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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第三章 王都ヴェクトルビア編  『セルク・オリジン・ストーリー』
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フロリアの嘘

「……さて、本番はこれからか」


 アレス王の言葉で心奮わせた人々は、景気づけにと二度目の宴を始めたので、一足早く退席させてもらうことにした。

 何故ならウェイルには、まだ確かめねばならないことが残っていたからだ。


「予想が外れてくれたらいいんだがな」


 宴の音も聞こえぬほど、静かで薄暗い部屋。

 そんな中、ウェイルは虚空に問う。


「おい、いるんだろ――フロリア?」


 ウェイルがやってきたのは、アレス王のコレクションルームだった。


「いるのは判っている。出て来いよ」


「――へぇ、流石はウェイルさんですね。よく私がここにいるとお判りで」


 ランプ一つない暗い部屋の奥から、月明かりに照らされて見覚えのあるメイドの姿が現れた。


「ここで何をしていたんだ?」

「何って、アレス様のコレクションを眺めていました。だって私、ここにある芸術品が大好きですから。当然セルクの作品もね。だからここにいるのは普通でしょう?」

「そうか。なら訊くけどな」


 ウェイルはフロリアと視線を合わせて言い放つ。


「ここにあった『セルク・オリジン』。果たして全部『本物』か?」


 その言葉に、フロリアの眉はピクっと少しだけ動いた。


「何を言ってるんですか? 勿論本物ですよ。シルグルさんの鑑定結果だってあるんですから」

「確かに、シルグルなら鑑定にミスはしないだろうな。だが本当にシルグルが鑑定したのだろうか?」


 シルグルの鑑定は、これ以上にないほど正確だ。

 恐らくこのアレクアテナ大陸で、セルク作品の鑑定においてシルグルの右に出る者はいない。

 美術館の館長という立場から、他の誰よりも長い時間セルク作品に触れ続けている。

 彼の鑑定にミスなど考えられない。

 当然、そのことはウェイルだって百も承知だ。

 しかし、だからこそすり抜ける隙がある。

 何せアレス王は、シルグルとフロリアのことを心の底から信頼していたはずだろうから。

 それはつまり――。


「――お前はアレスに嘘をついたんだよ。シルグルに鑑定してもらったという嘘をな」


 ウェイルの指摘に、フロリアの表情が強張った。


「……貴方は一体何を言いたいのですか?」

「簡単なことだ。ここにある『セルク・オリジン』には、贋作が含まれているってことだ」

「贋作? アレス様の『セルク・オリジン』が偽物だと?」

「ああ、その通りだ。ナンバー604『毒』、ナンバー743『召喚』。この二枚は贋作だ」

「どうしてその二枚が贋作だと言うんですか!?」


 フロリアの言葉が段々と荒くなっていく。

 ウェイルは、お構いなしに話を続けた。


「いくらなんでも都合が良すぎるんだ。『セルク・オリジン』の中で、その二枚の絵画だけ、ストーリーの中に違和感がある。まるで異物が紛れ込んでいる感じだ」

「ストーリーの中に……異物……?」

「ああ。今回の事件にとって都合が良すぎるようにな。まあ一枚ずつ説明するさ」

「……是非お聞かせ下さい」

「まずは『毒』。いくら王が乱心したからといって、貴重な水資源である井戸に毒なんて撒かない。自ら服用してしまう可能性だってあるし、何より水は王にとって税を生む財産だ。そんな財産を自ら破棄するような真似を、いくら狂った王だとしてもするとは思えない。ならばセルクだって描きはしないだろう。そして一番気になったのが、次の『召喚』だ。これについては不可解なことだらけだ。何せ絵画がストーリーに直接関係していないのだから」


 セルクは自分の作品に常に完璧を求める。

 であればウェイルが今説明した違和感を、セルクが気にしないはずはない。


「……それはただ単にセルクの気まぐれでは?」

「確かに気まぐれの可能性だってある」


 無論、考えられないことではない。

 しかし、ウェイルはフロリアの指摘にこう返した。


「悪魔の召喚という行為を、絵画として描いたということも十分考えられる。セルクの作風は幅広いからな。だが問題はこれが『セルク・オリジン』だという点だ。『セルク・オリジン』は連作でストーリーが繋がっている。ならば後の作品に召喚した悪魔を登場させてもいいはずだ。特に六作目の『立ち向かう民』。あれほど書き込みの細かい絵画なのだから、もしストーリーが繋がっているのであれば悪魔の一匹や二匹、描かれていても不思議じゃない。だがあの絵画には悪魔なんて一匹も描かれていなかった。これは不自然極まりない」

「……どう不自然なんですか? それこそセルクの気まぐれかも知れません」

「だから言っただろ? セルクは完璧を求める。セルクが七枚で一つのストーリーを書き上げた以上、それらは必ず関連ついているはずだ。だがこの二枚にはその関連性が見当たらない。そう考えると、この二枚は贋作であるとする方が、鑑定士的にはつじつまが合うし説得力もある」

「だから! それはウェイルさんの個人的な意見でして!」

「そうだな。確かに俺個人の意見だ。だが残念ながら、あの二枚が贋作だという確信があるんだよ」

「……え!?」


 酒の席でシルグルに確認したこと。


「シルグルは言っていたよ。「私が直接鑑定したのは『王の乱心』、『兵の遊び』、『燃え盛る都市』、『王の最後』だけですってな。後はフロリアさんが他の鑑定士さんに鑑定してもらっていました」ってな。アレスにはシルグルに鑑定してもらったと嘘を付いて贋作を紛れ込ませたな?」

「――!?」


 フロリアが目を見開いた。

 その目はシルグルの証言が事実だということを、如実に物語っていた。


「贋作を用意すれば、その贋作通りにどこかの馬鹿が行動してくれる。つまり『セルク・オリジン』のストーリーを改変してしまえば、その馬鹿を自由にコントロールすることが出来るということだ。そして今回の事件。まさしく絵画通りに再現が進んだ。偽のストーリー通りにな」


 ウェイルは腰の短剣に手を置いた。


「そうだろ? ――『不完全』のフロリアさん?」


「…………フフ、アハハハハハハッ!!」


 フロリアはしばらく俯いていたが、全てを見破られたと悟ると、大声で笑いだした。

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