フレスとギルパーニャの心理戦
★第一ベットラウンド★
「さあ、どうする?」
「……どうしよう」
フレスは最初のベットから悩んでいた。
賭ける順番は、フレス→ギルパーニャ。
場のカードはまだ一枚も開けられていない。
互いに最初の二枚だけで勝負するかどうか決めることが出来る。
それがこの第一ベットラウンドである。
「……チェックするよ」
フレスはチェックを宣言。
チェックとは賭け金を提示せず、次の人へ賭ける権利を回す宣言で、相手の様子を窺う時に行う。
ちなみにこのゲーム、お互いにウェイルの24時間(1時間につき1枚)を持ってスタートする。
つまり手持ちチップは24枚だが、最初にブラインド(ゲーム参加費)として2枚ほどポットに入れている為、実質22枚からのスタートである。
「なら私は……そうだね。ベット、チップ10枚!」
ギルパーニャはベットを宣言。
賭けチップを10枚、場に置いた。
フレスはすぐさまギルパーニャの表情をジッと窺う。
ギルパーニャは笑ってそれに応えた。
(……いきなり10枚……!! それほど手札がいいのかな……?)
「どうするの、フレスちゃん? レイズ? コール? それともフォールド?」
(この手札では……)
しばらく考えたフレスだったが、
「……フォールド」
フォールドを宣言。
この手札で10枚賭けの勝負は出来ないと判断した。
「ラッキー! ならポットのチップは私のモノね!」
「……むぅ……」
◎現在 フレス 22枚 ギルパーニャ 26枚
~第二ゲーム~
★第一ベットラウンド★
フレスの手札は♦のQ、♠のA。
(これならいける……!!)
「よし、ベットするよ! チップ5枚!」
フレスはポットにチップを5枚追加。
これでポットのチップは9枚になる。
「どうする? ギルパーニャ?」
「どうするって。アハハハ!! もちろんその勝負、受けるよ! とりあえずコール宣言しておく!」
ギルパーニャはコールを宣言。
コールとは相手と同じ金額を賭ける宣言。
ギルパーニャもフレスと同じくチップを5枚ポットへ追加し、ポットは14枚に。
「……いいの? ギルパーニャ?」
「何言ってんの、勝負は始まったばかりだよ?」
互いに宣言を終えたので、第一ベットラウンドは終了。
「さあ、フロップ(コミュニティーカードの最初の三枚)をオープンするよ?」
「……ゴクリ……」
そして開かれたカードは――――♣の9、♦の2、♦のK。
★第二ベットラウンド★
(……ボクの手は♦のQ、♠のA……。ワンペアすらない……!! でも後二枚あるんだ。ワンペアくらい……!! それにまだフラッシュ、ストレートの可能性も……!! だからまずは様子見で……!!)
「ベット、チップ2枚――」
「――レイズ! チップ5枚!!」
「……え!?」
フレスがベットを宣言した瞬間に、ギルパーニャはレイズを宣言。
「どうするの? フレスちゃん?」
ニヤニヤ顔でフレスの様子を窺うギル。
「むぅうううう!! ボクだって……!!」
残り手持ちチップは13枚。
ここでフォールドすれば下手に賭けたせいでマイナス7枚しただけという最悪な結果に。
(……まだ役はないけど、いくしかない……!!)
「ボクもコール!」
フレスはチップをさらに3枚、ポットに追加する。
「あら? 私の見込みだとフレスちゃんはここで降りると思ったけど?」
「そんなこと言ってボクの動揺を誘う気でしょ? その手には乗らないよ!!」
とはいえ、今コールしたのは半ばヤケクソに近い。
(……冷静になれ、ボク……!!)
「ふふふ、言うね、フレスちゃん! やっぱりギャンブルはそうでなくちゃ! ターン、開くよ!」
ギルパーニャの手によって開かれた4枚目のカードは――♦のJ。
(よし! 今一番いいカードかもしれない!!)
これによりフレスの手はストレートかフラッシュに非常に近くなった。
最後のリバーが♦ならフラッシュだし、10ならばストレート。
(でも、確率はとても低い……)
最後が♦である確率は約25%。
そして10である確率は約7.7%。
どちらにせよ分の悪い賭けであることは間違いない。
★第三ベットラウンド★
「どうしたの? 何を宣言する?」
ニヤニヤ顔をしたギルパーニャの催促。
これに流されていては勝てる勝負をみすみす逃してしまう。
そう考えたフレスがここで宣言したのは。
「……チェック」
様子見であった。
もはやレートは非常に高くなっている。
ポットに貯まったチップもすでに24枚。
もしこれが一気にギルに流れてしまえばフレスに勝ち目は薄い。
(なんにせよ、このゲームが勝負なんだ……!! ウェイルをとられるわけにはいかないもん!!)
フレスは冷静だった。
状況を把握し、相手の出方を待つ。
それは実際悪くない行動であった。
しかし――。
「へっへー! なるほど、ここでチェックか~~。でもそれじゃ相手にプレッシャーなんて与えられないよ?」
ギルパーニャの指摘。
これこそが心理戦に置いて重要なこと。
この場面でのフレスのチェック宣言は、様子見という観点から見ればそれほど悪い選択肢ではない。
だが、それは相手が素性も知らぬ赤の他人だった時の場合。
今回の相手はギルパーニャ。すでに何度かゲームを行っている相手である。
そのような相手の場合、安定行動を取るのは非常に危ない戦略になる。
理由は一つ。簡単に思考を読まれるからだ。
プロのプレイヤーなら数ゲーム以内に、相手の癖・思考・性格を読み取り、それを考慮して宣言等を行う。
相手の調子を崩すため、あえて暴挙をやらかしたり、逆に不自然なまでに安定行動を繰り返す。相手に自分のプレイスタイルを悟られないようにするために。
ギルパーニャは、すでにフレスのプレイスタイルを読み切っていた。
ここでフレスが安定行動に出たのは、彼女から言わせると想定内であったのだ。
だからこそ宣言した。
「ベット。チップ10枚……!!」
「チップ10枚!?」
それはすなわち、フレスの残りチップ全てである。
「さあ、フレスちゃん? 宣言はどうする?」
すでにフレスの残りチップ10枚と同等の賭け額のため、レイズは行えない。
フレスに残された選択肢は、コールと、そしてフォールド。
「降りた方がいいんじゃない?」
「……うぐぐ……」
ギルパーニャは実に意地が悪い。
何故なら自分はまだ何とか安全圏にいる状態で、フレスには生きるか死ぬかの二択を迫ってきているのだ。
さらに言えばこの状況を作り出した曖昧なルール設定。
ベットやレイズの賭けチップの上限を定めなかった。
わざわざこの状況を作り出すために、あえて設定しなかったのだ。
それだけギルパーニャにとって、この賭けは勝ちたいゲームと言えた。
(絶対にウェイルにぃとデートしてやるんだから……!!)
「どうする!? やる? 降りる……?」
二人の前に積まれた、大量のチップ。
そしてフレスが下した選択は……。
「……やるよ! やってやる!! コールだよ!!」
フレスは残り手持ちチップ全てをテーブルの上に積み上げた。
「……へぇ……。やるじゃんか」
正直な話、ギルパーニャは少し驚いていた。
フレスはここで確実に降りると思っていたからだ。
そういう選択肢をとる様に挑発してきたし、ルールも決めた。身を切る覚悟も決めていた。
それに対してフレスは堂々と立ち向かってきたのである。
「さあ! 最後のカード開いて!!」
「……判った」
フレスに催促され、リバーに手を賭けるギルパーニャ。
(最後のカード……。たぶん負けないけど、もしかしたら……!!)
ギルパーニャの脳裏に不安がよぎる。
それだけフレスの気迫は凄まじかった。
(お願い……!! ♦か10……!!)
フレスが最後に宣言したコール。
あれはもうほとんどヤケクソであった。
(でも、あそこで降りてちゃ勝ち目なんてない!!)
ウェイルにも、ギルパーニャにも、いつもあのような場面で諦めて降りてしまっていた。
(だからここは降りるわけにはいかないんだ!!)
「リバー、オープン!!」
開かれた最後のカードは……。
…………♥の4。
フレス 役なし
ギルパーニャ Kのワンペア
ギルパーニャが全てのチップを奪って勝利したのだった。




