第二十三話 こっち狙うなし~あるいは絶槍武侠ジャスティーン~
まあ反撃開始って気分なんだが、現実的には無理だよな!
ってことで俺は、とりあえず戦ってくれてる双尾の猫構成員のお姉さま方の背後に隠れ、四人の女子たちと作戦タイムだ。
「みんな、だ、大丈夫か? けが、ないか?」
「あ、はい。悪魔が私達を絡め取ろうと、何か力を使ったのですが、アイリス様が守ってくださいました。彼女は凄い魔術師ですよ!」
「一瞬頭がぽーっとしたんですけどお、すぐに大丈夫になったんですー」
なるほど、やはりフールフールの狙いはうちのパーティの女子達だったのだ。
もしかすると、ダンジョンで俺達がやった行為は全部アスタロトに筒抜けだったのかもしれない。
俺達がデスダンジョンを抜けて、その上エドガーまで開放したわけだから、相当悔しかったんだろう。
すぐに俺たちに刺客を差し向けたと、そういうわけだ。
多分、多分な。
もしかすると、フールフールは本来は別の目的があってジャニラを利用していたので、そいつに別途の依頼として仕事を任せたのかもしれない。
この辺悪魔の上下関係とか分からんからな。ゼパルは割りとフレンドリーにアスタロトと話していたようだが。
よし、ひとまず退避である。
俺は四人を率いて中腰のまま、そっとその場を離れようと……。
その途端に馬鹿でかい雷が降って来た。
耳をつんざくような雷鳴とともに、目の前にいたお姉さん達が消し飛ぶ……いや、なんだかバリアーみたいなのを張っている。消し飛びはしなかったようだが、みんな膝を付いている。
お姉さん達の高さが低くなったので、自然と俺は向こうにいるフールフールが見えるようになってしまった。
凄い目で睨んでいる。
なんだよ、憎憎しげな目で見て。俺が何をしたって言うんだよ。
「セブン様は見事にフールフールの企みを暴き出し、こうして白日の下に晒しましたからね! 悪魔がディアスポラで進めようとしていた謀略もこれで終わりですよ!!」
「アイナは元気だなあ。しかし、それを思うと確かに俺は憎いわな!」
「旦那すげー!」
俺達はわっはっはと笑いあい、そんな俺たちを狙って嵐と雷撃が襲ってきた。
「ぎょえぴーーーーーー!!」
俺はわけの分からない叫び声を上げながら、スマホを構えて雷を受け止める。
電池管理アプリが雷を吸収し、またバッテリー残量が4%増えた。今96%だね。これって100%になったらもう雷を吸収しなくなるんだろうか。俺はちょっと試す勇気が無いな。
「セブン様のスマホの力があれば、ある程度は悪魔の攻撃を無力化できるみたいですね。その間にエドガー様の攻撃を当てられれば勝機があると思うんですが」
セレーネが、エドガーと俺を見比べて分析する。
既に、エドガーはその姿をあらわにしていた。
双尾の猫の館、その屋根上に立って、長弓を構えている。
「動きが止まらないと、複合弓は扱いづらくてさあ。セブン、あいつの動きを止める事は……」
こんな真昼間の屋外で、フラッシュの光にどれだけの意味があるのか。
しかもスーパーセルが激しく脈動していて、日差しが現れたり隠れたりしている。
俺が否定的な顔色をしたので、エドガーは苦笑いした。
「まあ無理は言わないさ。やれるだけやってみよう。しかし、おいらにも周囲に被害を出さない自信は全くないな」
既に双尾の猫の館は半分が焼き焦がされ、スーパーセルの下に位置する家々は、俺達の背後で発生している竜巻に呑まれているものもある。
「せ、セレーネ、多分、あと一回」
「雷を受け止めるのも限界ですか……! だとすると、なんとかして状況を動かさないといけないですよね……。セブン様、なんとか受け止める回数を増やしたりできないのですか?」
受け止める回数を増やす……? つまり、バッテリー残量を減らすと言う事か。
その考えは無かった。バッテリー消費を大量に要求するアプリを使用すればいいのだ。
「よし」
俺はその場を移動しつつ、フールフールの視線を探った。
奴の目は、俺に注がれている。
うまい事女の子たちから目線を外してくれたようだ。だが、まあ、心臓に悪いねこれ。
注目されると心臓がばくばく意うたちだけど、これはさらに命までかかってる。
もう一発、雷が来た!
「うおわーっ!!」
「セブン様!!」
「セブンの旦那あ!」
「セブン様ーっ!!」
「セブン様あ!」
「だ、だいじょうぶ」
やばい、バッテリー残量が100%だ。
俺は必死に考える。バッテリーを思い切り消費するアプリ……思い切り消費する……。
動画か……!?
フールフールに向けて、エドガーの矢が幾本も放たれる。それらはことごとく、悪魔が呼び出したスーパーセルの欠片と、雷の玉が防ぐ。
幸い、エドガーの攻撃を一方的に打ち消す事はできず、必ず雷の玉とスーパーセルの欠片が相殺されて消えていく。
その隙に、俺は昨日も使ったアプリを起動した。
突然、フールフールの目の前に現れたのは、色が薄くて向こう側が透けて見えるハディードだ。
周囲は爆発や衝撃で粉塵も巻き上がり、視界は悪くなっている。
なんとか映像を投影できるレベルにはなったというところだろう。っていうか、俺のスマホ、また能力が上がってるんじゃないのか!? これ立体映像だろ!?
俺が撮影したハディードは、余裕の笑みでフールフールを見て、隙あり、とばかりに斬りかかる。
突然現れた剣士に、悪魔は驚愕した。
慌てて身構え、その角の間から強烈な放電を行う。
フールフール周囲の半径3mが焼き尽くされ、土ぼこりがより一層吹き上がった。
「ナイスアシスト! これで充分だよぉ」
エドガーの声が響いたように思った。
そして、
「”死殺技 ライトニングボルト”」
空気が焼ける臭いがした。
次の瞬間、俺の真横を閃光が駆け抜ける。音は後からやって来た。
俺はソニックブームに弾き飛ばされ名がらそれを見る。
いつの間にか、何か凄まじいエネルギーを発するものが通り過ぎた後があり、土煙には巨大なトンネルが生まれていた。
トンネルの終着点。胸に大きな穴を空けたフールフールが、凄まじい形相でこちらを睨んでいる。
な、何があったのだ。
ちょうどその光景をスマホが撮影していたっぽいので、スローモーションアプリで検証してみよう。
あ、説明好きのセレーネがこっちに走ってきた。お前命知らずだなー。
「なるほど、エドガー様が放った技が、音よりも速くこの空間を到達したのです。悪魔はそれを防ぐために、魔術的な力で一気に大量の雲を凝縮して壁を作ったのですが、それさえも一撃で爆散させ、悪魔の体を穿ったわけですね」
「だけど、浅かった。仕留め切れなかったな」
エドガーが苦いものを感じさせる口調で言う。
目の前で、フールフールの姿が変わっていく。
ゼパルのような本気モードと言うわけだ。
それはもう、翼を生やした巨大な鹿だ。纏う魔力量がとんでもない事になっている。
一度散らされたスーパーセルだが、それが再び集まり始めているのだ。
「さて、もう一発当てないとな……!」
エドガーが複合弓を構えながら、不敵に笑う。
俺はセレーネを庇いながら、少し後退した。今の映像とスローモーションアプリで、あと一回分の雷なら受けられるはずだ。
パワーアップしたばかりのフールフールは誰を狙う?
間違いなく、性格が悪い悪魔の事だ。
弱くて、しかも憎たらしい奴を狙うに違いない。
俺だ。というか、俺に避けられないように、セレーネか、離れた場所にいるアイナ達を狙う!
その時、スマホがかすかにバイブし、点灯した。メッセージが一件。
そして俺は、フールフールが角の間で放電を始めた瞬間、全速力で奴に向かって飛び出した。
角の間に、スマホを突っ込む!
フールフールが目を剥いた。
俺もすげえ衝撃で目を剥いた。そしてぶっ飛ばされた。
スマホのバッテリー量は一発で満タンだ。もう受け止めきれない。
俺はごろごろと転がって行き、飛び出してきたクリスが俺を受け止めた。
「セブン様あ、む、無茶すぎますう!」
「ざまあみろ、これで一発撃つまで時間がかかる……!」
「で、でもお、また雷を撃たれたらあ……!?」
クリスは目を丸くした。
俺が稼いだ僅かな時間。これは無駄では無いのだ。
俺は飛びこむ前に見たメッセージを思い出す。底には一言、
『着いたぞ!!』
悪魔兵士とドッペルゲンガーに押され、黄金の狐の傭兵達は危機的状況に陥っているようだった。
悪魔兵士と言えど、強さは並みの兵士三人分と言われている。ドッペルゲンガーなら、その倍の強さ。
頭数が近い、傭兵達と下級悪魔では、いかにも分が悪い。
一人倒され、二人倒され、黄金の狐は追い詰められて行っていた。
その時彼らは聞いた。
「ええい、どけえ! 俺はセブンを迎えに来たのだ!!」
遥か遠くのはずなのに、その男の声だけは驚くほどはっきりと届く。
「ああ面倒くさい! 城壁を越えさせてもらうぞ!!」
とんでもない宣言が聞こえた直後、ディアスポラを包む高さ10mの城壁の上に、人影が躍り上がった。
ばかげた話である。
垂直に作られ、しかも強烈なオーバーハングが設けられた城壁を、宣言から一息もせぬうちに駆け上がった者がいるのだ。
そいつは城壁の上に立つと、悠然と都を見下ろした。
そしてすぐに気付いたらしい。
この俺の姿に。
なんて視力だよ。
俺は呆れたが、思わず笑いが漏れていた。そうだ、俺のこの災難の日々はこいつから始まっている。
助けてやったんだから、恩を返してもらおうじゃないか。
「セブン!! 今行くぞ!!」
絶槍武侠ジャスティーン。現代の勇者と呼ばれる男が、城壁を蹴った。
ひとっ飛びで、50m程を駆け抜ける。
砂埃を上げ、壁面も屋根も、地上も樹上も関係ない。道を走破し、往く手に偶然いた、悪魔兵士とドッペルゲンガーを、ただ走ることで吹っ飛ばす。
どんな障害物があっても、全く同じ速度で駆けつけてくる馬鹿でかい男。
そいつは、今再び放たれようとしたフールフールの雷撃の目の前に降り立ち、あろう事が悪魔に背を向けて俺を見た。
「おう! 無事なようだな!」
放たれる雷撃!
いや、雷撃よりも速いカウンターが、フールフールの巨体を吹き飛ばした。
「おー、彼がこの時代の勇者かあ……」
呆れたように、エドガーが呟く。
振るわれたのは、ジャスティーンが携えた大槍の石突だった。
衝撃に驚愕しながらも、悪魔は上空で翼をはためかせ、眼下にいるであろう、闖入者目掛けて雷撃を放とうと……いや、既にそこにジャスティーンはいない。
こいつは大槍を使って高飛びをし、既にフールフールの頭上にいた。
思い切り振りかぶられた、長さ3mを超える大槍が、鹿の姿の悪魔を地面目掛けて叩き落す。角の一本が高い音を立ててへし折れた。
落下の衝撃に、フールフールは受身を取る事もできない。
バカみたいな力任せの、しかも信じられないほど速い攻撃。
「おう、それじゃあ、これで終いだ!」
ジャスティーンは、大槍を投げつけた。
笑いたくなる量の魔力を纏った大槍は、まるで白いビームのように俺には見えた。
あの異空間で、悪魔兵士たちをなぎ払った光だ。
そいつは立ち上がろうとした悪魔を串刺しにし、そのまま纏った魔力を爆発させ、フールフールの全身を消し飛ばした。
悠然と、2mを超える巨体が着地してくる。
大槍の石突にはチェーンが結ばれ、ジャスティーンが手首を返すと、地面から抜けて彼の手に収まった。
そして奴は、クリスにキャッチされたままの俺に向かって再び笑いかけ、首を傾げた。
「なんだったんだ、あの悪魔は?」
おい。




