姉と妹
「ルミナス。そこまでよ」
「お姉様。また私の邪魔をする気?」
また一人、兵士の首を掻っ切って、その返り血を舐めながらルミナステリアは振り返った。
「邪魔って。アンタこそ、いつまで過去の縛られてる気? いつまでイングに縋る気なの?」
「縋ってなどいないわ。イング様は本当に死者を生き返らせる神器をお持ちになっている。いつか必ずリューリクを甦らせてくれるわ」
「いい加減目を覚ましなさい!! 死者は蘇らないわ!! イングだけじゃない。誰だって、それこそ神様だって、死んだ者に再び命を与えることなど出来ないの!!」
「お姉様は今のリューリクの姿を見てないからそんなことが言えるのよ。リューリクの心臓は、もうすでに動き始めている。後は意識が戻るのを待つだけ」
「何言ってるの!! その心臓は私の心臓じゃない!! リューリクの心臓なんて、とっくに動きを止めてるわ!!」
アムステリアの悲痛な表情とは裏腹に、ルミナステリアはうっとりと惚けていた。
「……ねぇ、お姉様。お姉さまはリューリクのことを愛していなかったの?」
「……愛していたわ。貴方と同じくらいにね……」
「嘘よ!!」
突如、声を荒らげ豹変したルミナステリア。
「お姉様はリューリクのことなんてどうでもいいって思っていたでしょ? だからリューリクが死んでも泣き喚くだけ、いや、そんな演技をしていただけ!!」
「な、何言っているの……?」
意味の判らぬルミナステリアの主張。
その意味を理解するどころかこの妹が何を考えているのかさえ判らなくなってきた。
「本当に彼のことを愛しているのであれば、私みたいに何かしら行動を起こしていたはず! だって私達は『不完全』なのよ!? アレクアテナ大陸最高の贋作士集団なのよ!? だったらリューリク一人作り直すくらい、わけないわ!!」
「ルミナス! それは違う! リューリクは死んでしまった! でも、それは彼の運命だったのよ! 私達がどうこうしていいことじゃない!」
「お姉様は何も判っていないわ……!! リューリクだって、もう一度生き返って、私達と共に生きていきたいはず。私はその願いを叶えてあげたいだけ!」
「それは貴方の身勝手、わがままよ!」
「違うっ!! 彼の意思よ!!」
アムステリアは悟った。
もはやルミナステリアに説得は通用しないと。
だって彼女の目は、すでにリューリク以外見えていないのだから。
そのリューリクも、本物ではなく、ただの贋作。
「……ルミナス。最後にもう一度だけ言うわ。リューリクは二度と生き返ることはない。だから『不完全』なんか止めてしまいなさい。私と一緒に暮らしましょう?」
最後の希望を込めて、声を投げかけた。
しかし――。
「そうだ! 今度は誰かの脳を奪ってやれば、リューリクの意識は回復するかも!! お姉様の脳があれば、きっとリューリクは戻ってくるわ! ねぇ、そうしましょうよ! お姉様!」
「……ルミナステリア……!!」
この瞬間、アムステリアは腹をくくった。
ルミナステリアは今ここで止めなければならない。たとえ殺してでもだ。
ルミナスの気持ちは判らないわけではなかった。それこそリューリクが死んだ時、悲しみのあまり自分も狂ってしまいそうだった。
だから執拗にリューリクを想い続けるルミナステリアに同情を抱かないわけではなかったのだ。
しかし、すでにルミナステリアは完全に壊れてしまっている。
彼女を野放しにすれば、彼女のわがままのためにどれほどの被害者が出るか想像に容易い。
ルミナステリアの為にも、そして死んだリューリクの為にも、アムステリアはナイフを握る。
「ルミナス。私は今日ここで貴方を殺すわ」
「本当に出来るのかな? ねぇ、お姉様?」
ルミナステリアは機敏だった。
言うが早いか、アムステリアにナイフを投げてくる。
「――早い!!」
紙一重で躱すものの、今度はレイピアを抜き、一気に距離を詰めてくる。
「死んで、お姉様! 大丈夫よ、首から上は狙わないから! だって、大切な脳に傷がついたら使い物にならなくなるでしょ?」
ルミナステリアは巧みなレイピア捌きで、アムステリアを追い詰める。
アムステリアもナイフで応戦するが、いかんせんリーチに差がありすぎた。
「そんな小さいナイフでよく頑張るわね! お姉様!!」
圧倒的有利なルミナステリアだったが、そのせいか少しずつ挙動が大振りになっていく。
「もっと反撃してこないと面白くないわよ?」
「それもそうね」
大きく振られたレイピアを避け、その隙にルミナステリアの胸元へと飛び込んだ。
「ルミナス、先に逝ってなさい」
握りしめたナイフを、心臓目がけて突き立てた。
「――――っ!?」
しかし、アムステリアのナイフはルミナステリアには届かなかった。
それどころか、逆にアムステリアの胸に、深々とナイフが突き立てられていた。




