレスちゃん?」


 ニヤニヤ顔でフレスの様子を窺うギル。


「むぅうううう!! ボクだって……!!」


 残り手持ちチップは13枚。

 ここでフォールドすれば下手に賭けたせいでマイナス7枚しただけという最悪な結果に。


(……まだ役はないけど、いくしかない……!!)


「ボクもコール!」


 フレスはチップをさらに3枚、ポットに追加する。


「あら? 私の見込みだとフレスちゃんはここで降りると思ったけど?」

「そんなこと言ってボクの動揺を誘う気でしょ? その手には乗らないよ!!」


 とはいえ、今コールしたのは半ばヤケクソに近い。


(……冷静になれ、ボク……!!)


「ふふふ、言うね、フレスちゃん! やっぱりギャンブルはそうでなくちゃ! ターン、開くよ!」


 ギルパーニャの手によって開かれた4枚目のカードは――♦のJ。


(よし! 今一番いいカードかもしれない!!)


 これによりフレスの手はストレートかフラッシュに非常に近くなった。


 最後のリバーが♦ならフラッシュだし、10ならばストレート。


(でも、確率はとても低い……)


 最後が♦である確率は約25%。

 そして10である確率は約7.7%。

 どちらにせよ分の悪い賭けであることは間違いない。


 ★第三ベットラウンド★


「どうしたの? 何を宣言する?」


 ニヤニヤ顔をしたギルパーニャの催促。

 これに流されていては勝てる勝負をみすみす逃してしまう。

 そう考えたフレスがここで宣言したのは。


「……チェック」


 様子見であった。

 もはやレートは非常に高くなっている。

 ポットに貯まったチップもすでに24枚。

 もしこれが一気にギルに流れてしまえばフレスに勝ち目は薄い。


(なんにせよ、このゲームが勝負なんだ……!! ウェイルをとられるわけにはいかないもん!!)


 フレスは冷静だった。

 状況を把握し、相手の出方を待つ。

 それは実際悪くない行動であった。

 しかし――。


「へっへー! なるほど、ここでチェックか~~。でもそれじゃ相手にプレッシャーなんて与えられないよ?」


 ギルパーニャの指摘。

 これこそが心理戦に置いて重要なこと。

 この場面でのフレスのチェック宣言は、様子見という観点から見ればそれほど悪い選択肢ではない。

 だが、それは相手が素性も知らぬ赤の他人だった時の場合。

 今回の相手はギルパーニャ。すでに何度かゲームを行っている相手である。

 そのような相手の場合、安定行動を取るのは非常に危ない戦略になる。

 理由は一つ。簡単に思考を読まれるからだ。

 プロのプレイヤーなら数ゲーム以内に、相手の癖・思考・性格を読み取り、それを考慮して宣言等を行う。

 相手の調子を崩すため、あえて暴挙をやらかしたり、逆に不自然なまでに安定行動を繰り返す。相手に自分のプレイスタイルを悟られないようにするために。

 ギルパーニャは、すでにフレスのプレイスタイルを読み切っていた。

 ここでフレスが安定行動に出たのは、彼女から言わせると想定内であったのだ。

 だからこそ宣言した。


「ベット。チップ10枚……!!」

「チップ10枚!?」


 それはすなわち、フレスの残りチップ全てである。


「さあ、フレスちゃん? 宣言はどうする?」


 すでにフレスの残りチップ10枚と同等の賭け額のため、レイズは行えない。

 フレスに残された選択肢は、コールと、そしてフォールド。


「降りた方がいいんじゃない?」

「……うぐぐ……」


 ギルパーニャは実に意地が悪い。

 何故なら自分はまだ何とか安全圏にいる状態で、フレスには生きるか死ぬかの二択を迫ってきているのだ。

 さらに言えばこの状況を作り出した曖昧なルール設定。

 ベットやレイズの賭けチップの上限を定めなかった。

 わざわざこの状況を作り出すために、あえて設定しなかったのだ。

 それだけギルパーニャにとって、この賭けは勝ちたいゲームと言えた。


(絶対にウェイルにぃとデートしてやるんだから……!!)


「どうする!? やる? 降りる……?」


 二人の前に積まれた、大量のチップ。

 そしてフレスが下した選択は……。


「……やるよ! やってやる!! コールだよ!!」


 フレスは残り手持ちチップ全てをテーブルの上に積み上げた。


「……へぇ……。やるじゃんか」


 正直な話、ギルパーニャは少し驚いていた。

 フレスはここで確実に降りると思っていたからだ。

 そういう選択肢をとる様に挑発してきたし、ルールも決めた。身を切る覚悟も決めていた。

 それに対してフレスは堂々と立ち向かってきたのである。


「さあ! 最後のカード開いて!!」

「……判った」


 フレスに催促され、リバーに手を賭けるギルパーニャ。


(最後のカード……。たぶん負けないけど、もしかしたら……!!)


 ギルパーニャの脳裏に不安がよぎる。

 それだけフレスの気迫は凄まじかった。


(お願い……!! ♦か10……!!)


 フレスが最後に宣言したコール。

 あれはもうほとんどヤケクソであった。


(でも、あそこで降りてちゃ勝ち目なんてない!!)


 ウェイルにも、ギルパーニャにも、いつもあのような場面で諦めて降りてしまっていた。


(だからここは降りるわけにはいかないんだ!!)


「リバー、オープン!!」


 開かれた最後のカードは……。


 …………♥の4。


 フレス 役なし


 ギルパーニャ Kのワンペア


 ギルパーニャが全てのチップを奪って勝利したのだった。




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