表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/16

第9話

 時間割表とにらめっこしていると、

「ねぇ、君……いや、あなた様って赤城の姫様でしょ……あ、ですか?」

驚いて顔を上げると、小柄な女の子がにっこり笑って立っていた。

手元に夢中で気づかなかった!

それに、気配がなかった。

彼女は、くりっとしたネコ目に黒いショートボブが印象的。

「姫って……。そんな大層なもんじゃないよ」

「ふふ……。この学園に王族の生徒が来るなんて……訳アリですよね?」

好奇心で目がキラキラ光ってる。

「みんな、聞く勇気が無いだけで内心は興味深々ですよ?」

周りのクラスメイトは、帰り支度は済んでいるものの、帰る気配はない。

きっと会話を聞いているんだろう。

それにしても、躊躇せずにズバズバと聞く子だなぁ……。

でも、その潔さに好感が持てた。

「ひとまず自己紹介が先ですね。猫宮鈴<ネコミヤ リン>。ケット・シーです。中等部からの内部進学組です。よろしくお願いします。」

確かに、彼女はネコそっくりだ。

「で、赤城の姫様……」

「ストップ!」

ビックリさせちゃったみたい。

彼女の目はまん丸になった。

でも、これからずっとそう呼ばれるなんて……困る!

「華音って呼んで、タメ口でね」

そう伝えると、目がもっとまん丸になったと思ったら、次の瞬間には嬉しそうに目が細くなった。

表情豊かな子だな。

「じゃ、うちのこともリンって呼んで!で、早速なんだけど、なんでこの学園に入学したの?」

「普通じゃないの?」

「うん、異常」

リンはさらっと答える。

「王族は学校なんか来ないよ、普通はね。家でチューターを雇ってる。だから、王族と話す機会なんて滅多にないよ!君たち兄妹はハーフだよね?お兄さん、インキュバスだし」

そういえば、この学園には兄がいたな。

今更ながら思い出した。

「まあ、仮に王族が学校に通うことになっても、ここは選ばないよ」

「なんで?」

「ん……!?知らずに入学したの!」

リンはやれやれと首を横に振った。

「ここはスパイやSPの要請機関だよ。在学中は勿論、卒業してからも政府のため、一族のために働かなきゃならない。危険な任務もバンバン入ってくる。そんなところに普通の王族なら入学しないよ。だからすぐに分かる。君たち兄妹は訳アリだって」

ああ、なるほど!

だから授業に開錠技術とか変装だとかが混じっているのか。

これで本日、何度目だろうか?

もう、驚きすぎて反応する気力も突っ込む体力も残っていない。

「ねぇ、もっと色々話さない?」

リンは嬉しそうに

「いいよ!」

と了承してくれた。

「ちょっと待ってね、メールするから」

ゆきにメールする。

(ごめんね、今日は先に帰ってて)

すぐに返信が来た。

(分かった、じゃ、また明日ね。)



 周りを見ると、大半の人が残っている。

神白君は……いない。

校舎の外を見ると、1人の男子生徒と一緒に正門へ向かって歩いているのが見えた。

友達だろうか。

何より、同じ空間にいると緊張してしまうので、さっさと帰ってくれるのはありがたかった。

「じゃ、続きを話そうか」

リンはいつの間にかジュースを2本持っていた。

「リンゴとオレンジどっちがいい?」

「ありがとう。じゃあリンゴで」

ジュースはよく冷えていた。

「教室の近くに自販機ってあったっけ?」

リンはきょとんとした。

「1階の突当りにあるじゃん」

ここ3階だよね……?

これ以上は聞かないことにした。

「王族といえば、神白君もだよね?」

「そう、多分あの方も訳アリ。本当に不思議だよね、同じクラスに2人も揃うなんて」

プシュッ。

プルタブを開けてジュースを飲む。

渇いた喉に染み込んでいくのを感じる。

「もしかして……血液の方がよかった?」

「はい?いやいや……」

「あ、よかった。迷ったんだよね、買うとき」

炭酸の方がよかった?と同じ調子で聞かれた。

「え、血液ってあるの?」

一体、この学園はどうなってるの。

「うん。購買にあるよ。ヴァンパイアの生徒は他にもいるし、他にも飲む種族いるしね」

「入手経路って?……まさか特進の生徒から搾り取っているんじゃ……」

顔から血の気がサーっと引くのを感じた。

「あー、それは無い無い」

ククッと喉で笑われちゃった。

「政府から提供されるんだ。華音ってホントに何も知らないんだね」

もう無知を隠すのはムリそうだ。

「何せ訳アリだから」

正直に言うことにした。

「じゃ、この学園が出来た経緯から話そうか」

リンは一口ジュースを飲んだあと話を始めた。



 「話は明治初期にさかのぼる。それまで、うちらは好き勝手してたんだ。お腹がすいたら人を捕まえて、食べちゃったりとか。勿論、目立たないように乱獲はしなかったけど」

「最初から、中々ハードな内容だね」

「やっぱりそこから知らなかったか」

リンは苦笑い。

「でも、文明開化で世の中が光に溢れた。うちらはどんどん肩身が狭くなった。それを危惧した魔王、つまり学長のお父様が政府と交渉に乗り出したんだ。向こうも元から、こちらの能力に興味を持っていたらしい。まだ暗殺とか密約が普通にあった時代だからね。こちらが一般市民を襲わないこと、護衛・スパイのための人材提供をすることを条件に、政府が、必要なものや静かに暮らせる環境を提供することになった。政府に提供する人材の育成は魔王の管理ということになった。だから今でも次期魔王が学長をしている。で、ついでにこの学園で未来のリーダーシップをとる人材も育ててしまおうって訳。ここなら特進科の人たちも安心でしょ。未来のSP候補がうじゃうじゃいるから」

だから……

ニコッと笑ってリンは続ける。

「ま、死なないように頑張ろうか、姫様!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ