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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第四章 部族都市クルパーカー編  『戦争勃発、陰謀の末路』
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一人きりのサラー

「……しかし協会が何の理由もなしに競売禁止措置を発令するなんて考えられない。何か心当たりはないのか?」

「そんなものあるわけないだろう!? とにかく突然だったんだ!! 今日から競売禁止措置が発令されるってな!! だからこそ皆がこうして抗議に来ているんだろう!?」


 贋作も影を潜めた現代に競売禁止措置が発令されるなんてこと自体、通常ではあり得ない。

 ましてや経済混乱を抑える役目であるはずのプロ鑑定士協会が、このようなことを率先して行うなんて正気の沙汰とは思えない。


「もしかして治安局員が多かったのもこれが原因か?」

「どうだろうな。だが、あの噂が少なからず絡んでいるとは思う」

「……どんな噂だ?」

「治安局の最高責任者が襲われたという噂だ」

「ハァ!? 最高責任者っていえば治安局のトップだぞ!? それがもし本当ならシャレにならない事件だぞ!?」

「あくまで噂だって。だが治安局が異様にピリピリしているのは誰もが知るところ。それが噂の信憑性を高めているわけだ」

「……なるほどな……」

 

 ――たった二日の間に発生した、二つの事件。


(……一体何がどうなってるんだ……?)


「……ねぇ、ルークさん。聞きたいことがあるんだけど」

「なんだい? フレスちゃん」


 ウェイルの隣で黙って考えを巡らせていたフレスが、ルークに尋ねた。


「競売禁止措置って、具体的にはどういう時に出すの?」

「そりゃ……えっと……、贋作が大量に見つかった時に……。お、おい、ウェイル。お前の弟子なんだろ? しっかり教えてやれよ」


 言葉に詰まったルークは、ウェイルに助け舟を求めた。

 

「説明しただろ? 贋作が市場に横行した時に――」


 ――そこでウェイルは気がついた。


「……贋作。まさかとは思うがもしや――」


 三人の間に重い沈黙が訪れた。

 ――皆、気がついたのだ。

 この事件には、もしかしたら裏で『不完全』が関わっているのではないかと。


(だが一体何故だ……?)


 ウェイルが不思議の思ったのはその動機だ。

 もし『不完全』がこの事件に関わっているのであれば、その裏には何かある。

 しかし今のウェイルには、その裏を推理するための材料が足りない。

 奴らがこれから何をしでかそうとしているのか、現段階では想像すらつかない。


「ウェイル。どうするの?」

「……とにかく情報収集が先だろうな……。サラーにも会わないといけないし」


 この時点で推理するのは不可能であるし、無意味とも言える。

 競売禁止措置の影響で、今マリアステル全体が大変な状況になっているが、二人には先にやるべきことがある。今はそちらを優先するべきだ。


「ルーク。俺達から競売禁止措置の解除を依頼してみる。だから少し待ってくれ」

「……頼む」


 ルークと別れた二人は、密集する人々を押しのけ、もみくちゃになりながらも入場受付へ向かった。

 前回の入場でトラウマになっていたフレスは、警備員の前を通り過ぎる度にビクビク震えていたが、今回はスムーズに入場手続きを終えたのだった。


「先に屋上へ行こう」


 現状をサグマールから聞き出したい気持ちもあったが、それよりもサラーの方が気になる。

 二人は焦る気持ちを抑えつつも、急ぎ足で屋上へ向かった。





 ――●○●○●○――





 二人が扉を開けて屋上に出ると、そこにはポツンと立っている見知った影が一つ。


「……来て、くれたのか……」


 赤い翼を羽ばたかせて纏うローブを脱ぎ捨てたのは、赤き炎の龍、サラーであった。


「サラー!! 会いたかったよ!!」


 言うが早いか、フレスは飛びっきりの笑顔でサラーに飛びつくと、


「う~ん、やっぱりサラーの頬っぺたは気持ちいいなぁ~、スリスリ……」


 と、案の定、頬ずりを始めた。


「ええい、フレス! だから邪魔だと何度言えば!」


 なんだかんだ言って嬉しげな表情を浮かべるサラーも相変わらずな様子だったので、少し安心した。

 懐かしい光景に苦笑を浮かべたウェイルだったが、そこにあるべき姿が一人足りないことに気づく。


「イレイズはどうした?」


 そう尋ねたウェイルであったが、この場にイレイズがいないであろうことは、ある程度想像していた。

 もしイレイズがいるのであれば、わざわざサラーが電信を送ってくる必要はない。

 そもそもサラーは馴れ合いが嫌いな性格だ。何の用もないのに電信を寄越すなんて有り得ない。そう考えれば、何かしらの事情があると察することは容易だった。

 ウェイルに尋ねられたサラーは、口を震わせながら答えた。


「……イレイズは……、今いない……」


 よく見れば衣服は汚れ、所々破れている箇所だってあった。

 全身ボロボロと言って差し支えない。


「一体、何があったんだ!?」

「……れた……」

「何だ?」

「……嵌められた! イレイズは『不完全』に嵌められたんだ!!」

「すりすり……って、え……!?」


 頬ずりしていたフレスも、驚いてサラーから離れる。


「どういうことなんだ?」

「私とイレイズは『不完全』と戦う為に治安局本部に行ったんだ。イレイズは治安局最高責任者レイリゴアと以前から親交があって、『不完全』と闘う為に協力を求めた!」

「治安局のトップと親交があるだと……!?」


 ――治安局最高責任者、レイリゴア。

 アレクアテナ大陸全土の治安を守る警察組織『治安局』のトップである。

 そんな人間と、イレイズはコネクションがあるというのだ。


「どうしてそんな大物と繋がっている!?」

「レイリゴアはクルパーカー出身だ」

「……そういうことか」


 おそらくレイリゴアという人物は、イレイズの現状をほぼ掌握しているのだろう。

 レイリゴアにしても故郷の王の依頼とあれば、喜んで動く気でいたはずだ。


「事件が起きたのは昨日だ。それは治安局が『不完全』に対してどう動くか、という密談の時に起こった」


 そしてサラーは、より詳しい説明を始めたのだった。

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