龍の弱点
『な、なんて力だ……!!』
二対一にも関わらず、ニーズヘッグの闇はフレス達の魔力と互角に渡り合っていた。
しばしクルパーカー上空で魔力は拮抗していたが、やがて均衡が崩れ、巨大な爆発が起こる。
その衝撃は山をも吹き飛ばしかねないほど強烈なもので、爆発直下の街の建物は破損し、半径1キロの範囲は窓ガラスが吹き飛んだほどだ。
フレスベルグは衝撃を直に受け、体勢を崩して急降下した。
「フレス!! 耐えてくれ!!」
『…………んんっ!!』
間一髪、フレスベルグは地に叩きつけられることなく、その直前で体勢を整えて浮かび上がる。
「な、なんとか助かったな……!」
『……ニーズヘッグめ……!!』
ニーズヘッグは爆発の影響などお構い無しに瘴気を撒き散らしていた。
「サラー達は……?」
サラー達もフレスと同様に吹き飛ばされてふらついている。
『あやつ、無事なのか……!?』
「あの消耗具合はまずいぞ。サラーはずっと戦っていたんだろう?」
『そうだ。サラマンドラの体力はもはや限界だ』
「イングって奴、相当狡猾だな。あんな切り札を最後まで隠していたとは……!!」
『勝負の定石といえばそれまでだがな。しかしどうする? このままではサラマンドラは……!!』
そうこう言っている間にも、ニーズヘッグは更なる瘴気を放出、サラマンドラを蝕もうとしている。
『ニーズヘッグ……!! 我ら神龍族の中でも、最も凶悪な力を持つ龍……!! 如何にサラマンドラとはいえ、厳しいぞ……!!』
「……龍……? ……ドラゴン……?」
『ウェイルよ!! 早く援護に戻らねば……!!』
「少しだけ待ってくれ! 今、何か頭に引っかかることが……!!」
(考えろ、ウェイル。……そうだ、相手はフレスと同じ龍だ)
「あるじゃないか……!!」
神獣の中で最も凶悪な魔力を持つとされる龍でさえも、簡単に倒す方法。
「俺はまだ、あれにトドメを刺していない!」
『ウェイル、いつまで待てばいい!?』
「もう大丈夫だ。見つけたぞ、フレス。あいつの弱点をな!!」
『なんだと……!?』
「あれだ!」
ウェイルが指差した先には神器『悪魔縛り』で身動き一つ出来なくなった龍殺しがいた。
「ニーズヘッグも龍だろう!? ならあいつの力は有効なはずだ!!」
フロリアが最後に残した置き土産。
それこそ一発逆転の切り札だ。
「こいつを奴にぶつけてやればいい!!」
『確かに有効だろうな。だがウェイル。そいつの力によって弱体化するのは我も同じ。この姿であれば奴を乗せて飛ぶことくらいはなんとか出来るだろうが、攻撃に転じることは出来ない。敵の攻撃を避けることすら困難だ。そんな条件の中、ウェイルはあの魔獣を、奴に向けて投げつけるだけの腕力はあるのか……?』
「……無いな」
いかに龍殺しを空まで運んだとはいえ、それをニーズヘッグに当てなければならない。
さらにこちらは運ぶ途中は完全に無防備だ。
敵にこちらの目的が知られた時点で終わりといってもいい。
チャンスは一度しかないはずであるし、そのチャンスを生み出すための力もない。
「……どうにかできないか……!?」
「――出来るわよ」
二人の前に、凛とした声。
血だらけのアムステリアが、そこに立っていた。
「アムステリア!?」
「私なら出来るわ。こいつを蹴飛ばすくらいわけないもの」
「確かにお前なら……!」
アムステリアのキック力なら、それも可能だろう。マリアステルでの事件でも、彼女のキック力に救われた。
「でもお前、全身血だらけなんだぞ!? 大丈夫なのか!?」
「今は私の身体のことなんてどうでもいいでしょ!! どうせ死なない身体だし、何よりクルパーカーという一都市の命運が懸かっているのよ!?」
アムステリアの言う通りだ。
今は躊躇している場合ではない。
何をおいても、まずニーズヘッグを止めねばならない時だ。
「……頼む、アムステリア!」
「いいわよ。テリアって呼んでくれたらね!」
「よし、早速龍殺しを運ぶぞ、テリア!!」
「ええ!」




