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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第四章 部族都市クルパーカー編  『戦争勃発、陰謀の末路』
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開戦の刻

 クルパーカーという都市は、東西南北四つの地区に分かれている。

 フレス達がいるのは護衛軍本部のある南地区。クルパーカーで最も人口が多い地区だ。したがって南地区は何があっても死守せねばならない。

 その為に、イレイズは大胆にも東地区全てを囮として利用したのだ。

 東地区の住民は一人残らず、北や西地区へ避難させ、いざという時に備えるように指示を出していた。


「元々住民の少ない東地区を攻撃されても、我々の被害は最小限に済みます。また情報戦という観点では、非常に有利になるのです。何せ本来、北、東、西からの三方向を監視しなければならなかったところを、二つまで絞り込むことが出来るのですから。一つ一つに人員をより多く投入出来るようになったことから、それぞれの守備も強化できます。空に上がる煙を見れば、敵がどの方向から攻めてくるかも、すぐに察知することが出来ます。これは増援を送る上で非常に有利です」

「全て同時に攻めてきた場合はどうするんだ?」

「その可能性は限りなくゼロでしょう。何故なら『不完全』は少数精鋭で攻めてくるはずだからです。クルパーカーを全制圧するためには人員が不足し過ぎています。彼らは個人個人としてみれば非常に脅威ですが、数で勝負すればこちらに分がありますら。攻めてくるとしても、ここ南地区は最後になるでしょう」


 バルバードの指摘は、概ね当たっていた。

 贋作士集団『不完全』は、少数精鋭のグループである。それに対しクルパーカーという都市は非常に広大だ。それら全てを同時に攻撃することは人員的に困難、いや不可能とも言える。


「敵は神獣を使役してくるよ? ボク達は本来の力を使えないし、多分奴らは『龍殺し(ドラゴンキラー)』を操ってくる。兵力は大丈夫なの?」


 フレスの心配事は龍殺し(ドラゴンキラー)の存在。

 王都ヴェクトルビアにて、その能力の厄介さは嫌と言うほど味わっている。

 ウェイルの根性、アレスの意地。そしてフロリアの機転がなければ、フレスはやられていたかも知れない。

 龍殺しのことは、すでにサラーには話してある。

 もっともサラー自身も龍殺しに殺されかけたばかりだ。


「確かに魔獣は脅威です。ですが我が軍にも神獣使いはおりますから、兵力に問題はありません」


 バルバードが胸を叩き、自信を持って言った。


「我々の情報によれば、『不完全』の連中は、北、西地区にすでに潜入している模様です。奴らが攻撃に出た瞬間、我々も仕掛けます」


 『不完全』の数はおよそ五十。

 それに対しクルパーカー護衛軍の数は、なんと八千。


「ここ南地区には四千。残りの二つに二千ずつ兵士を配置しております。かたや相手は数十。魔獣を含めても、敵の武力は兵士数に換算しておよそ千人分程度と見込まれております。兵力には問題はありません」


 圧倒的な数の差である。

 バルバードは馬鹿な男じゃない。如何に勢力で上回っているとはいえ、油断はない。

 だからこそ兵士千人分の武力と読んでいる相手に、その倍以上の勢力で構えているのだ。

 しかしこちらが有利だという認識は、少なからず持っているのも事実である。

 本人は自覚していないかもしれないが、『問題はない』という台詞が出てくる時点で、警戒する気持ちが多少薄れている。

 そのことを台詞や表情から読み取ったサラーとフレスは、互いに顔を見合わせていた。


「サラー、どう思う……?」

「問題ないわけないだろう」

「だよね。ボク達は本来の力を出せないし……。急いでウェイル達と合流しないと……!!」

「バルバードめ。数なんて意味を為さないということに気付かないとは」

「ボク、嫌な予感がするんだけど……」

「珍しく同感だ」


 不可解な不安が込み上げ、嫌な汗も出てくる。

 彼らは判っていない。『不完全』が相手である以上、警戒しすぎということは決してないことを。

 二人がコソコソと話していたその時、まさに嫌な予感が的中したかのような出来事が起きた。

 突如として部屋の扉が開かれ、一人の兵士が肩で息をしながら入ってきたのだ。


「報告します!!」

「何事だ!?」


 彼は一度大きく深呼吸した後、興奮冷めやらぬ大声で叫んだ。


「北地区、西地区の方角から戦闘による煙が上がっております!!」

「ついに奴らが動いたか」


 嫌な予感は、もう現実となったようだ。

 『不完全』の行動はあまりにも迅速で、想像よりも早く動き出している。


「皆の衆、よく聞け!! 敵は北、西地区で必ず止めなければならない!! 全軍、住民を守れる最低限の兵力二千を南地区に残し、残りは千ずつ北、西地区へ向かうのだ!!」


 バルバードの号令により、兵達は迅速に行動を開始した。

 すぐさま増援部隊が派遣されていく。

 各地区へ千人を派遣すれば、それぞれの兵力は三千。

 『不完全』は両方向から攻めてきている。

 敵も勢力を丁度半分に分けているとすれば、武力としては各五百人分前後。

 圧倒的な人数差で押しきれる。これは当初の作戦通りの展開でもある。


「この戦、必ず勝利できる!! いや、イレイズ様のためにも、必ずや勝たねばならない!!」


 バルバードの号令は、兵達の士気を高揚させるに十分な力強さがあった。

 またバルバードの兵力計算は非常に正確で、実際に『不完全』の持っている武力は、神器、魔獣といった要素を全て含めても、人数換算では兵士千人程度の力しかなかったのである。


 ――問題は、計算外の例外が存在したことを知らなかったことだ。


『数なんて意味を為さないということに気付かないとは……』


 サラーの言った意味。

 それを間もなく、バルバードは非常に大きい代償と引き換えに知ることとなる。


 部族都市クルパーカーの歴史上最大の戦争が、ついに幕を開けた。


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