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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第三章 王都ヴェクトルビア編  『セルク・オリジン・ストーリー』
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腹黒メイドの正体は

「アーッハッハッハッハッハッハ!! いやー、本当にびっくりしました! 噂には聞いていましたけど、まっさかここまで優秀な鑑定士だとは思いもしませんでしたよ!!」

「…………」


 フロリアの豹変ぶりに、不気味さで冷や汗が滲む。

 フロリアはひとしきり笑った後、今度は水を打ったように静かになり、そして低い声で告げた。


「そうですよ。私は『不完全』の一員です」

「やはりそうか」

「どうして判ったんですか? 私が『不完全』であると」

「理由はいくつかある。まずは贋作の『セルク・オリジン』。これを言っては元も子もないのだが、明らかに他の作品に比べて作風が荒く適当な感じがした。迫力がないと言ってもいい。俺も最初はシルグルの鑑定だからと自分を納得させていたが、どうしても納得できなくてな。しっかり鑑定してみると一瞬にして贋作だと見抜けたよ。よほど急いで作ったのだろうな。『不完全』の作品にしては粗悪な作品だ」

「悪かったですね。メイド業務の合間に一生懸命作ったというのに」

「そりゃご苦労様。メイド業務の片手間に作ったと考えたらいい出来だったかもな。前言撤回。よく出来た代物だ」

「全然嬉しくないお褒めの言葉をありがとうございます。それで、どうして私が怪しいと?」

「そりゃもっと簡単だ。この贋作をコレクションルームに飾り付けた者が一番怪しいのだからな。アレス自身は除外するとして、そもそもこのコレクションルームに怪しまれず入れるのはお前くらいしかいないだろう? アレス王の信頼を勝ち得ていたお前くらいしかな」

「あらら、確かに私くらいしかここへは自由に出入り出来ませんね」


 アレスは滅多に他人をコレクションルームに入れないと言っていた。

 となれば自由に出入りを許可されているフロリアが一番怪しいという訳だ。単に簡単な消去法である。


「次に美術館での事件。お前達がハルマーチから逃げた後、俺は館内でフレスと合流した。その時フレスは『シルグルさんが逃げてきた』と言ったんだ。これはおかしいだろ? 本来ならここは『フロリアさんとシルグルさんが逃げてきた』となるはずだからな」

「へぇ、それで?」

「その後すぐ、美術館が爆発したんだ。美術館内の火は、フレスが完全に消し止めたはずなのにな。それとフレスは美術館を見学したことがあってな。あることに気がついたフレスは言っていた。『さっき見た神器がいくつか無くなっていたよ?』とな。そうなると考えられることは一つ。お前、美術館の神器をいくつか盗んだだろ? そしてその証拠を消すために美術館を爆破した。違うか?」


 ウェイルの推理を聞いて、フロリアは手を叩いて笑った。


「アーーーッハッハッハッハ!! 凄い! そんなことまで判っちゃうの? その通り! いくつか欲しい神器があったから盗んじゃった! でもさ、それだけでは私が怪しいってだけで決定的な根拠はなかったでしょ? それはどうしたの?」

「美術館で戦ったデーモンだ。あれにつけられていた神器を見たら一目瞭然だったよ。あのデーモンは、一見ハルマーチに従っていたように見えたが、操っていたのはお前だろ? デーモンには精神操作系(スピリチュアルクラス)の神器が装着されていたよ。コントローラーであるお前のサイン入りの神器がな」


 美術館で拾った腕輪をフロリアへ投げてやる。

 フロリアは、カランと空しく音を立てて転がる腕輪を注視していた。


「なるほど。確かにこれはもう言い逃れ出来ないね」


 フロリアはその腕輪を拾い上げると、再びポイッと投げ捨てた。


「大正解。あのデーモンは私が操っていた。ハルマーチに従うように命令していたからね。当のハルマーチったら全く気付いていないし笑っちゃったよ。うまく利用させてもらったわけ」

「そのようだな。それに美術館のデーモンは『龍殺し』じゃなかったしな。以前一度見たことのある種族だったし、何よりフレスの氷が効いていたからな。あの時フレスが力を出せなかったのは近くに別の『龍殺し』を配置させていたんだろう?」


 ウェイルの問いに「さぁ?」と首を傾げるフロリア。


「私は『龍殺し』についてはあんまり知らないんだ。召喚したのはハルマーチだからね~」


 フロリアはイタズラがバレた子供が苦し紛れに笑うような、そんな顔をしていた。


「そっか~、全部見抜かれちゃったねぇ」


 ペロッと舌を出し、ウェイルにウィンクを投げかけてくる。


「ウェイルさん。貴方の推理は全部大正解!! 花丸あげちゃう! 今回の事件は全部、あの大馬鹿ハルマーチを都合よく操るために、全て私が仕組んだこと!」

「何故そんなことをしたんだ!?」


 改めて短剣をフロリアへ向ける。 

 だがフロリアは一切動じず、むしろ欠伸すらして余裕かましていた。


「何故って。そうだな~。あの人は準備って言ってた。何でも近いうちに大量の『龍殺し』と、神器が必要だってね」

「何のために?」

「そこまでは言う義理はないかなぁ~。いずれ判るよ。貴方には関係ないことだと思うけど」

「『不完全』が絡んでいる以上、無関係でいられるはずもないだろう。俺は鑑定士だぞ?」

「確かにそうだね! ま、それは今置いておくとしてさ。ウェイルの言うように『毒』を利用して『召喚』に必要な生贄を用意したの。どういうからくりか聞きたい?」

「いや、別にいいさ。お前らのやり方は大体想像がつく」


 『毒』によって死んだと思われた人々は、恐らくそこでは死んでいなかったはず。

 フロリアの言う通りであるならば、彼らは召喚術を行使するのに必要な『魔力源』とされたのだろう。


「『龍殺し』くらいの魔獣になると魔力燃費が悪いのよねぇ。ハルマーチってば代々錬金術師の家系だから、色々と悪いこと考えるの得意だったんだね。こっちが介入しなくても勝手にやってくれたよ」


 淡々と語るフロリア。

 その目には、今まで見たことも無いような狂気で満ち溢れていた。


「本当にハルマーチには感謝しているよ! おかげで大量の『龍殺し』が手に入ったんだから!!」


 その台詞の中の大量に(・・・)の部分に、妙な違和感と危機感を覚えた。


「ちょっと待て! 『龍殺し』は既にフレスが倒したはずだ!」

「そうだねぇ。こっちとしても二体も倒されたのは予想外だったよ。じゃあ一つ問題。『召喚』に描かれた悪魔は合計何体描かれていたでしょうか?」

「何……!?」


 ――思い出した。

 あの絵画には悪魔が七体も描かれていた。つまりは――。


「つまり後五体いるってこと! そうだよね、ウェイル!」


 フロリアの背後から五体の魔獣が現れた。

 頭には角を六本も生やし、薄汚い翼を広げる『龍殺し』。

 この醜悪な軍団は、すぐさまウェイルを取り囲む。


(……俺を殺すつもりなのか……?)


「大丈夫よ? 私、ウェイルを襲う気は全然ないから」


 ウェイルの考えを見透かして、フロリアの顔には自慢げな表情が張り付いていた。


「ねぇ、ウェイル。私、貴方のこと気に入っちゃったの。私と来ない?」

「バカ言うな!! 鑑定士を『不完全』に誘うだと!? ふざけるのも大概にしろ!!」

「ふざけてなんかいないけどね。まあまあ、ゆっくり考えてよ。近い内にまた会う気がするんだ!」


 『龍殺し』の上に跨り、窓を開けたフロリア。

 ここから飛んで逃げるつもりだ。


「待て!」


 当然逃がすつもりは無い。

 即座に神器『氷龍王の牙(ベルグファング)』を起動して、氷の刃を精製した。


「お前をここで捕まえる!」

「あらら、正気? この数相手に、普通は怖気づくと思うんだけどなぁ。でもそんな普通じゃないところも結構好きだよ!」

「舐めているのか!?」

「全然、舐めてなんかいないよ。さっきも言ったけど私、本当に貴方のこと気に入っちゃった。アレス様もいい男だったけどね。ちょっと知識不足で話していても物足りなかったからさ。それよりもね、ウェイル。この剣、下げてくれない? 女の子に刃物を向けるなんて良くないよ?」

「断る、と言ったら?」

「初めに言ったでしょ? 私、ウェイルを傷つけるつもりなんてないんだ。だけどね、どうでもいい人間なら、本当にどうなってもいいんだ。ねぇ、ウェイル、覚えている? 『セルク・オリジン』二番目の事件」

「二番目……?」


 『セルク・オリジン』二作目『兵の遊び』。

 確か王宮の兵士が市民を殺した事件だった。


「あの事件を起こした兵士さんってさ。とっても良い人だったの。愛想も良くて親切でね。だから奪っちゃった。彼の人生。私が神器で操ってさ! ハハ!!」

「……まさか……!!」


 ステイリィの話では、彼は記憶喪失になっていたと。

 記憶障害は精神操作系神器(スピリチュアルクラス)による典型的な後遺症であると聞いたこともある。

 記憶喪失のせいで、その兵士は酷い拷問を受けたと言っていた。


「フロリア、お前ッ!!」

「おっと、ウェイル。止めておいたほうがいいよ? 私はまだあの神器を持っているんだからさ! ウェイルがこれ以上何かしたら、私はアレス様を殺しちゃうよ? ほら、丁度今は宴の真っ最中。操れそうな人は沢山いる。だから早く刃を下げて? ね? お願い!」

「クソ……ッ!!」


 人の心を自由に操る精神操作系神器(スピリチュアルクラス)

 フロリアがこれを持つ限り、王宮の人間全てが人質ということだ。

 誰かに危険が及ぶのならば、これ以上ウェイルは手を出すことが出来なかった。

 仕方なく剣を下ろし、氷の剣を解除する。


「ありがとう、ウェイル。またどっかで会おうね。あ、そうそう、アレス様に伝えておいてね。今日でメイド、辞めるからってね。じゃあね――」

「――最後に一つ聞かせろ!」


 フロリアが飛び立つ瞬間、ウェイルが呼び止める。


「俺達がハルマーチを止めにこの王宮へ来たとき、お前は転がる亡骸を見て怒り、泣いていた。……あれは何の涙だ?」

「……そうだね。私にも不思議だったよ。どうしてか知らないけど悲しかったんだ。潜入していただけとはいえ、やっぱり長い間この王宮で暮らしていたからね。それなりに思うところはあったんだと思うよ……。ハルマーチがあそこまで残忍なことをするとも思わなかったからね。それでは改めて、じゃあね、ウェイル」


 フロリアはそれだけを言い残し、『龍殺し』と共に暗い空へ飛び立っていった。


「……ウェイル……。今のは……」

「アレス……?」


 ウェイルの背後にはアレスが立っていた。

 その顔を見るに、恐らく今の会話が聞こえていたんだろう。

 ウェイルはアレスに、今ここで聞き知ったことを包み隠さず伝えた。

 話を聞いたアレスは、ウェイルに背を向け、一人涙していた。

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