Side:イレイズ 奇妙な組み合わせ
――とある汽車の一室にて、私は治安局員に囲まれていました。
「お、お前、もう逃げられんぞ!」
「観念しろ!!」
面白いようにことが進み、私は笑みを隠しきれませんでした。
「すみませんが、私は逮捕されるわけにはいかないのです。ですから見逃していただくわけにはいきませんか?」
私は親切気味に要求をいたしましたが、この態度に彼らは不服の様子。
「何ふざけたこと言ってんだ! おらぁ!!」
男が一人、私に向かって突っ込んでまいりました。
「捕まえてやったぜ! これで逃げられん!!」
彼は私の腕を掴み、そのか細い力で腕を締め上げているつもりのようです。
「……はぁ……」
思惑通りにことが進み、確かに嬉しくはあるのですが、ここまでやりごたえのない相手だと逆に退屈にもなります。
「まだまだ修行不足ですよ? えいっ」
「――ぐおッ!?」
私が腕を振り上げると、腕を掴んでいた男は吹っ飛んでいきました。
「貴様、よくも上官を……」
「ゆ、ゆるさん……!!」
彼の部下らしき二人が果敢にも剣を抜き、威嚇を始めた、その時のことでした。
「――お前ら、止めんかい!!」
「…………?」
むさくるしい男ばかりの中、一輪の可憐な花が咲いていました。
「このイケメ――じゃなかった。このクソ野郎の相手は私がする!!」
「ス、ステイリィ上官!!」
「相手は丸腰だ。剣なんか使って、もし死なせでもしたらどうする!?」
「は、はぁ……。しかしこやつは凶悪殺人犯。最悪の場合こいつを殺してでも確保しないといけないのでは?」
「黙らっしゃい!! 上層部はこいつを拘束しろと言ったんだ!! それ以上のことをしようとするな!!」
「し、しかし……」
「私の命令が聞けねーのか!? ああ!?」
「す、すみません!!」
彼女の鶴の一声で、二人は剣を鞘にしまいました。
どうやら彼らを傷つけずに済むようです。
「ここは私が奴と一対一でやりあう! お前ら、下がってろ!!」
どういうつもりなのか、彼女は部下を下がらせると単独で私に向かって突っ込んできたのです。
女性を傷をつけたくはないので、気絶させるために、彼女の後頭部に手刀を入れようとした、その時でした。
傍から見ると、私が彼女の攻撃を避けているように見えた、その瞬間。
「事情は分かっています。イレイズさん」
「――――!?」
彼女は、突如私の名前を呼んだのです。これには大変に驚きました。
「心配しないでください。私は味方です」
「ど、どうして?」
「私も詳しい事情は判りませんが……とにかくウェイルさんからのお願いですからね! 貴方を無事クルパーカーまで送って差し上げろと」
「ウェイルさんが!?」
彼女は一旦、身を翻すと、今度は私の顔面目がけて拳を振り上げます。
「そうです。だから私は貴方を守らなくてはなりません」
「どうしてそこまで!? 見ず知らずの私の為に?」
私が拳をひらりと避けると、今度は大胆に蹴りが飛んできました。
振りかぶった蹴りをギリギリのところで躱し、会話を続けます。
「別に貴方のことを信じているわけではないし、貴方がどうなろうと知ったこっちゃありません。ですが他ならぬウェイルさんからの頼みですからね。無下には出来ませんよ」
「そう、ですか……」
この時、私の心には嫉妬が生まれていました。
これほどまでに他人の信頼を取り続ける一人の鑑定士に対して。
それと同時に安心したことがあります。
(――サラーは無事、みたいですね)
そしてそれらの感情は全て感謝になりました。
(また借りが増えましたね。同じ借りを作るならとことん利用しましょうか)
「ステイリィさん、でしたよね? もしよろしければ人質になってはいただけませんか?」
見たところ彼女は若い。しかし、相当頭は良いようです。
「そういうことですか。判りました」
この場から私を都合よく逃がすには、自分自身が人質になるのが一番だと、とっさに判断してくれましたから。
「――使ってください」
ステイリィさんは、ポケットから素早くナイフを取り出すと、私に手渡してくれました。
「うおおおおおっ!! 覚悟~~~~ッ!!」
そして思いっきり、私に突っ込んできてくれたのです。
難なく躱して、その華奢な腕をがっしりと掴み、首筋にナイフを当てつけ、その姿を彼女の部下に見せ付けました。
「この方の命が惜しかったら、後ろの車両に戻りなさい」
「ス、ステイリィ上官!!」
「わ、私は大丈夫だ。私に構わずこいつを捕えろ!!」
「ですが上官の命が!!」
「私は死んでも構わん! さっさと捕まえるんだ!!」
彼女は演技も策略も、とても上手でした。
本人を目の前にして、本人の命などお構いなしに突っ込んでくる部下などいるはずもないのですから。
「私の要求は聞こえませんでしたか? 速やかに後ろの車両へと移って下さい」
「「……クッ…………!!」」
悔しそうに、おずおずと下がり始めた彼らを監視しながら、私達は前の車両へと移りました。
「……気は乗りませんが、やるしかないですね」
私は胸ポケットから小さな瓶を取り出すと、後ろの車両へと投げつけました。
小瓶は音を立てて割れ、そして――。
「逃げろ!!」
「爆発するぞ――うわぁあ!!」
巨大な爆発音と共に、私と治安局員を分断していた車両が吹き飛ばされました。
「じょ、上官!!」
「ステイリィ上官を返せ!!」
徐々に失速して姿が小さくなってゆく後部車両を望みながら、彼女を解放します。
「……ふう。全く過激な撒き方をするんですね」
「あまり乗り気ではなかったのですよ?」
「どうだか。どうしてウェイルさんはこんな人を助けろだなんて……」
ぶつくさふてくされるステイリィさんを見て、思わず苦笑してしまいました。
「な、何がおかしい!?」
「いや、今の今まで人質の演技をしていたのに、もう愚痴を垂れるほど余裕だなんて。貴方は大物ですね」
私の台詞に彼女は一度パチクリと瞬きをすると、顔を赤らめて睨んできました。
「うるさいやい! 本当に逮捕するぞ、てめぇ!!」
「すみません、ウェイルさんの友人には面白い方ばかりで」
「面白いだとう!? 可愛いの間違いだ!!」
ムキーと拳を振り回す彼女を見ると、少しばかりフレスちゃんに似ているなと思ってしまいました。
「さて、それではステイリィさん。詳しい話、お聞かせしましょう」
「当然だ!! いくらウェイルさんが信頼している人であっても、私が信頼するとは限らないんだからな!!」
「そうですね。それでは私の故郷、クルパーカーのことからお話しいたしましょう」
緊張感あふれる旅路に、奇妙な仲間が加わったのでした。




