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第二話 主賓は壁の花になれない

前回までのあらすじ


フリチンのまま十五歳のメイドにパンツ穿き替えをを手伝ってもらって動じぬ七郎は精神的に超人であった!

「素敵ですよ、賢者様。大変お似合いです」

「ほ、ほんと?」


 俺はゴテゴテとした装飾にまみれた格好をして、衣装の重さにふらつきながらなんとか立っている状態だった。

 ここは聖王国の城の一室。

 既にパーティは始まっていた。



 俺が聖王国にやってきた時まで時間を戻そう。

 聖王国の外壁は、白い大理石のような石で出来ていた。

 美しい都だ。

 都の中心に天高く聳える、グレートホーリーと呼ばれる城は、外からでも伺う事が出来る。

 ここが人類勢力の中心地。立派な門扉からも、その権勢の凄さは知れよう。

 だが、城壁外側には、スラムが広がっていた。

 バラックが立ち並び、薄汚れた衣装に身を包んだ大人や子供たちが、行軍する俺達を呆然と見つめている。

 みんな疲れきった顔をしていた。

 この世界の戦乱は、もう何百年も続いているのだと言う。

 彼らは、悪魔によって滅ぼされた街の人間だとアイナが教えてくれた。

 人々は、疲弊しきっていた。

 だが俺も異世界に来て疲弊しきっているのだ。今は我が身の方が可愛いので、俺は目にした光景についてとりあえず考えないでおく。

 とりあえず一発パシャッと撮影した。

 バッテリー残量が心許ない……。



 俺が晒し者にされるパーティ会場へ場面を戻そう。

 うむ、晒し者なんだ。

 王様らしき人が俺を紹介して、俺は楽隊の演奏にあわせて登場する。

 ひいいい、なんだよこの羞恥プレイ!!

 緊張でまともに歩けないのだが、ジャスティーンが俺の横につき、


「セブンはこういう場には慣れていないのだな。まあ俺もだがな」


 などと言いながらサポートしてくれる。

 おお、いい奴だよお前! 兄貴って呼んでもいいか!?

 俺は王様の前に引っ立てられ、何やら言われたらしいが覚えてない。

 勲章をもらったらしいが覚えてない。

 振り返ったら貴族達がたくさんいて俺を値踏みするような目で見ていたのだけは覚えている。

 その後、聖王女が俺を詳細に会場の人間たちに紹介した。

 偉そうなおっさんやおばはんたちが次々俺に話しかけてくる。

 いやあああああ、知らない人こわいいいいいいいい。


 俺以外にも、一年ぶりに帰還した勇者ジャスティーンも人気のようだった。

 むしろ、海のものとも山のものとも知れぬ俺よりも、主役は確かな英雄たるこの男だったと言っていいだろう。

 もう、アイナが近くにいないと落ち着かない。

 怖くて仕方ないのだが、メイドはこういう会場には入れないのだそうだ。

 俺は固まった笑顔でなんとか場をやり過ごす事に必死だった。

 俺は下戸なので酒も楽しめず、この世界の料理をたくさん食うと腹を下すのであまり食う事もできず、そもそもそんな暇も無く、地獄のようなパーティの夜は更けていくのだった。

 もう、もう、本当に何があったのか覚えていない。

 人間緊張し過ぎると記憶が飛ぶのだ。


 気を落ち着けるために、俺は衣装のポケットに仕舞ってあったスマホを取り出した。

 ポチっと起動して、すっとフリックしようとする……。

 俺は目を見開いた。

 バッテリー残量がレッドゲージに突入している。

 この世界にやってきてから、大切に大切に少しずつ使ってきたスマホだったが、バッテリーは有限。対に限界が来たのだ。

 俺の精神も限界に来た。


「ああああああああああああああああ!!」


 俺は叫んだ。恥も外聞も無く叫んだ。

 俺にとって最大の精神安定剤なのだ。それが無くなったらどうなると思う? 

 死ぬよ!

 もう賢者だとかそういうレベルじゃない。コミュ障である。俺は一人のコミュ障に戻るのだ! いやスマホあってもコミュ障だけど!

 俺の叫びにギョッとして、王族達や貴族達が振り返る。

 だがそんなものはどうでもいい。俺の、俺のスマホのバッテリーが尽きてしまいそうなのだ。

 あああ、このバッテリーが充電できるなら悪魔に魂を売ってもいい!!


 その時だった。

 ピッカアアアアアアアッと俺の手のひらが輝いた。

 溢れ出んばかりのエネルギーが、俺の指先に宿る。

 俺が手にしたスマホのバッテリーゲージ……その横に、充電マークが灯った。

 これは……俺の、新たなる力……!?


 会場の照明をも色褪せさせてしまうほどの輝きに、人々は目を奪われる。


「セブン! お前、そいつは何だ……!?」


 これは、俺の魂の輝き。

 スマホを充電する輝きだ!

 大体一分間で1%充電されていく。これで一安心である。

 だが、俺は次の瞬間、兵士達に囲まれてしまった。


「王国の貴人が集う場所で魔法を使うとは……不届き者め!!」

「アイオン! やめなさい! その方は賢者様なのですよ!」


 聖王女が止めに入るが、兵士たちを率いる初老の男は応じなかった。

 アイオンというらしい。


「たとえ聖王女殿下のお言葉と言えど、このアイオン、王の御身を守る者として、この男の所業を見逃すわけには参りませぬ! この男を捕えよ! 牢へぶち込め!!」

「アイオン、やり過ぎではないのか!」

「ジャスティーン殿も口出しせんで頂きたい。王宮には王宮のルールがある!」


 誰もが、すがるような目で王を見た。

 王は俺を見て、


「牢獄へ入れるほどではあるまい。余はこうして生きておる。だが、監視はつけさせてもらおう」


 という事になった。

 もうパーティとか台無しである。

 全部俺の責任っぽい。胃が痛い。


「賢者様、大丈夫ですよ! 気になさらないでください!」


 アイナの励ましだけが癒しであった。

 そして俺はその後、九十分かけてスマホを充電したのである。

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