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第六話 アスタロト会談

 俺はグレートホーリーの最上階へと案内された。

 何故かアイナもいる。

 先導するのは騎士達とアイオン。そして俺の背後にジャスティーンだ。

 そして、螺旋階段は、アイオンが足を乗せると、薄く緑色に発光した。ゆっくりと動き出す。

 どうやら、最上階への階段は、魔道エスカレーターになっているらしい。

 これも悪魔から授けられた技術と言うわけだ。


「うわああー! 階段が動きましたよー!!」


 アイナが驚いて俺にしがみついてくる。

 この子は胸が薄いから肋骨が当たって痛い。でもそういうアクション、おじさんは好きだぞお、結婚したい。


 俺達はのんびりとエスカレーターに搬送されて最上階へ到着する。

 これはアイオンの魔力によって動いているのだそうだ。人間は誰でも魔力があるそうだが、ある一定以上の魔力が無ければ、魔道具……いわゆるマジックアイテムだとか、こういう魔道器具は動かないのだと。

 一般性が無いから、こういう場所にしか使われない事になる。

 悪魔ってのは、ネームドと呼ばれる固有名詞を持った上位の個体なら、全てが桁違いの魔力を持っているから、こういう魔道器具を当然のように扱えるのだそうだ。


 さて、最上階の扉を開く。

 グレートホーリー最上階と言うと、外側からは、聳え立つ高さ百メートルを超えるような物見の塔に見えた。

 それが、中に入ると広大な空間になっている。


「この空間を歪めてあるのだ。塔の一室は、今、ラスベリアの会議室と一体となっている」

「ラララ、ラスベリアっていうと、享楽と悪徳の都」


 俺がついさっき読みふけっていた文献に登場する都市だ。

 人も悪魔も分け隔てなく訪れる事が出来る、中立都市である。

 カジノギルドが支配している都市国家で、その名の通り、巨大なカジノが存在する。その他、この世界に存在するありとあらゆる娯楽と快楽が詰め込まれていると言う話だ。それだけに闇も大きいのだと。


「そう言うことだな。あの会議室は悪魔どもであっても利用する。そして中立の立場だ。こうして非公式に、国家のトップと黒貴族が会談を行う時などに使用する」


 果たして、屋内にいるのはたった一人。

 彼女は振り返ると、その美しい顔に微笑を浮かべて見せた。


「お待ちしておりました、万魔の賢者セブン様」

「セシリアさん……!」


 聖王女セシリアである。

 この場には、国家のトップが立ち入る。

 つまり、聖王国のトップは国王ではなく、この聖王女なのだ。

 かつて聖王国を築いたという聖王女。その名を受け継いだセシリアは、特別な存在なのだろう。

 とりあえずこの部屋が凄いのでパシャッと撮影しておく。


「……なんか変なのが写った」


 俺のカメラアプリには、誰もいないはずの対面の椅子の近くに、ヤギの角を生やした長身の男が、大きな両手持ちの鎌を手にして立っているのが写っている。しかもそいつが半透明なのだ。

 グググール画像検索をすると、”第十六柱 ゼパル”と名前が出る。

 うわあああああああこいつネームドだあああああ!!

 多分、アスタロトが会談するというので、覗きに来たか護衛に来たのか。


 俺に見破られた瞬間、悪魔ゼパルの使っていた透明化の魔術が解ける。

 奴は不思議そうな顔をして己の姿を見た後、俺をじっと見つめて顎に手を当てた。


「なるほど、おたくがアスタロトの気にしていた賢者か。全く魔力の動きを感じなかったと言うのに、不思議な魔術を使う……。これは厄介そうだな」


 楽しげに言い、俺にしがみつくアイナをちらりをみた。

 アッーーーー! アイナがしがみつくスカートの下辺りが生暖かいぞ! 漏らしたなお前ー!


「ひええええええ、セブン様、悪魔ですよぉーーーーー」

「いやいや、なんか明らかに理性的じゃん。それにこれは会談だから手を出してこないって、多分」

「ええ、賢者様の仰るとおりです。悪魔と言えど、ラスベリアの会議室で騒ぐ事はまかりなりません。ラスベリアは、かの黒貴族、”遊戯王 ベルゼブブ”が中立と定めた都市なのですから」


 ほうほう。

 ベルゼブブと言えば、黒貴族筆頭に数えられる実力者だったはず。


「おお、随分と盛り上がっておいでのようだ」


 優雅な声が響く。

 会議場中心には巨大な円卓。それを挟んだ向こう側の扉が開き、銀髪の男が姿を現す。


「アスタロト……!!」


 ジャスティーンが握り締めた拳を震わせる。

 そいつは、一見すると実に善良そうな男だった。表情は柔和で知性を感じさせる。間違いなく美形と言っていい顔立ちで、背は180センチ弱。ゆったりとした白いローブをまとっていて、一見すると聖職者のようにも思えてしまう。

 その印象を裏切るのは、右腕に巻きついた、毒々しい緑の蛇。


「やあ、君はジャスティーンか! ハハハ、一年ぶりだなあ。まだ生きていたとは、流石は勇者と言ったところか」


 奴は余裕の表情で笑いながら、席に着いた。

 そして、横に突っ立っているゼパルを見て、訝しげな顔をする。


「何で君がいるんだ」

「面白そうだったので忍び込んでしまったのだが、あの賢者が俺の術を解いたぞ。これは面白い」

「ほう……!」


 黒貴族が一角、”中傷者 アスタロト”は俺を見て、爛々と目を輝かせた。そんな目で見るのやめてえ!


「アスタロト、あなたがこの会談を望んだのは、賢者様が狙いですか? あなたがいかに恫喝しようと、我が聖王国は賢者様を差し出すつもりはありません。場合によっては、第十四次人魔大戦の切欠となることも辞さぬでしょう」


 セシリアが、口火を切った。

 

「なんとも直接的な物言いだ。聖王女殿下は言葉遊びがお嫌いなようだね。こうして久方ぶりの逢瀬なのだから、もう少し時候の話題などで場を華やげてはいかがかな?」

「悪魔と談笑する言葉など持ちません」

「あなた方人間はいつもそうだね。生き急ぎすぎなのだ」


 アスタロトの手元にティーカップが出現する。

 彼はまだ湯気を立てるその中身を、軽く煽った。僅かに見える液体は紫色をして、どろりと粘っている。


「今すぐ貴様の元へ攻め寄ってもいいのだぞ!」

「落ち着けよジャスティーン。君たちには未だ、我が幻魔城塞に辿り着くすべなど無いだろう?」


 ”幻魔城塞”でグググール検索。

 お、出た出た。

 なになに?


「えーと、魔術的な手段で存在を不確定化し、世界と世界の間に揺蕩うアスタロトの城、かあ。え、近いじゃん」


 俺がぼそぼそ言っていると、凄い視線を感じる。

 え、と思ってスマホから顔をあげたら、アスタロトとゼパルが目を見開いて俺を見ている。


「君……それをどうやって調べた?」

「あ、う、あいや、あの、その」


 いきなり話しかけるなー!!

 俺はテンパってしまう。


「おおおおおお、落ち着きましょうセブン様、ほら、し、し、深呼吸して、ひっひっふー、って、ひっひっひっひ……かひー」


 あっ、アイナが過呼吸になった!

 隣りにいる子がむしろ取り乱したので、俺はほんの少しだけ冷静になった。

 素早くフリック入力して、ボイスアプリに言葉を入力する。

 こいつが、人前では緊張して喋れない俺の代弁をしてくれるはずだ。

 そして、ついにボイスアプリが起動する。いや、アイナ相手に一回使ったんだけどな。


『ソレハデスネー、オ答エシマショウー』


 ゆっくりボイスが議場に流れだした。

 聖王女、ジャスティーン、アイオン、騎士たち、アスタロト、ゼパルの全員が、ギョッとして俺を見た。

 スマンな、これしかコミュニケーション手段が無いのだ。

 俺のターンが始まる。

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