表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第一章 教会都市サスデルセル編 『龍の少女と悪魔の噂』
10/763

凄腕のオークショニア、ルーク

 ウェイルはラルガ教会から帰りに、友人の経営しているオークションハウスへ寄ることにした。

 オークションハウスと一概に言っても、言葉だけで言えば一種の商売形態の一つなのだが、このアレクアテナ大陸においては経済の中心を担っている存在になっている。

 ハウスの運営も、個人から商業組合、中には王族・貴族が運営しているところもあり様々である。

 毎日昼夜問わず競売は行われ、オークショニアの声が飛び交うと共に、膨大な貨幣が動いているのだ。


「久しぶりに行くが、まさか潰れちゃないだろうな」


 オークショニア業界は、非常に厳しい競争社会としても有名で、客入りの悪い不人気なオークションハウスは、すぐさま撤退を余儀なくされる。

 他ハウスに客を取られるばかりか、虎視眈々と詐欺行為を狙う連中に食い物にもされかねない。

 積極的に集客キャンペーンを行ったり、不正排除を徹底していなければ、競売参加者から信頼されず、生き残るのは難しい。


「どうやら上手くやってるようだな」


 三年ぶりに訪れた懐かしきオークションハウスは、以前にも増して参加者で賑わっていた。

 このオークションハウスが客から信頼されている何よりの証拠だ。

 客を避けながらハウス内を探索していると、目的の人物が腕を組みながらオークションの様子を見守っていたので声を掛けた。


「おい、ルーク。元気にしていたか?」

「ん? ……おお!? おお!! ウェイルじゃねーか! 久しぶりだなぁ!」


 ウェイルの背中をバンバンと叩く、あご髭を伸ばした短髪の男。

 彼の名は『ルーク・ハリアウィークス』といい、この都市を拠点として大陸各地にオークションハウスを展開している『ハリアオークション社』の経営者である。

 若くしてオークションハウスを設立し、成功を収めたやり手のオークショニアだ。

 非常に気さくな性格でノリも良いのだが、競売に関しては一切の妥協をしない。

 仕事とプライベートをきっちりと分けている、ウェイルの信頼している人間の一人だ。


「なかなかに繁盛しているじゃないか」

「ぼちぼちってとこだ。最近は降臨祭の影響で客が増えている。ま、一時的なものだけどな。立ち話もなんだ、こっちへ来いよ」


 ウェイルは三年前までこのオークションハウスで専属の鑑定士をやっていた。

 だからオークションを用いた取引を行う時は、ルークの経営するオークションハウスを利用することが多い。

 ルークは自分の部屋にウェイルを招きいれてくれた。


「突然帰ってきやがって、連絡の一つでも入れろよ。迎えに行ってやったのに」

「ああ、悪い。次からは連絡を入れるよ」

「それで今回は一体どうしたんだ? まさか、またうちで働いてくれるってか?」

「魅力的な提案ではあるけどな。残念だが別件だ」

「いつでも帰ってきてくれていいぞ。お前ほど優秀な鑑定士は滅多にいないからな。まあ座れ」

 

 ルークは大きなソファーに腰を掛け、ウェイルにも座る様に促してくる。

 ルークの部屋は、流石社長と言うべきか、高価な家具で溢れている。

 この革張りのソファー一つにしても相当な値打ちものに違いない。

 見渡せば部屋にある家具や食器もアンティーク品ばかりだ。

 日々高級アンティークを鑑定して見慣れているウェイルすら、少しばかり慎重になってしまう。


「儲かってんだな。以前より高級品が増えている」

「そりゃ儲からねばオークショニアなんてやらないね。それで、今回はどういった要件だ?」

「珍しい絵を手に入れたんだ」

「ほほう。是非見せてくれ」


 ウェイルは今しがた手に入れた龍の絵画を披露する。

 ルークはその絵を覗き込んで、しげしげと見定め始める。


「ふむ。こんなタッチの絵画は見たことがないな。誰の絵だ?」

「それが俺にも判らないんだ」


 バルハーから入手後、ざっくりとだが絵画全体を確認してみたものの、やはり作者のサイン等はどこにも見当たらなかった。

 しかし今改めて見ても、なんと高揚感に包まれる絵画なのだろうか。


「正直自分でも驚いているんだが、どうやら俺はこの絵画に圧倒されたらしい。凄まじい力のある絵画だと、一目見た瞬間に絶句してしまったほどだ」

「プロ鑑定士のお前が? そりゃ珍しいな。俺にはあまり良い絵には見えんが」

「そこなんだ。元の持ち主ですら乱雑に扱って埃を被せていたくらいだからな。技巧的な意味でも普通の絵画だ。だが俺はこの絵が気になって仕方がない。だからこそ鑑定料の代わりに貰ったくらいだ。俺自身どうしてそんな提案をしたのかよく判らん」

「へぇ。そこまでか。いいじゃねーか。鑑定士だってそういう時はあるさ。気に入った代物はどれだけ大きな代償を払ってでも手に入れる。コレクター魂だな。しかしお前が気に入って鑑定料を捨ててまで入手した絵画だろ? もしかしたら相当名のある画家の作品なのかもな」

「どうかな。名前はどこにもないし、特別に上手な絵ってわけでもない。それでもこいつは凄い、何かあると素直に思った。こんな感覚は久しぶりだよ」

「直観って奴か。う~ん、お前がそこまで褒める絵だ。もしかしたら何かあるのかもな。しかし作者が不明で、さらにこの保存状態。ここまで状態が酷いと、そうそう高くは売れないぞ?」

「いや、売る気は全くないんだ」

「オークションハウスに絵画を持ち込んで売る気はないと来たか。ならば何をしに来たんだ?」

「精密な鑑定がしたくてな。鑑定機材を貸してもらおうと思ったんだ」

「なるほどねぇ」


 ルークのオークションハウスには、以前ウェイルが使っていた鑑定道具がたくさん置いてある。

 当然鑑定に必須な代物は持ち歩いているが、大掛かりな装置となればそうはいかない。

 ウェイルがここを去った後も、ルークは処分せずに残してくれていたのだ。


「お前の鑑定機材だ、自由に使ってくれよ。俺も久々にお前の鑑定を間近で見てみたいし、お前の惚れたその絵画についても興味がある。手伝うよ」

「頼む」


 ルークは鑑定道具一式や顕微鏡を取り出し、ウェイルは額から絵を取り外した。

 二人は手袋を着けて、ゆっくりと慎重に絵の鑑定を開始した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ