表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第一章 教会都市サスデルセル編 『龍の少女と悪魔の噂』
16/763

ドラゴン娘の弟子が出来ました。

「翼が生えた……!?」

「どうどう? 人間には翼って無いよね? これで信じてくれたかな?」


 翼の生えた少女の姿を、ウェイルはただ呆然と見つめることしか出来なかった。

 フレスの言う通り、翼のある人間は存在しない。

 そしてウェイルは、ラルガ教会で初めて龍の絵を見た時と同じ感覚に襲われた。


 ――なんて美しいのだ、と。


 ついフレスの翼に見入ってしまうウェイルだった。

 他の感情など一切捨て、ただ美しいと、そう断ずるにいささかの躊躇もないほどに。


「あれれ? これじゃまだ信じられない? ……困ったなぁ、他に何かあるかな……?」


 フレスが不安そうにウェイルに声を掛けたところで、ようやく正気に戻ることが出来た。


「……あ、ああ、判ったよ。お前を信じる。だからさっさと服を着てくれ。目のやり場に困る」

「良かった! 信じてもらえて!」


 フレスは喜びながら、部屋の中を裸のままピョンピョンと跳ねていた。

 そこでウェイルは本当の問題に気づく。


(こいつが本物の龍だとしたら、余計に不味いことになったのではないか?)


 仮にも神と対等、もしくはそれ以上の力を持つとされる(ドラゴン)である。

 龍の能力を利用しようと、邪な考えを持つ者が近寄ってくる可能性だってある。

 何よりも、こいつ自身がこれから何を為そうと考えているのか判らない。

 下手に扱いを間違えると、アレクアテナ大陸全土が被害を受けるかも知れない。

 さらにフレスは元々封印されていた存在だ。

 過去に何か不味いことをしでかしたのかも知れない。

 フェルタリアに関係していたとなると尚更だ。

 見た目こそ幼く、ただ無邪気なだけの彼女だが、実は危険思想を持っているかも知れないのだ。

 まずそのことについて言及し、フレスの意思を確認する必要がある。


「お前は封印が解けた今、一体何をしようと思っているんだ?」


 そう訊ねるウェイルの声は、若干震えていた。

 もし彼女の口から、人間の倫理に反する答えが返ってきたら。

 ウェイルはこの龍をどうしたらよいものだろうか。


「何をするか? う~ん、そうだなぁ……。……――復讐、かな?」


 なんとも恐ろしいことをしれっと答える彼女。

 この回答だけでは要領を得ない。

 ウェイルはさらに、恐る恐る質問を重ねた。


「復讐って……。……まさかアレクアテナ大陸を滅ぼすつもりなのか?」


 返答次第では、この子を排除する必要があるとウェイルは覚悟を決める。

 もっとも戦ってウェイルが勝つ見込みなんて全く無いわけだが。

 そんなウェイルの杞憂をよそに、フレスは笑い転げた。


「ニャハハハハ! 何変なこと言ってんの! ボクがそんなことするはずないじゃない! だってボク、アレクアテナは大好きなんだよ! そんなことより、このとっても美味しいお菓子はなんて名前なの?」

「……スコーンだ」

「へぇ! スコーン、美味しいねぇ……もぐもぐ」


 世界の存亡を賭けた話をしていたつもりのウェイルだったが、話題が急にスコーンまでランクダウンしたので、ホッとした反面、ドッと気疲れする結果となった。

 どうやら世界の壊滅は免れたらしい。

 過去の彼女のことは知らないが、今の彼女は有害ではない。

 それが判っただけでも儲けものだ。


「とにかく、早く服を着てくれないか。いい加減目のやり場に困る」

「あ、そだね」


 フレスはそそくさと服を着た。

 そして改めてウェイルに向き直る。


「次はボクから質問していい? どうしてボクのことを解放してくれたの?」

「……どうして、解放……?」

「うん! 何かボクに用があったんでしょ!? ボク、君のこと気に入っちゃったし、力になるよ!」

「…………」


 その問いに、ウェイルは言葉を失った。


(……い、言えない……。手が滑って酒をこぼして、その結果()()()()解放してしまったなんて……!!)


 解放した理由なんて何もない。

 ただ単に手が滑っただけだ。

 安易に返答することも出来ず、とても気まずい。


「ねぇねぇ、なんでなんで!? ボク、君の為に何をすればいいのかな!?」


 対してフレスの方は、瞳をキラキラと輝かせながら、ウェイルを見つめている。

 この目は、それ相応の理由を期待している目だ。

 ウェイルは居心地の悪さを感じ、スーッと冷や汗すら出てくる。


「ねぇ、なんで、なんで?」


 そうとは知らず期待の眼差しを向けながら、ズイズイと迫ってくるフレス。


(正直に言うか? ……いや、言える訳が無いよな……)


 相手は(ドラゴン)だ。

 もし下手に答えて彼女の機嫌を損ねるようなことがあっては、自分のせいでアレクアテナ大陸を危機に晒す結果にもなり得る。

 ウェイルが必死に言い訳を考えていると、ふと先程のヤンクとの会話が脳裏を過ぎった。


 『――弟子はとらないのか?』


 期待の眼差しに追い詰められたウェイルに、唐突に浮かび上がった合理的な嘘。

 フレスのプレッシャーに負けた瞬間、勝手に口が動いていた。


「で、弟子が欲しかったんだよ」

「弟子?」


(い、言ってしまった!!)


 咄嗟とはいえ、何故こんな嘘をついてしまったのか、自分自身理解が出来なかった。

 正直な話、今まで一度として弟子を欲しいと思ったことはない。

 それに彼女は(ドラゴン)だ。

 傍に置いておくと、何かと災難や面倒事に巻き込まれるような気がする。

 とにかく今の言葉は無かったことにしたい。

 ウェイルはすぐさま否定に乗り出した。


「すまん、今のは無しで――」

「――弟子!? 確か君って鑑定士をしてるんだよね!? うわぁ! 鑑定士の弟子かぁ!! すっごく面白そうだね!! ボク、やるよ! やるやる!!」


 前言撤回の言葉は、やる気満々な了承の言葉によって遮られた。


「お……おい……? 本気なのか……?」

「本気も本気! ボク、鑑定士やってみたい! ボクが封印される前にも、鑑定士っていたんだよ! 一度やってみたかったんだよね!! それで鑑定士ってどんなことをするの!?」


 瞳の輝きは先程の10倍以上だ。

 キラキラと目から光線すら出ているフレスに、もはや撤回の言葉は通じそうもなかった。


(俺はなんてことを言ってしまったんだーー!!)


 思わず床に手を着いて後悔。

 軽い嘘は、いつの間にかとてつもなく大きな責任へと発展してしまった。

 しかしこうなった原因を作ってしまったのも、全てウェイルだ。


「し、仕方ないか……!!」


 ウェイルだって男だ。

 ここは覚悟して責任を取らないといけないと、己を無理やり戒めた。

 それによくよく考えてみると、龍であるフレスをこのまま野放しにする方が危険だとも思えた。

 彼女が龍であることは、今のところウェイルしか知らないわけだから、手元に置いておけば何かと都合が良い。

 少なくとも誰かに利用されることはないだろう。


「判ったよ。今日からお前は俺の弟子だ」

「がってん、師匠! よろしくお願いします!」

「……おう」


 師匠と呼ばれるのは、少しくすぐったくもあったが、想像以上に悪くはなかった。

 突然すぎる弟子の採用であったが、案外上手くやっていけそうな気がする。


「鑑定士の業務内容は大変なことが多いが、よろしく頼むぞ、フレス」

「まっかせてよ! ねぇ、握手しよ! ボクが君のパートナーとなる契約の証!」


 満面の笑みと共に、手を差し出してきた。


「これからよろしくね! ウェイル!!」

「ああ、よろしくな、フレス」


 こちらも手を差し出して、お互いに握手を交わす。

 まさかこんな形で弟子を迎えることになろうとは、一体誰が予想できたであろうか。

 握ったフレスの手は、人間のように暖かかった。


「じゃあさ! 早速お師匠様にお願いがあるんだけど! これ、お代わり!!」

「……え?」


 すっと差し出されたのは、スコーンを乗せていた皿。

 上にあるべきスコーンの姿は綺麗さっぱり消えている。

 消した張本人は、口元の汚れをペロリと舐めてニコニコとしていた。


「俺の晩飯、全部食べたのか……」

「師匠は弟子を養わないといけないんだよ?」


 いけしゃあしゃあとそんなことを言ってくる我が弟子。


「なんて図々しい弟子なんだ……」

「ウェイル、早くお代わり~!」


 仕方ない、買ってくるしかないだろう。

 フレスの為にというのは少しばかり癪だったので、あくまで俺の晩飯だと、自分に言い聞かせる。

 皿を片手にウェイルが部屋を出ようとした時。


「甘いジュースも飲みたいなぁ! ねぇ、お師匠様! お願い~!」


 図々しすぎる呑気な声が飛んできたので、ウェイルの怒りは頂点に達した。


「知るか!!」

「リンゴの果汁がいいなぁ」

「やかましい!!」


 ――これが龍と鑑定士の初めての出会いだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ