第五十話 女帝の悩みと南国飯
飯であった。
「うひょおお! 旦那、これすっごいぜえ! 食べ物いっぱいだあ!」
「カラフルですぅ! いいっぱいたべますうー!!」
おっ、我がハーレムの食いしん坊二人が歓喜している。
今は、夕食時である。
マリーは女帝ディアナとの会食。俺達は客間で飯だ。
この南国での飯がなんとも量と種類が物凄い。
色とりどりのフルーツを、生のもの、熱を加えて調理したもの、米を混ぜて炊いたものと様々である。
肉類は魚と鳥。
天然のハーブが大量に取れるらしく、スパイスはこの辺りの原産なのだそうだから、味付けだって豊富だ。
ディアスポラも良かったし、ラスベリアは現代風で良かったが、ガルムはもろに南国って感じでこれもいい。
なんだ、異世界って飯が美味いじゃないか!!
「お米をフルーツと炊いたのって、イメージだけだとゲテモノっぽかったのに、全然美味しいんですね……!」
「アイナさん、このフルーツは未熟な状態でお料理に使っていますし、お米自体にも香りがあるみたいです」
米はいわゆる長粒種である。パラッとした米なのだが、こいつもどうやらこの地方原産なのだと。そして出されてきた米は、そのものが淡い花のような香りを漂わせている。
香り米というのはこういう奴だろうか。
もう、俺はこの世界に来て、米へのこだわりは無くなったよ!
米ってだけで大歓迎だよ!
「パンも美味いぞ」
何故か同室のラシムも食事に加わっている。
こいつが食ってるパンもいけるのは間違いない。なんと小麦を使ってないのだ。
パンノキっていうでんぷんが多い果実をつける木が現実世界にあったから、その仲間だろう。果実で作った粉末にココナッツミルクみたいなのを混ぜてよく練って焼いたものだ。
多分な!
俺は鶏肉にスパイスを塗して焼いた奴をナイフで切って、パンに乗せて頬張る。
「ううううめえええ」
「うむ、だが俺は魚を挟んだのが好みだな。この青い果実は甘くなくて、魚とも合う」
「マジか。お、俺もそれ試す」
「セブン様がやるなら私もー!」
飯を食う手が止まらんね。
果実酒も出てくるが、アルコール度数はちょっと高めだ。
クリス以外、俺達は酒に弱いので、水で薄めてもらった。城砦の下を流れる川から、城を構成する木が吸い上げた水は、幹の中を通るうちに濾過されるらしい。注がれた水はひんやり冷たく、仄かに花の香りがした。
無論、割った酒も美味かった。
何から何まで美味い!
けしからん。
「んもうー、わらひ、酔っひゃいまひたよー!」
あっ、早くもアイナが出来上がった!
こいつは本当に酒に弱い。俺も相当薄めてもらっているが、ジョッキいっぱいで真っ赤ではある。
そうそう、この国はジョッキがあって、それが木製なのだ。
飲み口のへりが丸く削られていて、当たりがとても気持ちいい。
ラシムもそこまで酒に強くないようで、気分がよくなった俺達男二人は、肩を組んでめいめいに適当な歌を歌い始めた。
ははは、楽しいなあ。
世の中は楽しいぞお。
聖王国なんてくそくらえだー!
黒貴族なんて知ったこっちゃねえー!
「あらー、想像以上に盛り上がってるわねえ」
その声は、マリー!
「ひょおマリー、ふぉれひゃひゃひょんなにひょっぱらってないひょ」
おお、舌が痺れてまともに喋れん! こんな美人相手に普通に口を利けるというのに!
こうなれば通訳のアイナを、
「すぴー」
寝ているし!
「だーんなー!」
ニナがゴーラムを抱っこしてやってきた。
俺の膝の上に乗っかると、むぎゅうっと抱きついてくる。ゴーラムが食い込んで痛い痛い!
「旦那ー! あたい、旦那の赤ちゃんうむぞー! 今夜は寝かせないんだぞー!」
「ひょーかひょーかー、はははは」
「うん、話にならんわねー。ちょっと酔いを醒ますわよ」
マリーが俺の額に指を当てて、
「覚醒」
なにやら呟くと、嘘みたいに俺の頭がすっきりした。
全く酔いが残ってない。
っていうか、うお、ニナ、お前酒臭いなー!!
「こ、これは、よいざまし?」
「ええ、そうよお。万魔の賢者セブン殿? せめてあなたはクリアな頭じゃないと話が通用しそうにないもの」
勇者達は、俺のツブヤキッターでフォロワーになると、自動的に俺の呼び名を知るようになる。
マリーも同じ事だ。
「女帝殿のご依頼を聞いてきたのだけれど、あなたの手助けが必要みたいなのよ」
「お、俺の!?」
バカな、こんな戦闘力も無いコミュ障の31歳の手助けが必要な事態とはなんなのだ。
「女帝殿の悩みは、ずばり、不妊よ」
「ふ、にん」
そういえば旦那を三人縊り殺したんだったな。三人とも種が無かったのかな?
「女帝は直系だからねえ。婿達のせいにして殺しちゃったの」
「ギェピー」
俺は悲鳴をあげた。
なんておっそろしい女帝なんだ。
素面のセレーネと酔いに強いクリスがびっくりしてこちらにやってくる。
「どうなさったんですかセブン様!? とんでもない悲鳴を上げて」
「やっぱりぃ、セブン様飲み過ぎですよう」
「い、いや、酔いはマリーさんのお陰で醒めたんだけど、女帝の話を聞いたら恐ろしくて……」
俺のリアクションが面白かったらしくて、マリーは同じ話をセレーネとクリスにもした。
「ひょええええ」
「ひぃぃぃいい」
うん、この子たちもリアクションが大きくて面白いね。
俺達ハーレムは大体全員ビビリなので、リアクションが一々大きいのだ。
マリーは俺達を見てケタケタと笑った。
いい性格してやがる。
そこで、ハッと我に帰ったセレーネ。我がハーレムの知力担当の名は伊達ではない。見事に俺を不安のどん底に突き落とす発想を口にしたのである。
「つ、つまり、セブン様がマリー様に手を貸すということは、セブン様の種をディアナ陛下に捧げるという事では……?」
「せ、セブン様が女帝に殺されちゃいますぅ~!!」
真っ青になったクリスが俺に抱きついてきた。
真っ青なのはこっちもだよ!!
死ぬのはいやだー! まだ子供も出来てないから、俺が種無しかどうかも分からないのに、そんな危険な任務に赴きたく無いー!!
「そ、そうだ、逃げるぞラシム!」
「ううー、セブンさんが二人に見えるぞ……。これで男が増えたなあ」
この野郎出来上がってやがる。しかも男が増えると嬉しいのか? や、やめろ! 俺はノーマルだ!
「んもう、面白いわねあなた達。違うってば。私が必要なのは、セブン殿の魔道板の力。あなた達がスマホと呼んでいるそれよ。どうやら、勇者と呼ばれる部類である私には、スマホが持っている力がなんとなく伝わってくるようでね……」
えっ、勇者ってそう言う能力があったのか?
エドガーもジャスティーンもそんな事一言も……って、エドガーはのんびりしてるし、ジャスティーンは細かい事気にしないしな。
「女帝の不妊の理由は分かっているのよ。これって悪魔の仕業。女帝の次代が生まれなければ、恐らくその悪魔が擁する人間が次の皇帝になるでしょうねえ」
「そ、そう、なると、困るんですか」
「いえ、別に全然困らないけど。今のディアナ皇帝は小さい頃から知ってる子だから放って置けなくてねえ」
ケラケラ笑うマリー。
うわー、私情だー。
「し、しかし、お、俺達は、危険を冒す理由が」
「うーん、報酬って事?」
俺は頷く。
第一俺はもう大金持ちになったので、並大抵の報酬では首を縦には振らないぞ!
そしてラシムの酔いが醒め次第、こんな国から逃げ出すのだ。飯が美味いのが残念だけど!
「それじゃあ、これでどうかしら」
マリーがいい手を思いついたらしい。
その恐ろしく整った顔に、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「しばらく、私があなたの専属治療師になってあげる。腰とか精力とか、治してあげるわよ」
「えっ!」
そ、それは魅力的だなあ……いやいや、まだまだ、それだけでは……。
「粘るわねえ。それじゃあ……私も抱かせてあげるわ」
「えぇーーーーーーーーーーーっ!!」
俺は椅子に座った姿勢でニナを膝の上に乗せたまま驚きのあまり飛び上がった。
セレーネとクリスの口もあんぐり開いている。
「大丈夫よ。こう見えて、経験豊富なんだから。それに、奥さんたちに子供が生まれたらちゃんと取り上げてあげるわ」
「そ、それは魅力的かもしれません」
「ですねぇ……」
あっ、セレーネとクリスが揺らいでる。
「セブン様、伝説の癒し手が産婆さんをやってくださるなら、ありかと」
「引き受けましょぉ、セブン様あ!」
そ、そういうことになった。




