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第七話 ハッタリとか出来んし

「なんだい、その不快な音声は……。君が手にしている板が喋っているのかい」


 アスタロトがようやくそれだけを搾り出した。

 眉がひくついている。

 思ったよりも黒貴族というのは感情的なんだな。

 

『イエイエ、私ガ入力シテルアプリガ喋ッテイルンデスヨー。コレデナイト、会話トカ出来ナインデスー』

「そ、そうか。まあそう言う人間もいるのかもしれないな。だがなんとも癇に障る声だ……」

『ソレデアスタロトサンノ用件ハナンデスカネー』

「おお、そ、そうだった」


 ここでアスタロトはハッとした顔をした。

 どうやら俺のペースに呑まれていたようだな、フフフ。全然そんな効果狙ってないんだけど。


「私としては、賢者セブンの登場は想定外なんだよね。我々黒貴族は千年単位の計画を立てて物事を進めているわけ。そこに人間たちが足掻いて計画を狂わせようとするのは大歓迎だけど、招いてもいない君のような異分子が現れて、計画を引っ掻き回すのだけは勘弁して欲しいんだ」


 彼は至極真面目な顔でそれだけ言うと、俺に向けて指先を突きつけた。


「私の予見魔術が君の行動だけは全く見る事ができない。早い話が、君は危険過ぎるので死んでくれないかな」

「アスタロトぉぉ!!」


 ジャスティーンが叫び、手にした槍を振り回した。

 ゼパルも鎌を携えて、身構える。

 一気に議場は一触即発の空気となり、俺とアイナはしめやかに失禁した。


「おやめなさい、ジャスティーン。悪魔たちも分かっているのでしょう。ここは擬似的に繋がった会議場。お互いに手を届かせる事などできません。それに、あなた達はベルゼブブの顔に泥を塗るつもりですか?」

「まさか。そのつもりは無いよ」


 アスタロトはおどけて見せた。

 聖王女は彼を厳しい目で見つめる。

 もう、この会談いや。すっごく空気が悪い。


「私からの要求は一つ。そこにいる賢者セブンが、私の提案するゲームに乗ってくれないかということさ。本来、こういった遊戯はベルゼブブの専売特許なんだが……彼自身が別の些事に掛かりきりになってしまってね。私が引き受ける事になってしまったという訳だ」

「ゲーム……? ふざけた事を……」

「ゲームの景品は、魔弓使い、”千里眼のエドガー”を賭けよう。君たちはセブンの首を賭けてくれればいい」

「エドガーを……!?」


 ざわりと場が揺らいだ。

 どうやらビッグネームらしいぞ。

 多分そいつも勇者で、ジャスティーンのように黒貴族に封じられているんじゃないだろうか。

 で、それを俺が何かゲームに付き合えれば解放すると。

 俺が負けたら俺が死ぬと。

 そんなんいややー。


「私が所有する迷宮が一つある。それを攻略してくれたまえ。人数は幾ら連れて行っても構わないが、勇者が中に入ると崩落するように作ってある。なるべく強くない仲間を連れて行くことだね」

「なんと身勝手な……。ですが、エドガーを取り戻せるのは本当なのですか?」

「我らが魔王の名に誓って、約束は違えない」


 笑いながら、アスタロトは魔王と口にした。

 次の瞬間、議場のテーブル中心に、羊皮紙が出現する。

 それは契約書だった。

 ゲームのクリアによって、エドガーを解放する。人間側がBETするのは俺の命だ。


「さあ、どうする、セブン? 君の返答しだいだ」

「賢者様。受ける必要はございません」

「セブン、騙されるなよ!」


 勿論断るに決まってる。

 俺はスマホの合成音声を、再びフリック入力で発そうとして……。


「あうう、いい加減下着が冷たいですー」


 アイナが俺の腕を掴んでもじもじしたので、指が滑った。

 うおお、やべえ、予測変換だ!!


『超余裕ッスヨー。消化試合ミタイナ感ジー』


 なんでこんなもん入ってるの!!

 アスタロトのこめかみに、ピキキッと青筋が立ったのが見えた。

 黒貴族マジ切れ。

 そして俺のこの誤変換のせいで、契約書は契約成立と判断したらしい。

 エキサイティング翻訳によると、俺とアスタロトの誓いが刻まれたようだ。

 うひー、これもろに悪魔との契約じゃないですかー。


「本当にいいのですか、賢者様」

「セブン、お前と言う奴は……頼りがいがある奴だ!」

「ふむ、セブン殿は余裕だと仰るのですな」


 聖王女が、ジャスティーンが、アイオンが俺を持ち上げる。

 やめろ。


「万魔の賢者セブン……その大口、後悔することになるよ。私の迷宮は未だ誰も踏破できぬ、難攻不落。君の墓場となることだろう……!」

「おたく死んだよ。あーあ、もうおしまいだね」


 アスタロトとゼパルがこっちを煽ってくる。

 特にアスタロト激おこである。

 こええー。


 悪魔側が一方的に通信を遮断する形で、会談は終了となってしまった。

 俺はしばし呆然とする。


「さすがセブン様ですよ! 黒貴族相手にあれだけの大口を叩けるなんて素敵!!」

「アイナさんが俺を押したせいで誤変換したんですけど!!」


 もう大変な事になってしまった。

 俺は勇者エドガーを救うために、アスタロトが用意した難攻不落の迷宮を攻略しなければならない。

 しかも、そこに勇者ジャスティーンを連れて行けないのだ。

 そこまで強くない仲間で迷宮攻略。俺はコミュ障で初対面の仲間なんかとコミュニケーションは取れないから、戦闘力皆無で俺の翻訳だけが特技のアイナが必須。

 仲間集めだってこれからか!?

 しかもパンツが濡れて冷たいし!


「では、早速、賢者様に従う仲間たちを集めねばなりませんね」


 聖王女セシリアが宣言した。

 なし崩し的に、俺のダンジョンアタックが始まる。

次回予告

次々集う、微妙な能力しかない仲間達。

そして作品はハーレム的様相を呈するメンバー構成になっていくが七郎はコミュ障なので進展しないのである!

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