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第四話 タウンウォーク

 俺は、騎士団長アイオンにこき使われた。

 具体的には、集めためぼしい兵士たちを、片っ端から体脂肪検査アプリで測定するのだ。

 なんでも辞典サイトwykipediaによると、ドッペルゲンガーはイカやタコのような構造をした悪魔で、全身が筋肉で出来ているらしい。脂肪などは内臓に蓄えてあるのだろう。そのせいで、撮影すると体脂肪が0%と表示される。

 俺一人だと、激しく人見知りしてコミュニケーションにならないので、通訳としてアイナが同行した。

 彼女は俺のどもった言葉のニュアンスをそれなりに正確に読み取り、上手い事それっぽく伝える名人なのである。

 結局、アーノルド以外のドッペルゲンガーは一体しかいなかった。

 そもそも聖王国の王宮に二体のドッペルゲンガーが入り込んでいたことが大問題らしいのだが。

 連中は黒貴族の間諜らしい。

 俺は己の有用性を如何なく発揮し、かくして実力を認められたのである。


 ということで、街歩きを許された。

 人ごみ怖い。


「ずっと部屋の中ばっかりだと、賢者様も気が滅入ってしまいますよね!」

「あ、いや、俺はその、ずっと屋内でもいいんだけど」

「それはいけません! せっかく軍資金をもらったんですから、今日は目いっぱい外で楽しみましょう!」


 アイナは実に積極的である。

 動きの鈍い俺の背中を押してずんずん進んでいく。

 王宮近くは貴族の屋敷が立ち並ぶ、高級住宅街。この辺りは安全だが面白くない、とアイナが説明してくれた。

 変に曲がりくねった中央道を歩く。

 地面は石畳が綺麗に施されており、それは城壁近くに広がる市街地に至ってもそうだった。

 城壁外のスラム街など、存在しないかのようだ。

 恐らく、スラムの住人たちは肉の壁でもあるのだろう。あそこに住まわせる事で、悪魔たちからの攻撃をまず彼らの命で受け止める。

 そして、時間稼ぎをして撃退の準備を整えるのだ。

 多分。


「まあ私も、あんまり街の事は知らないんですけどね。だから表通りからは外れないほうがいいと思います」


 そんなアイナは、実は準男爵家の四女なのだと言う。

 とりあえず女の子ばかり多すぎるので、もてあましていた所をセシリアの目に留まり、侍女になったと。

 生まれがいいので読み書きもできるし、侍女として訓練も受けたので身の回りの世話などもできるのだ。

 俺に対してあまり嫌悪感を抱いてこない辺りは、世間ずれしていないからなのかもしれない。


「あれ……? 確かこっちにアクセサリーの店があったと思ったんですけど……」

「無いの?」


 彼女の道案内もあてにはならないようだ。

 キョロキョロと辺りを見回すアイナを見かねて、俺はスマホを起動した。

 何か手助けになるものがあるかもしれない。

 ブラウザを立ち上げると、”現在位置:エルベリア市街地一番街三丁目”と出た。

 うわああ、グググールマップが使えるぞ!!

 だがこれでは店が分からないので、ストリートビューを起動してみた。

 いけた。


「け、賢者様、なんですかそれは!! スマホの中に家が! 街が!」

「うむ、これは、行った事が無い所でも旅できるアプリなのだ」

「す、すごい!!」


 ぐりぐりと画面の中のエルベリア市街を移動する。少し歩いては360度見回す。

 画面をタッチしながらもりもり進んでいく。

 アイナが興奮して、俺の手に鼻息を吹き付けた。


「スマホは凄いです……!! そしてそれを使いこなす賢者様はもっと凄い……!」

「アイナ……ちゃん。俺のことは賢者様じゃなくて、セブンって呼んで欲しいんだけど」

「セブン様ですね! わっかりましたー!」


 ああもう可愛いなあ! 結婚したい。

 俺はムラムラしながら表通りを隅から隅まで探索した。すると、ついに目当てのお店が見つかる。


「ここです! ええと、これが地図です? この赤点が私たち? ふえええ、路地を一本間違えてるう!」

「どじっ子め。萌え」

「モエ?」

「なんでもないです」


 俺達はアクセサリーショップへ向かった。

 エルベリアのアクセサリーショップは、様々な魔法を封じ込めたアクセサリーを販売しているところだ。

 職人見習いが作った、見た目だけのアクセサリーもあり、こちらは安い。

 アイナは楽しそうに陳列棚を見やりながら、セシリアから預かった軍資金を数えている。

 中金貨五枚、小金貨五枚が軍資金だ。

 俺的にわかりやすく解釈すると、この世界の通貨は銅貨と銀貨と金貨。

 それぞれの貨幣には、小サイズ、小サイズの五倍の価値がある中サイズ、中サイズの五倍の価値がある大サイズの三種類がある。

 小銅貨が一円。中銅貨が五円。大銅貨が二十五円。

 小銀貨が百円。中銀貨が五百円。大銀貨が二千五百円。

 小金貨が一万円。中金貨が五万円。大金貨が二十五万円。

 記念硬貨で、百万円の価値を持つ真銀貨というのもあるらしい。ミスリルなんだと。


 俺が選んだアクセサリーは、身代わりの人形。

 一回殺されても身代わりにぶっ壊れて、使用者の命を守る人形だ。これが中金貨三枚。

 アイナが欲しがっているのは、約束の指輪。

 二つ一組で、これをつけたもの同士で約束をすると、その約束を果たすための行動をする時、封じ込められた魔力が行動の手助けをしてくれるのだそうだ。これが中金貨四枚。

 見事に予算オーバーである。


「ううっ……悲しいですけど、私の欲しいものはあきらめます」

「ちょっと待つんだアイナちゃん」

「はっ、まさかセブン様、また何か便利アプリが……!?」


 そのまさかである。

 俺はクーポンアプリを起動した。

 もしや、この店のクーポンがあるのでは……ってあったあああああああ!!

 俺は早速最大の割引である20%オフクーポンを提示した。

 これで、中金貨七枚(35万円)の値段が、中金貨五枚に小金貨三枚(28万円)にプライスダウン!

 俺達は見事予算内で欲しいアイテムをゲットしたのである。

 残ったお金で、一皿大銀貨一枚という高価なパンケーキセットを楽しみつつ、俺はアイナに聞いた。


「しかし、そんなアイテムを欲しがるなんて、アイナちゃんは誰かいい人がいるのかい」

「ふふふ、私今、最大のチャンスを迎えてるんです。内助の功計画ですよセブン様。大人しく手を出しなさい」

「はい」


 命令されると断れない……!

 ちょっとアイナが凄い迫力だったので俺は手を差し出した。

 すると、アイナが約束の指輪を俺の右手薬指にはめてくる。さすが魔法の指輪だぜ。ぬるりと入った。

 続いて自分の右手薬指に。


「えへへー」

「こっ、これはあああああああああーーーーーーっ!!」


 アイナはパンケーキの欠片を口に押し込んで咀嚼すると、俺の手をギュッと握り締めた。


「セブン様、その能力でガーンと偉くなっちゃってください。そしてこの私を選んでください!!」


 なんと潔い宣言……!!

 俺は君みたいな嘘をつけない子が好きだよ!

 そして、自分のためだけにこの呪いの藁人形みたいな身代わり人形を買ったのが恥ずかしい……!!

 いや、多分にアイナも自分のための買い物だし、俺を利用する気満々なんだが。


「分かった。俺はガーンと偉くなろう!!」


 そして結婚しよう! とりあえず心の中でいつものをかましておいた。

 何故か、その曖昧な約束に対し、俺達の指にはまった指輪がきらりと輝いたのである。

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