第九話 ウィザードなリィ的ダンジョンウォーク
俺達はダンジョン探索を開始した。
スケルトン何するものぞ。
登場するなり、アプリで般若心経を聞かせて一撃必殺である。
いや、動けなくなったところをみんなで囲んで、松明とかで殴って倒すのだが。
そして今、何故かパーティの先頭は……俺だった。
「あ、お、俺、なん、で一番に」
「おい、なんか賢者様が言ってるぜ」
「アイナさん、通訳して!」
ニナめ、盗賊(風味)の癖に何故お前が俺の後ろにいるのだ!
とりあえず俺の言語が理解できないようなので、近くをてくてく歩いていたアイナに、セレーネが通訳を依頼した。
「セブン様は、何故バックアップ役のはずである俺が前衛になっているんだ、ニナが前に出ろって言ってます」
凄いぞアイナ!! 明らかに俺はそこまで口にしてないのに、ニュアンスで大体間違ってない言葉に仕立て上げてくれる。
やはりこやつは得がたい人材だ。俺の賞賛の目を受けて、薄い胸を張ってドヤ顔で可愛い。結婚したい。
「い、いや、だからあたい、鍵開けとかは得意だけど、暗くて狭いの苦手で……」
「なんでそれで盗賊みたいな事やってるの」
「盗賊とか言ってないぞ! あたいはこそ泥だ!」
「それってー、近いようで全然違いますよねえ」
おい、こいつを推薦したの誰だ! アイオンか! あの中年!!
だがまあ、ニナというこの娘、お宝の匂いを嗅ぎ当てたり、罠を外して鍵を解いたりは得意らしい。
一応盗賊としての能力は有能なのだが、とにかく度胸が無い。欲で目が眩めば、恐怖心を忘れてしまうようだが……。
「ううう、こわいよう」
ニナがガタガタ震えながら俺の横に並んだ。
なんと根性のない盗賊であろう。賢者どころか、ろくにスポーツも出来ないコミュ障サラリーマンの俺が前衛に立っているんだぞ。しかも丸腰だぞ。スマホしか持ってないんだぞ! お前は短剣持ってるじゃないか!
ニナの姿は、ウェーブした短い黒髪に小麦色の肌、瞳の色は紫。動きやすい布製の服を着ていて色は黒、二の腕や太ももはむき出しだが、まあ無用心とか言う前に、このパーティは襲われたら全滅必至だし問題ないだろう。
年齢は十五歳で、顔だけはいい。それなりに美少女だ。
こうしてガタガタしてると守ってあげたくなる。
だが悲しいかな、俺にも守って上げられるほどの戦力は無いのだ。むしろこの中で最弱の自信すら……あ、いやアイナがいたか。
「け、賢者様よう。暗いし先が見えないし、やっぱり迷宮はだめだよ、あたい。帰ろうぜえ」
「帰ったら国家反逆罪ですよ。死刑ですよ!」
アイナが脅してくる。俺が言って欲しい言葉を的確に喋ってくれるな。こういう仕事だけ有能なメイドだ。
ニナはひええ、と言って震え上がる。
前門の暗くて狭いダンジョンの通路、後門の国家反逆罪である。
進むほうがまだ生き残る道はあろう。
「せ、せめて先がもっと分かってれば、あたいだって……」
その分からないのを探るのが盗賊の仕事だろう……と思って、はたと思い出した。
確かグググールストリートビューがダンジョンビューになっていたな。
俺はスマホのアプリを起動した。
グググールで現在位置を発信すると、”ディアスポラ領内 名も無き迷宮”と出た。
ちょっと立ち止まり、ぐりぐりと操作を開始した。
女子達が物珍しげに、俺の手元を覗き込んでくる。
柔らかいものがたくさん当たって気持ちいい。クリスの当たり加減が一番柔らかい当たり、とても嬉しいのだがお前って前衛で戦士だよね。一番柔らかいってまずくね?
クリスは一番ぼん、きゅっ、ぼんっという体型で、見事な金髪をひっつめ髪にしながら額当てで頭を防御。身体は部分部分だけを覆う上質の革鎧と、あとは服だ。武器はかなり品質がよさそうなショートソード。
この装備と、ある程度戦闘訓練を受けていると言う経歴だけで、我がパーティ戦力最上位のヒエラルキーに君臨するのだが、この女とんでもなく腰抜けである。
年齢は十七歳で、あと、結構な美少女である。
「おお……なんだか小さな板の中に、この迷宮の姿が映ってますね……これは凄い魔術です。私の知識によると、遠隔視という魔術が一番近いですね」
スマホに浮かび上がったダンジョンの内部を見て、セレーネはクイクイッとメガネを動かした。
彼女は三人娘で一番の長身で、ボブカットにした栗色の髪を綺麗にセットしている。魔法がかかっている深緑のローブを身にまとい、腰には魔法に使うのだろうか、ワンドを持っている。しかし俺は、この娘がほとんど魔法が使えないことを知っている。体型はそれなり、スレンダーだが出るところがきちんと出ている。
年齢は十六歳で、あと、割と美少女である。
「み、み」
「見ていろよ、とセブン様は言ってます」
アイナが仰っています、と言う言葉を使わなくなった。
まあいいや。
画面の中の迷宮を、どんどん進んでいく。
すると俺達が立っている辺りに到着して、通り過ぎた。その瞬間、あーっと落とし穴だ!
ちょうど目の前の床が幻で出来ていて、その下には人食いスライムがひしめいている。
落下した視界いっぱいに広がるスライムに、三人娘とアイナは絶叫を上げた。俺も絶叫した。
「こ、これは魔術で床を作っているんですね。ある程度進むと自動的に消えるようになっているみたいです」
セレーネが目の前の床をぺたぺた触って判断する。
この娘、魔術の腕前はゴミクズだが、知識は凄いらしい。理論は凄いのだ。
俺達は、辛うじて道があるらしいはじっこを通過した。
この魔術、魔力感知アプリを発動させた上で、魔術に詳しい人間が判断しないと避けられまい。
何とも意地が悪い。
少し進んだところで立ち止まり、またダンジョンビューを起動した。
進むと分かれ道のようだ。
右と左になっていて、右には扉、左には通路。
左の通路を進むと、画面内の空間が赤く染まった。
「で、デスクラウド……」
セレーネが真っ青になって呟く。
吸うと死ぬ雲を発生させるわかりやすい魔法である。
ひどい、始まったばかりなのに即死トラップだらけだ! デスダンジョンかよ! いや、デスダンジョンなんだよな。
「もうやだあああ帰るううう」
クリスがへたり込んで弱音を吐いた。
耳元でアイナが、
「国家反逆」
と呟いたらすぐ立ち上がったが。
アイナいい性格してるなあ。
さあ、気を取り直して解除方法を探してみよう。
デスクラウドが発生している周囲を360度回転すると、ちょっと上のほうにボタンがある。長い棒でデスクラウド発生地点の前から押せばなんとかなりそうだ。
右の扉の方は、鍵がかかっている。
中には入れないだろうなあ、なんて思って前進アイコンを押すと、するっと中に入れてしまった。
内容物は宝箱の山。
「おおおー!!」
ニナが目を輝かせて、俺にしがみついてきた。食い入るように画面を見る。おっ、幼児体型だけどそれなりになかなか……結婚したいな。
宝箱に近づくと、その全てがミミックになって襲い掛かってきた。
なんでここだけ動画なんだよ!!
ニナが絶叫してぶっ倒れた。
「アイナ、新しいパンツの出番だ」
「はい!」
ニナ、ファーストパンツチェンジである。
どうやらデスクラウドの方が安全らしい。というか、ミミック宝物庫に飛び込むメリットが無い。
俺達はおっかなびっくり、デスクラウドを解除し、そちらの通路へ進んだのだった。




