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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第四章 部族都市クルパーカー編  『戦争勃発、陰謀の末路』
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リューリクによろしくね


「お姉様。私を舐めているのではなくて?」

「……ルミナス、まさかわざと……!!」


 ルミナステリアが見せた一瞬の隙。

 その隙は、ルミナステリアがわざと見せた罠であった。


「レイピアの大振りの隙を、お姉様なら見逃すはずはない。そうでしょ?」


 ルミナステリアの思惑通り、アムステリアはその隙に突っ込んだ。

 ルミナステリアがナイフを隠し持ち、待ち構えていたことも知らずに。

 生々しい音が響き、アムステリアは口から血を吐き出した。

 ルミナステリアのナイフは、アムステリアの左胸に深々と突き刺さっていたのだ。


「私、お姉様のことを少し過大評価していたみたいね」


 刺さったナイフは容赦なく引き抜かれ、傷から血が溢れた。アムステリアの血で、辺りは真っ赤に染まっていく。


「……くっ……、ル、ミナス……!!」


 アムステリアは、まるで糸の切れた人形のように、膝から崩れ落ちた。


「……あは、あはははは…………あーっはっははっははははははは!! これでリューリクが帰ってくる!! 今からお姉様の脳みそをかき出して、貴方に捧げるからね!! 待ってて、リューリク!!」


 ナイフを捨てて、レイピアの握り直したルミナステリアは、うつ伏せのアムステリアを見下した。

 周囲にいたクルパーカーの兵士達は、ルミナステリアの放つ殺気と狂気に肝を潰し、金縛りにあったかのように動けずにいた。

 そんな周囲のことなど一切構いもせず、ルミナステリアはアムステリアの髪を掴んで、刃先を首へ当てた。


「さようなら、お姉様。私、お姉様のこと、心の底から大好きだったわ。でもお姉様よりリューリクの方が好きだから。だから彼と私の為に……先に逝っててね」


 無情に振り下ろされたレイピアにより、アムステリアの首は宙を舞う――はずだった。


「――私も貴方のことが大好きだったわ、ルミナステリア。でも先に逝くのは貴方」


「――え……?」


 突如として全身から力が失われ、ルミナステリアは握り締めていたレイピアを落としてしまう。

 立っていることすら出来なくなり、ルミナステリアは重力に従って、その場で倒れてしまった。


「……な、何を……!?」


 自分が何をされたのか、理解が追いつかない。


「胸元を見なさい」

「…………!?」


 ルミナステリアの胸元には、何故かナイフが突き立てられていた。


「……ど、どうして、私にナイフが……!!」


 我が姉は胸を刺されて瀕死だったはず。


 (――そうだ。うつ伏せで倒れていたお姉様は、突然立ち上がって、そして――)


「私が、刺された……?」


 胸元に手を当てると、手は真っ赤に染まり鉄臭かった。そこでルミナステリアはようやくアムステリアの心臓のことを思い出す。


「――し、心臓……!?」

「そうよ? 私には心臓がない。代わりにあるのは神器。だって心臓は貴方が奪っていったじゃない?」

「……私ってバカね……。お姉様は死ねないってこと、すっかり忘れちゃってた……!!」


 アムステリアには心臓がない。

 代わりに神器『無限龍心(ドラゴン・ハート)』を埋め込まれ、その魔力で生かされている。

 逆に言えば、死ぬことが出来ない。


「……はは……、お姉さまに騙されちゃったわ……」

「それはお互い様でしょう?」

「それもそうね……、ゴフッ……」


 ――吐血。

 止め処なく溢れる血液を見て、ルミナステリアは笑っていた。


「私、死ぬのね……?」

「……ええ、死ぬわ」

「……や、やっぱり、そう、なんだ……」


 かすれすぎて声にもならない声を吐き出しながら、ルミナステリアは最後の言葉を紡いでいく。


「……お、お姉、様、……ごめ、ん、なさい……」

「いいのよ。貴方はとても頑張ったじゃない……」


 死にゆく妹の頭を抱き、アムステリアは優しく答えていた。


「……お姉様の心臓、私が盗っちゃったのよ……?」

「おかげで私が勝ったのよ? ある意味感謝してるわ」

「……でも、でも……」

「もういいのよ。ルミナス。もういいから。だからね――」

「――リューリクによろしくね」

「…………うん…………」


 ルミナステリアは息絶えた。

 周囲を血に染め、姉妹で殺し合うという壮絶な最後を遂げたが、それでもルミナステリアの顔は幸せそうだった。


 ――だって大好きなリューリクに、会いに行けたのだから――。


 妹の亡骸を抱き、アムステリアは一人涙した。

 彼女の小さい嗚咽は、戦場の音にかき消され、誰の耳にも入ることはなかったのだった。

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