ゾンビ軍団、襲来
続々と現れる死者の軍団。
その中には人間の姿もあれば神獣や魔獣もいる。
「魔獣のゾンビが多いわね。厄介だわ」
「私もナイフだけで戦うのはきつそうです。サラー、私の手を焼いて下さい」
「判った。歯を食いしばれよ! うらぁ!!」
イレイズの身体は、常人に比べ遙かに炭素成分が濃い。
したがってサラーの超高温の炎に焼かれることにより、その部分はダイヤモンド状に硬化する。
イレイズの腕はキラキラと輝きはじめ、硬化は完了した。
無論、その際に負う火傷の痛みは尋常ではない。だからこそ必要に迫られた時以外には使用はしない。
「……クッ……!! 何度やってもこの痛みには慣れませんね……!!」
ダイヤ化した腕をブンと振るうと、当たった瓦礫は粉々になった。
「あら、凄い特技を持っているのね。無駄にゴージャスだわ」
「本当に無駄なんですけどね」
焼かれた腕の感触を確かめてみる。
「……よし、動きます……!! サラー、アムステリアさん、奴らを一掃しますよ!!」
「当然だ!!」
「油断だけはしないでよね!」
ゾンビはその数を次々と増やし、すでに廃墟周辺には百体を超えるゾンビが集まっていた。
戦闘開始の火蓋を切るように、一体の魔獣ゾンビが飛び掛かってきた。
その勢いに乗じて集まったゾンビ達は一斉に三人へと襲い掛かる。
「全部焼き尽くしてやる!!」
サラーの放った巨大な火柱は、天まで焦がしかねないほど高く立ち上り、クルパーカーの空を真っ赤に染めていく。
「うらああぁぁぁぁっ!!」
火柱の勢いはサラーの怒号と共に激しさを増し、集まったゾンビ軍団を炭に変えていった。
「流石サラーです。私だって負けてはいられませんね!」
イレイズは硬化させた拳を握り、ゾンビ軍団に殴り掛かっていく。
ただでさえゾンビの腐敗した身体は脆いのだ。そこにダイヤモンドの拳をハンマーのように叩きつけていくのだから、ゾンビにとっては堪ったものじゃない。
拳を一発、脳天に振り下ろすだけで、ゾンビは文字通り屍となっていく。
「あら、なかなかやるじゃない。私も負けてられないわね」
アムステリアの蹴りの一撃一撃は、イレイズの拳以上の破壊力。
鎧をも砕くキックに、ゾンビ達は為すすべなく肉塊に帰っていく。
二人が破壊してサラーが焼き尽くした結果、ゾンビ軍団の半数以上を消し去ることが出来た。
しかし――。
「…………ぐッ!!」
目の前のゾンビを焼ききったと同時に、サラーの膝が折れた。
「……はぁ、はぁ……、くそ、身体が……!!」
額は汗で滲み、身体全体にだるさを覚える。
「休んでいる場合じゃないのに……!!」
ここしばらく毎日のように戦闘を強いられた。
また先程の龍殺し戦、およびニーズヘッグとの激しい空中戦。
まともに睡眠すら取れず戦い続けたサラーの身体には、本人の気力でどうこうできるレベルではないほどの疲労が蓄積されていたのだ。
「……まだだ! まだ動ける……!!」
強がりを口に出すものの、震える足は言うことを聞かず、立ち上がることすら出来なかった。
「サラー、どうしました!?」
イレイズがサラーの異変に気付き、肩を抱く。
「……す、凄い汗ですよ……!?」
「だ、大丈夫だ、まだやれるさ……!!」
イレイズに心配を掛けまいと立ち上がろうとするが、力が入らず何度も転ぶ。
起き上がることおろか、逆に眩暈で倒れてしまった。
「イレイズ! 後ろよ!!」
「……こんな時に……!!」
二人の隙を見て、敵が動かぬはずはない。
今度は翼を携えたゾンビが、二人の喉を噛み切らんとその牙をひん剥いてきた。
「世話が焼けるわね!!」
間一髪、アムステリアが飛び掛るゾンビを正面から蹴り飛ばした。
「油断しないでって言ったでしょう?」
「……た、助かりました」
「ちょっと貴方、大丈夫なの? 汗の量が尋常ではないわよ?」
「大丈夫だ……。少しだけ休めば……!!」
「何を言ってるんですか!! こんなに熱があるんですよ!!」
額を触ると、かなりの熱がある。
「……私が無理をさせたばかりに……!!」
「い、イレイズ、私に構うな……!! 敵はまだたくさんいる……!!」
「ですが!!」
イレイズが自分を責め、サラーの身を案じる間にも、ゾンビ達は続々と押し寄せてくる。
キリがなくこのままではジリ貧な状況の中、アムステリアは見たことのある姿を見つけた。
「お二人さん、悪いけどちょっといいかしら? 奴らのボスが到着したみたいよ?」
アムステリアの視線の先。
わざわざこのタイミングを計ってきたのか、イングが姿を現した。
「やぁ、裏切り者のイレイズ。あれ? そっちの龍はもうお疲れみたいだね? 何かあった?」
茶目っ気を含んだその笑い声は、イレイズの神経を逆なでする。
「……イング……!!」
「怖いなぁ、その目。あのさ、僕だって本当はこんなことしたくなかったんだよ? お前が悪いんだよ? 組織を裏切っちゃったんだからさぁ!!」
「裏切る……? いいえ、裏切ったつもりはありませんよ。元々仲間になったつもりはありませんでしたから。それにお前達は最初から私を嵌める算段をつけていたでしょう?」
「さあて、何のことか判らないなぁ?」
「治安局のことです。貴方は部下に治安局本部を襲わせたでしょう!? 全ての罪を私に被せて!!」
「さぁね。僕は知らないとしか言えないね。何せ証拠がないんだから。状況証拠から鑑みてお前が犯人だと治安局が判断しただけだよ。もし本当に僕らがやっていたとしても、証拠がないんだから、結局お前が犯人なんだよ」
「…………ッ!!」
イレイズは顔をしかめた。
その表情を見てイングはニヤリと楽しそうにほくそ笑む。
おそらくイングには、イレイズがさぞ悔しがっているように見えただろう。
(――そうそう貴方の思惑通りにはいきませんよ?)
心の奥底では、イレイズもイングと同じくらいほくそ笑んでいた。




