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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第四章 部族都市クルパーカー編  『戦争勃発、陰謀の末路』
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フレスとの約束

 フロリアの撤退は『不完全』側にとって想定外だったらしく、生き残った構成員は我先にと退却を始めた。

 当然プロ鑑定士協会がそれを許すはずもなく、サグマールをはじめ武装したプロ鑑定士達は残党の逮捕に奮闘していた。

 また、バルバードの命令により各地方へ送られていた援軍も続々と帰還し、戦局は圧倒的にクルパーカー軍の有利な状況になった。


「『不完全』構成員、確保しました!!」

「よし、これで残りは二人だけだ! 必ず捕えろ!!」


 サグマールの的確な指示で、次々と構成員を逮捕する鑑定士達。

 今しがた最後の二人の確保も無事を終え、残るは魔獣のみ。


「うりゃあああああ!!!」

「ギャアアゲガガエエガアアアア!!」


 フレスの手から巨大な氷柱が打ち放たれると、残る最後の魔獣を串刺しにした。

 魔獣は絶叫と共に、黒い体液をまき散らしながら息絶えた。


「やったぁ! 最後の一匹、倒したよ、ウェイル!!」

「これで『不完全』の計画も打ち止めだ」


 暴れ回る敵は全て鎮圧。

 戦場に残った魔獣は、神器『悪魔縛り(デモンズ・バインド)』によって拘束した龍殺し(ドラゴンキラー)一体のみ。


「龍殺しはどうするの?」

「こいつはプロ鑑定士協会に持ち帰る。龍殺しのサンプルなんて今までなかったからな。貴重な資料だ」


 解剖鑑定士によって、龍殺しの生態はとことん調べられるだろう。

 今後、龍殺しについて対策がなされることは間違いない。


「よし、『不完全』および、その魔獣は全て確保、始末した!!」


 サグマールの叫びに、兵士達は勝利の雄叫びを上げる。


「ウェイル! ボク達、勝ったの!?」

「ああ。どうやらそのようだ。サグマールが北、西地区の報告を受けたそうだが、そっちも無事で奴らの残党は皆無らしい。『不完全』の連中もあまり人員を割けなかったようだな」

「フロリアさんは?」

「さあな。魔獣に乗って逃げたが、あの様子だとしばらくは行動できないだろう。部下も全て逮捕したしな」

「あ、そうだ、サラーのこと!! サラーはたった一人で龍殺しに立ち向かっていったんだ!!」

「なんだと!? それでサラーはどうなった!?」

「わかんない。サラーとボクは互いに約束したんだ。龍殺しはサラーが、そしてボクはクルパーカー軍本部を守るって。……だから、それ以上のことは判らないんだよ……」


 相手は竜の天敵、龍殺し(ドラゴンキラー)

 いかにサラーとて、相性的に勝てる相手ではない。


「サラーとボクは互いに背中を預け合ったんだ! ボクはサラーの背中を守った! だからサラーだってボクの背中を守るはず! きっと龍殺しなんか一捻りにしているよ!」

「そうだといいんだが……」


 フレスは声こそ力強かったが、その表情は暗かった。

 サラーのことが心配で堪らないのだろう。

 現実、サラーは今ここにいない。

 最悪な結末も頭を過ぎる。


「フレス! サラーがいたところまで案内しろ!」

「うん! 急ごう!!」


 ウェイル達がサラーの元へ行こうとしたその時。


「お、おい!! 空を……!! 空を見てみろ!!」


 震える声で兵士の一人が叫んだ。

 何事かと、誰もが空を見上げる。

 ウェイル達も皆につられて空を仰いだ。 


「……ッ!?」


 その瞬間、ウェイルは絶句した。

 いや、ウェイルだけではない。

 勝利に酔いしれていた誰もが、空を飛ぶあるものを見て言葉を失っていた。


「――龍……!!」


 白い雲を引き裂くように一体の黒き龍が飛翔していた。


「フレス! あの龍は……!!」

「…………」

 

 フレスの動きが凍り付いている。

 その視線は空の龍に貼り付けられていた。


「フレス……?」


 フレスの様子が妙におかしい。

 髪が少し逆立ち、呼吸も荒く、顔中に冷や汗をかいている。

 何よりその表情は、ウェイルは胸を冷たくさせた。

 フレスと出会って以来、初めてだ。

 フレスの顔を見て、怖いと恐怖したのは。

 深い恨みを凝縮したような、そんな視線をフレスは空舞う龍へと向けていたのだ。

 握り拳に力が入り、震えているのが判った。


「……フレス……!!」

「…………」

 

 もはや聞く耳すら持ち合わせてはいない。

 想像を絶する殺気が、フレスの周囲にいる者を驚かせた。

 

(なんなんだ!? あの龍は!! それにフレスのあの表情も……!!)

 

 ずっと空を泳いでいただけの龍が、ここに来て大きく咆哮する。

 そうかと思えば、今度は輝く暗黒が、その龍を包み込んだ。

 その光景にウェイルはデジャヴを覚えた。

 

「ウェイル! 攻撃が来るよ!!」

 

 ずっと沈黙を続けていたフレスが、突如として大きく叫ぶ。

 ウェイルにも見覚えがある。

 あれは龍が魔力を放つとき時のモーションだ。

 光と共に魔力を溜めて一気に打ち放つという、サスデルセルでフレスのやったことと同じだ。

 空の龍が溜めているのは、光というよりは暗黒であるが、その照準はこちらを向いているはずだ。

 

「皆、逃げろ!!」

 

 ウェイルが叫んだと同時に、その龍は暗黒を解き放った。

 

「間に合わな――」

 

 闇が全てを飲み込まんと押し寄せてきた、まさにその時だった。

 

 巨大な炎の塊が、ウェイル達を守るかのように暗黒を打ち消したのだ。

 

「あの炎は……!?」

「サラーの炎だ! 無事だったんだ!! よ、よかった……!!」


 安堵のあまり膝を崩したフレス。

 一方ウェイルはというと、次なる龍同士の衝突に備えてクルパーカー軍に避難を促していた。


「サグマール、あれは龍だ!! 人間の敵う相手じゃない!! 皆、今すぐこの場から離れるんだ!!」

「ウェイル! お前は何故あれが龍だと知っているんだ!?」

「説明は後だ!! とにかく、今は逃げてくれ!!」

「お前はどうするんだ!?」

「俺は最後に逃げる!! だから急げ!!」


 ウェイルの指示により、クルパーカー軍およびプロ鑑定士協会は避難に急いだ。

 戦場に残ったのは、ウェイルとフレスだけ。


「サラーは空中戦を行っている。周囲に視線もない。俺達も援護に向かうぞ!!」

「……あのね、ウェイル。聞いて欲しいことがあるんだ」


 一刻を争うこの状況で、フレスが神妙な面持ちをしてそんなことを言ってくる。


「なんだ?」

「詳しいことは後で話すよ。でもね、これだけは言っておきたいんだ」

「ああ、聞かせてくれ」

「……ボクね、もしかしたら――約束を守れないかもしれない」

「……そうか」


 ――約束。


 それは教会都市サスデルセルで二人が交わした、「出来る限り人は殺さない」という約束。

 フレスはこれまで、この約束を頑なに守ってきた。

 そんなフレスが、それを反故にしてしまう可能性があるという。

 よほどの理由なんだろう。

 だからウェイルは敢えてこう言ってやった。


「心配すんな、フレス」

「……え?」

「俺が無理やり、約束を守らせてやるよ。何をしてでもな」

「でも! ボク、自信がないんだ!! あの龍の姿を見たとき、ボクは怒りで狂ってしまいそうだったから!!」


 フレスは憎しみを搾り出すような視線で黒き龍を睨んでいた。

 ということはフレスが言っていた復讐する相手というのは、あの黒き龍のことなのだろう。

 復讐相手が目の前にいる。

 それがどれほど心を荒れさせるか、ウェイルはよく知っている。


「大丈夫だ。今度は俺が止めてやるさ。あの時みたいにな」

「……あの時……?」

「お前は俺がサスデルセルで神父バルハーを殺そうとした時、全力で止めてくれただろ? それと同じように、今度は俺がお前を全力で止めてやるさ」

「……ウェイル……!!」


 ぶっきらぼうだけど優しい言葉。

 フレスは思った。


 ――ウェイルと出会えて、本当に良かった――と。


「よし、話はそれだけか!? なら急いでサラーを助けに行くぞ!!」

「うん!!」


 二人は、躊躇なく、自然にキスを交わしたのだった。


 ――ウェイルで良かった。フェルタリアの人は皆良い人で、本当に大好きだ――。


 フレスは、そう心の底から噛みしめていた。

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