登場、プロ鑑定士協会!
「――いい加減黙りなさい。耳触りにもほどがあるわ?」
一人の女が、頭を抑えて絶叫する兵士の隣へ立っていた。
女は当てつけとばかりに、今剥ぎ取ったものをバルバードに投げつけてくる。
「――何を……!?」
バルバードの目前に落ちたもの、それは耳だった。
「あがあああああああっ!!!」
「うるさいわね」
痛みのあまり喚き散らす兵士を、女はゴミでも見るかのような視線を送り、そして。
「あ――」
手に持つナイフで、兵士の首を掻っ切った。
絶叫は止み、再びこの場は静寂に支配される。
兵士は、一瞬のうちに息絶えていた。
女の流れるようにスムーズな殺害に、一同息を呑むことしか出来なかった。
兵士の間に恐怖と戦慄が走る。それはバルバードだって例外ではない。
「あらあら、バルバード様? お身体が震えてますよ? 寒いですか?」
「…………!?」
フロリアに指摘されるまで、そのことにすら気づかなかったのだ。
歴戦の猛者であるはずの自分が恐怖に怯えている。
バルバードが初めて経験した、死の予感であった。
「ねぇ、フロリア? もう面倒くさいからさ。こいつら全員ぶっ殺してダイヤモンドにしてしまいましょうよ?」
女の冷徹な一言に、兵士達の士気は完全に砕け散った。
一人、また一人と逃げ出す者が現れる。
「待ってよ、ルミナステリア。彼らにだって主張はあるでしょう? 聞いてあげないと可哀想」
「フロリア。あんたの考え方って、どちらかというと『穏健派』に近いわよね? 私達は『過激派』なのよ? 本当ならもっともっと殺して、その頭蓋骨をイング様に捧げたいところなんだから」
「ルミナステリア? 私だって本当はこんな奴ら、さっさとぶっ殺したいんだよ? それでも一応彼らのことを考えてこうして交渉しているの。私って結構優しいでしょ」
もはやバルバードに手段は残されていなかった。
援軍は間に合わない。イレイズもいない。治安局も来ない。
ならばもう民を守る手段は、敵の要求を呑むことだけ。
煮え湯を飲まされているような気分だ。
だが、言うしかない。
「……判った。お前らの要求を――」
バルバードが決死の思いで、それを口にしようとした瞬間。
「その交渉、少し待ってもらおうか」
「…………ッ!?」
フロリアは、とっさに殺気を感じ、身を翻した。
何故なら凍てつく氷の刃を携えて、プロ鑑定士のウェイルが現れたからだ。
「ウェイル!!」
「久しぶりだな、裏切りメイド」
「想像以上に早く来たね……!」
「フロリア、どうかしたの?」
フロリアのフォローに入ろうとしたルミナステリアの前には、今度はアムステリアが立ち塞がった。
「アンタの相手は、私よ」
「……お姉さま……!?」
二人の後から続々と現れた、数十人規模の集団。
敵味方含め、場にいた全員が、その集団に釘付けとなる。
その中心にいた初老の男――サグマールが大きく叫んだ。
「我々はプロ鑑定士協会だ!! 贋作集団『不完全』を、恐喝、殺人、および違法品取引の容疑で逮捕する!! 覚悟しろ!!」
クルパーカーにとって救いの号令が、クルパーカーに轟いた。




