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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第四章 部族都市クルパーカー編  『戦争勃発、陰謀の末路』
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これから


「――んなっ!?」


 部屋に戻ったウェイルは、変わり果てた自室の惨状に言葉を失っていた。

 激しい異臭を撒き散らす生ゴミが散乱し 、床は何故か凍りついている。

 朝までは間違いなく綺麗に片付けられていたはずのマイルーム。

 それが今やこの様だ。


「フレス。これは一体どういうことだ?」

「え、えっと……」

「何故生ゴミが散らかっている? 何故床が凍っている?」

「あ、あのね……。お料理、作ってたの……。床はお皿を落としちゃった時に割れる前に凍らせちゃって……」

「料理だと?」

「うん、これ」


 フレスが差し出してきた皿の上には、湯気立ち込めるシチューがあった。


「お前が一人で作ったのか?」

「……うん」


 なるほど、これを作るために生ゴミが出たというわけか。


(それにしてもシチューを作るだけなのに、ここまで散らかる必要はあるのか……?)


「……部屋を散らかしてごめんなさい……」


 シュンと俯き、謝罪するフレス。


「片付けるぞ。俺も手伝うから」

「怒らないの?」


 怒鳴られると思っていたのか、涙目のフレスが上目遣いで尋ねてくる。

 ウェイルは苦笑し、代わりに頭を撫でてやった。


「あのなぁ、お前は俺の為にこれを作ってくれたんだろ?」

「……うん」

「だったら怒るわけないだろう? 俺はお前の師匠なんだから。弟子の小さなミスくらいどうも思わないさ。それよりも早速食べようか。丁度腹がすいていたとこだよ」

「あ、うん! すぐにお皿によそうから!」

 

 出されたシチューを、ウェイルはスプーンで掬い、口に入れた。


「なかなか美味いじゃないか。あの散らかった生ゴミを見てちょっと不安だったけどな。流石は俺の弟子だ」

「……ウェイル!!」


 プルプルと震えだすフレス。

 ウェイルは瞬間的に悟った。

 こいつは間違いなく――。


「師匠~~!!」


 ――飛びついてくる!


 ――ヒョイッ。


「あれ!? って、うわーー!?」


 ――ズシーン……。


 飛びつこうとしたフレスを軽々と避けると、フレスは勢いに任せて本棚に突っ込んでいった。

 どさどさと落ちてきた本の下敷きになると、目を回しながら這い出てきた。


「……うう、酷いよ、ウェイル……」

「悪かったな。それにしても……プッ、アーッハッハッハッハッハ!!」

「ちょっとウェイル! 笑うなんて酷いよ!!」


 片付けようとしたら更に散らかってしまった光景を見て、ウェイルは声を張り上げて笑った。


「いや悪い! でも……ハッハッハハハハハ、笑いが止まらん!」

「……もう、ウェイルってば…………プッ! ニャハハハハハハ!!」


 二人して腹を抱えて笑い転げてしまったのだった。


「うう、床がびちゃびちゃだ……」

「とりあえず床を拭こうか……」

「そだね……」


 床が凍っていたことをすっかり忘れて転げまわった結果、二人は全身びちゃびちゃになってしまった。





 ――●○●○●○――





 無事片づけも終わり、二人仲良くベッドに腰を掛ける。


「フレス。今回はお前にかなり無理をさせた。申し訳ないと思ってる」

「何言ってんの。弟子が師匠の為に頑張るのは当たり前でしょ?」

「そう、だったな。なら言い方を変えよう。今回は助かった。ありがとう」

「もう、ウェイルってば。ボクとウェイルの仲じゃない!」

「そうだな。俺とお前の仲だ」


 思えばこいつと出会ってから、まだあまり日が経たないというのに、様々な事件に巻き込まれた。

 それら全てが大変な事件ばかりだったし、時に命の危機が迫った場面にも遭遇した。

 それでも不思議とフレスといれば大丈夫だと、そう確信めいたものを持っている自分がいた。

 フレスにはずっと助けてもらってばかりだ。だから恩返しというわけではないが、彼女の師匠として何かしてやりたいと思った。


「なぁ、フレス。お前さ、プロ鑑定士を目指すって言ってたな」

「うん! ボク、ウェイルと同じ仕事をしたい!」

「そうか。よし、ならこれからはプロ鑑定士試験に向けての準備をしよう。『不完全』の連中はしばらく活動を控えるだろうからな」

「え!? いいの!?」

 

 弟子への恩返し。

 元々対人関係、特に女性に対して不器用すぎるウェイルには、これしか思いつかなかった。

 

「ウェイル、お仕事の方はいいの?」

「心配ない。むしろ仕事は多い方がお前にとってもいい勉強になる。実はもうすでに次の鑑定依頼も来ていてな。少し時間もあることだし、ゆったりと旅をしながら行こうかなと思っている」

「旅!? 本当!?」

「本当だ。お前には是非立派なプロ鑑定士になってもらいたい。どうだ? 来るか?」

「行くよ!! 行くに決まってる!!」


 ウェイルの誘いに、フレスは即答した。


「ウェイル!! 早く行こうよ!!」

「おい、待て。少し準備をさせろって」


 静止を求める声など耳はいらないのか、


「もーー、ウェイルってば!! 急ぐよ!!」


 と、走って部屋を出て行った。


「全くそそっかしい奴だよ」


 やれやれと呟きながらも、笑ってしまう自分がいた。

 愛用のバッグに鑑定道具一式を詰める。


「久々に師匠のところにでも顔を出すか。さて、さっさとフレスを追わないと、あいつ迷子になるぞ……」


 案の定、協会内で迷子になり涙目になっていたフレスを拾って、二人はマリアステル駅へと向かった。

 二人の旅路は、まだまだこれからだ。





  ――●○●○●○――





 ――教会都市サスデルセル。


「はぁ~、これからどうしよう。任務に失敗しちゃったし、イング様も捕まっちゃったし……」


 深く嘆息したのは、クルパーカーから逃げ延びたフロリアであった。

 彼女が選んだ潜伏先は、ここ教会都市サスデルセルであった。

 とある民家に闇討ちを仕掛け、そこの住人を殺害した後、ずっとその家で息を潜めていたのだ。


「リーダーやスメラギ達が迎えに来てくれたら楽なのになぁ……。はぁ~~……」


 再び大きく嘆息をした後、ちらりと横に座る黒紫の少女を見た。


「この子も拾ってきちゃったしなぁ……」


 闇の神龍、ニーズヘッグ。

 虚ろな目を浮かべて、ジャラジャラと腕に繋がれた鎖をいじっている。


「……フロリア……、フレスに、会いたいの……」

「はあぁ~~……」


 さっきからそればっかりで、いい加減うんざりだ。


「私はウェイルの方に会いたいけどねぇ。私の誘いを普通に断っちゃうんだもん。失礼しちゃうよ」

「ウェイル……? 誰……?」

「蒼い龍の上に男が一人いたでしょ? あいつがウェイル。まさかあそこまでコテンパンにやられちゃうとはね」

「……ウェイル……いらない。……フレスにしか……興味ない……」

「そうだ! 二ーちゃん、私と取引しよ? もし二人を捕まえてくれたら、フレスの方を貴方にあげる! 代わりにウェイルは私がもらう。どう?」

「……フレス……くれるの……?」

「うん。あげる」

「……判った……。あの二人……捕まえる……」



 ウェイル達の知らないところで交わされた契約。


「ニーちゃん、期待してるよ! アハハ!」


 ――不気味な狂気を孕む笑い声が、小さくこだましたのだった。




―― 第一部 完 ――

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