第十一話 デス鬼ごっこ
さて、三日目にして第三階層である。
この迷宮は案外短いようで、ここが最終階層になるようだ。
短いとは言っても、ここにたどり着くまではデストラップが軽く二十くらい仕掛けてあったんだけど。
たどり着いたフロアは迷路のようになっていた。
俺達がぞろぞろと入ると、例によって背後が閉ざされる。
このフロアに入るほかの選択肢が無いのだから仕方ないのだが。
すると、ガッシャンガッシャン音を立てて、甲冑を着込んだスケルトンがやってくる。
あれはなんだ……といつものグググール画像検索。
”スケルトンウォリアー”人骨ではなく、龍の骨から作り出される最上級のスケルトンらしい。
そんなもん俺を殺すために使うなよ……!
どうやらかなりハイレベルな剣技を使ってくるらしく、生半可な剣士では歯が立たないとか。
良かったなクリス! 出番だぞ!
「ひえええええ! す、スケルトンが鎧着て追いかけて来ますううううう!」
こら! 真っ先に逃げようとするなああ!
俺達はスケルトンウォリアー……通称竜骨兵に追い立てられて迷宮に突入したのである。
俺は慌ててダンジョンウォークを起動……いや、ここはどうやら、大き目の一フロアが細かく壁で分けられて迷路になっているようだ。
確かちょうどいいアプリが……あった、3D地形図アプリ! きっと俺のスマホの事だから、これもダンジョンに対応……よしよし、してるな。
起動すると、なんと俺達の目の前に、迷路の立体図が浮かび上がった。
「うおおおお!?」
俺は驚愕する。アイナたち四人娘も同様だ。
だが、アイナとセレーネはどこか、追い詰められてはいない顔をしている。
何、その顔はあれだな、俺に期待してるな?
やめろ。そう都合よく状況打破できたら俺はぼっちのコミュ障やってねえよ!
とりあえず迷路の攻略は、こういった立体図の把握が得意らしいニナに任せる。
この迷路図は罠の場所が書いて無いので、ニナの盗賊の勘も重要になってくるのだ。
「へへっ、セブン様がいてくれれば何でも出来そうな気がしてきたぜ……!」
えっ、お前までフラグ立ってるの!?
ともかく、ニナがありもしない俺の凄さを妄信してテンションが上がってくれればしめたものだ。やれば出来る子なのだ。迷路攻略は任せよう。
俺は迷路図を表示しながら、時間稼ぎのために般若心経をオンにする。
だが、今回は般若心経の効きが悪い。
クソ、あの竜骨兵兜を被ってやがる! 音が届きにくいんだ!
「ひいええ! ひゃあ! あぶない! きゃあ!」
騒がしく叫びながら、俺によってしんがりに追いやられたクリスが、追いすがる竜骨兵の攻撃を紙一重でかわし続ける。
……紙一重で……?
あれ、こいつ、もしかしてやれば出来るんじゃねえか?
あまりにもビビリ過ぎて実力を発揮できないのかもしれない。
だとすると、こいつのビビリをどうにか出来ればいいんだが……。
と、ここで3D迷路図に表示が。
”ここから先、階段落ち”
立体になるってわけだ。しかも、階段落ちと言うと、転げ落ちやすい急勾配か、昔バラエティで見たスロープになる階段……いや、この迷宮の性格の悪さなら後者だろう。
「に、ニナ、ろーぷ」
「ニナさん! ロープにフックをつけて用意してください! 次の階段で使います!」
「お、おう!」
走りながら、ニナは荷物の中からロープを取り出す。
しかしアイナの通訳精度というか、通訳の先読み能力がどんどん上がってきているな。
伸ばされたロープを、俺とアイナで持ち、ドン臭そうなセレーネにくくりつけた。
「え、え? 何があるんです?」
首をかしげるセレーネであるが、それはすぐに見えてきた階段に、考える余裕など無くなる。
ニナは指示の通り、階段の上にフックを投げつけ……階段の半ばまで達した瞬間、見事に段が全てスロープになった。
ほらな! やっぱりだよ! マジで性格悪いんだよこの迷宮!!
「ひゃあああああ」
あ、クリス忘れてた。
俺はなんとか足を伸ばし、スロープをずり落ちようとしていたクリスにしがみつかせる。
竜骨兵はころころ転がり落ちていった。
「何とか一息つけるな……」
俺は呟く。
素早く上りきったニナがアイナを引っ張り上げ、続いてセレーネを引っ張っている。
俺の足にひっついて、クリスはべそをかいていた。
「うううっ、形だけの護衛でいいっていうからセシリア様にお仕えしたのに、こんなことになるなんて聞いてないですよう」
「お、おう」
何か言葉をかけようとしたが、頭の中でぐるぐる言葉が巡って、結局口から出てこないのが俺である。
「大体いつも私って、本番になるとがちがちになって何にも出来なくなるんです! だからこういう迷宮だっていやだったのにい! ふえええ」
「い、だ、その、だから」
ぬぬぬー! 言いたい事があるのに出てこない! くそう、コミュ障である我が身が悔しい。
よし、とりあえず名前だ。
一言でいいから、名前から行こう。落ち着け俺。
深呼吸だ。ひっひっふー。
俺は大きく息を吸い込み、
「クリス」
声をかけた。
ハッとして彼女が俺を見上げる。
「き、緊張するのは、分かる。お、俺も緊張して喋れなく、なる」
「賢者様もですかあ……!? っていうか、賢者様言葉を喋れたんですねえ!?」
喋れるわいバカモノ。
言葉になって口から出てこないだけだ。
「クリス、お前は、やれば、出来る子、だ。だから、緊張、しない、方法、を、考えて、くれ」
それだけ言い切って、俺の額からどっと汗が吹き出した。
「ああああああああセブン様が自分の口でとうとう! 私感激です!!」
なんでアイナが号泣しているんだ!!
途切れ途切れだったが、クリスには俺の言葉が伝わったようだ。
神妙な表情になって、考え込み始める。
「私、子供の頃は凄く、筋がいいって褒められていたんですよね。だから護衛にも抜擢されて……でも、練習試合だとガチガチになっちゃって、全然勝てなくて……。お父様に剣を習っていたときは、家の近くの小川の脇で練習してて、練習で汗をかいたら水浴びが出来たから気持ちよくて……」
小川……。それか?
俺は素早くスマホのアプリを検索する。
小川のせせらぎアプリ。これなのか……?
だが、状況は俺達を待ってはくれなかった。
スロープになった階段に衝撃が走る。
「スケルトンウォリアーが!」
セレーネが悲鳴を上げた。
奴が、剣をスロープに突き立てながら上ってくるのだ。もう片方の手にも剣を握り締めている。
あいつ、あれをどこからか持ってきたな! 思ってたより頭がいいぞ!
「あわわわわわわわわ」
クリスがまたガタガタと震え始める。
大丈夫だクリス、お前は出来る子だ!
俺は小川のせせらぎアプリを起動すると、ポケットから取り出したイヤホンを、クリスの耳に差し込んだ。
「えっ」
突然聞こえてきたせせらぎの音。
クリスは一瞬だけ唖然として、それからぴたりと体の震えが止まった。
俺はスマホにクリップアクセサリをつけ、クリスの襟元にくくりつける。
「いって、こい!」
「はい……!」
クリスは躊躇無く、俺の足から手を離した。
そのまま、急なスロープを滑り落ちながら、自分も床を蹴って加速する。
「参ります!!」
彼女の耳には、今やせせらぎしか聞こえていないだろう。
竜骨兵はスロープに突き刺さっていた剣を慌てて引き上げて、バランスを失って僅かによろけた。
そこへ、クリスのショートソードが突き込まれる。
狙いは過たず、竜骨兵の頚骨を貫いた。
竜骨兵の頭と胴体が泣き別れになる。
すると、胴体はクリスを発見できなくなったのか、ふらふらと振り上げた剣を迷わせる。
クリスの剣が、肘の関節を断ち切る。
もう一方の腕もだ。
やがて竜骨兵はスロープを落下して行った。
クリスも落下する……というところを、段上から投げられたフック付きロープが食い止めた。
「へへっ、やるじゃんクリス!」
「感謝しますよ、ニナ!」
竜骨兵撃破である。
俺達のパーティも少しずつへっぽこではなくなってきたようだ。
いよいよダンジョン編クライマックス




