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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第三章 王都ヴェクトルビア編  『セルク・オリジン・ストーリー』
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不吉な急報

 ――宴の次の日。

 ウェイルとフレスの二人は、ステイリィが滞在している治安局支部へやってきていた。

 目的は今回の事件に関する詳しい報告。

 またプロ鑑定士協会へ提出する報告書の為の情報収集も兼ねている。

 今回の事件の裏には一体何があったのか、ウェイルは事の顛末を全て話した。


「――ということがあったわけだ」


 アレス王のこと、ハルマーチのこと、『セルク・オリジン』のこと。

 そして――フロリアのこと。


「……それにしても複雑ですね。まさかあのメイドさんがなぁ……」


 ステイリィも信じられないといった顔を浮かべていた。


「まさか今回の事件に『不完全』が絡んでるなんて予想だにしていませんでした。一体何が目的だったのでしょうか……? やっぱり『セルク・オリジン』?」

「いや、『セルク・オリジン』は持ち去られていない。持ち去られたのは『セルク・ラグナロク』だけだ。だが腑に落ちないのは、どうして『セルク・ラグナロク』を盗むためだけにここまで事件を大きくしたかだ。奴らの実力ならば美術館から直接盗むことだって可能だろう」

「確かに、あの『不完全』ですもんね。空間転移系神器(ワープクラス)さえあれば犯行は容易いでしょうから」

「それと気になる点がもう一つ。フロリアは言っていた。「今回の事件は準備だ」とな。実際フロリアは『セルク・ラグナロク』と共に5体の魔獣『龍殺し』を率いて姿を消したんだ。これから奴等が何をしでかそうとしているのか想像も出来ないが、必ず事件を起こすはずだ」

「不安、ですね……」

「ああ」


 二人が深く嘆息したとき。


「むぅ~、そんなこと言わないでよ~、ライラ~。ぐー……すぴーー……Zzzz……」


 ウェイルの背中から、なんともマヌケな寝言が聞こえてくる。


「……それでですね、ウェイルさん。その背中の生物は一体なんでございましょう」

「言うな。俺だって恥ずかしいんだ」


 マヌケな寝言の主であるフレスはというと、昨日の戦いで相当疲労していたようで今日は朝からずっと眠り続けている。

 寝ぼけ眼のフレスを王宮に置いていこうとしたのだが、フレスは駄々をこねてそれを拒否。

 結局連れていくことにしたのだが、やはり睡魔に勝てずに途中で夢の世界へ旅立ってしまったので、こうして背中でおんぶするしかなくなったのである。

 安らかな顔で眠りこけていながら、ウェイルを掴む手はがっしりと離さない。


「ずるいですよ! 私だってウェイルさんの背中に乗りたい! 押し倒したい!」

「意味変わってんぞ」


 ウウウと恨めしそうにフレスを見るステイリィだが、今回に限っては無理やり剥がすような真似はしてこなかった。


「……まあ今回はフレスさんのおかげで助かりましたし、譲ってあげますよ」

「どうした? 熱でもあるのか?」

「失礼ですね! ……今回フレスさんが消火活動に当たってくれなければ、この都市は今頃焼野原になっていましたよ。感謝しているんです。これでも」

「そうだな。こいつはよくやってくれたよ」


 此度の事件を解決へと導いた一番の功労者は、間違いなくフレスだ。

 『龍殺し』の能力で十分に魔力を奮えない中、懸命に働いてくれた。


「それにしてもウェイルさん。変なことを聞くのは百も承知なんですけど、この娘、一体何者なんですか? 手から大量の水を放出しているように見えましたけれど……」

「……そ、それはだな……」


 突然の核心をついてくる質問に、思わず言葉に詰まる。

 本当のことを言えないわけじゃない。

 ステイリィのことは信頼している。彼女ならフレスのことを話しても秘密を守ってくれるはずだ。

 おそらくステイリィだってこんな質問をしてくる以上、フレスが只者ではないと気付いているはずだ。

 だからこそ敢えてウェイルへ真相を問うているのだろう。


「……神器だ。体中に神器を仕込んでいるんだとよ」


 ――それでも尚、嘘をついた。


「そうなんですか」


 ステイリィは今の回答に納得はしていないだろう。声や表情からもそれが読み取れた。

 しかし、それ以上深くは追及してこなかった。

 むしろウェイルが嘘をついた理由を推測して、ウェイルに優しい笑みを投げかけてくれた。


「すまんな……」

「どうして謝るんですか?」

「……判っているだろう?」

「ウェイルさんは私を信頼していないわけじゃないんですよね? 私、それだけは判りますから、これ以上は聞きません」

「……すまんな」

「ここはありがとうって聞きたいですよ」

「……だな。ありがとう」

「いえいえ。これも未来の旦那様の為ですから」

「誰が旦那だ、誰が」

「すやすや……すぴーーーーー。くまーーーー、ガブッ」

「いてぇ!! フレス! 放せ!!」

 

 寝ぼけたフレスに首元を噛み付かれた。

 ウェイルの背中は思いの他心地よかったようで、豪快な寝相に寝言までかましてくる。


「……くま~~。もぐもぐ」

「首を噛み付くな!! 死ぬわ!!」

「うう~~~、やっぱりこの娘、何者なんだ~~!?」


 二人のやり取りに嫉妬の眼差しを送るステイリィ。

 そんなとき、彼女の元に一人の部下が走ってきた。


「ステイリィ上官、電信が届きました!」

「ん? どれどれ?」

「お隣の鑑定士様宛てなんですけど」

「え……? ウェイルさん宛てなの!? 本当だ。ウェイルさんがここに着たら伝えてくれってある。ウェイルさん、これ見てください」

「いてててて、……俺に電信?」


 はて、一体誰からだろうか。

 ウェイルはステイリィからそれを受け取り、ゆっくりと文章を目で追った。


「――――何!?」


 その衝撃的な内容に、驚きを隠せない。


「あ、あのー、誰ですか? ――サラーって人は……って、ウェイルさん!?」

「すまん、ステイリィ! 今回は色々と助かったよ。俺達はもう行くからな!!」

「ええ!? もう帰るんですか!? もっと甘い時間を楽しみましょうよ!!」

「断る! またな!」


 血相を変えてフレスを背負い、出て行ったウェイル。

 ステイリィはその様子を、ただただ呆然と見送るしかなかったのだった。


「……また逃げられた……!! ちくしょー、今日はやけ食いじゃああああ!!」





 ――●○●○●○――





「おい、フレス、起きろ!!」

「……むにゃ? もう朝ぁ……?」

「もう昼だ!! いいからさっさと目を覚ませ!!」

「むぅ、せっかく気持ちよく寝てたのに。どうしたの? 何かあった?」

「突然サラーから連絡があったんだ!!」

「……え!?」


 未だ半分夢の中に浸っていたフレスであったが、サラーの名前が出た瞬間に飛び起きた。


「ええええええええええええっ!? さ、サラーから!?」

「バカ、耳元で大声を上げるな!!」


 今の今まで寝ていたのが嘘だったかのような大声である。


「サラーが!? 一体、どうして!? 何かあったの!?」

「詳しいことは俺にも判らん。だがサラーは今マリアステルにいるようだ。とにかく、急いでマリアステルへ戻るぞ!!」

「うん、急ごう! ウェイル!!」


 突如届いたサラマンドラからの電信。

 内容はこう書かれていた。


『――話がしたい。プロ鑑定士協会の屋上にて待つ』と。


 突然の電信に嫌な予感が過ぎる。

 二人は急いでマリアステル行きの汽車へ飛び乗ったのだった。





 ――●○●○●○――





「ステイリィ上官! 電信がもう一つ届いています!」

「またウェイルさん宛て?」

「いえ、今度は上官宛ですよ。どうぞ」

「どれどれ……? ……――――ハァ!? これ冗談でしょ!? 一体どういうことなの!?」


 ステイリィが受け取った、もう一つの電信の内容。

 それはこれから起こる一大事件の開始を知らせる狼煙であった。

 驚きすぎて固まったステイリィの手からポロリと落ちた電信を、部下が拾って内容を呟いた。


「……治安局最高責任者、レイリゴア氏が――暗殺されました――!?」


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