第15話
あたしたちはターゲットの会社から程よく離れたコンビニ前で待ち合わせることにした。
集合時間は夜10時30分。
そして今がジャスト10時30分!
ヤバい。
完全に遅刻だ……。
人通りが比較的多い通りを小走りで駆け抜ける。
支度に手間取ってしまった。
大学生風で、なおかつ任務で動きやすい服装というのはなかなか難しい。
紺野先生のアドバイスに従って、慣れない化粧もしてきた。
はぁ……。
リンは笑って許してくれそうだけど、神白君は……。
さぞかし冷たい視線を送ってくるだろうな……多分。
「お待たせ」
待ち合わせ場所に着くと2人はあたしを待っていた。
2人とも、パッと見は大学生。
変化している神白君はともかく、いつも童顔なリンもそれらしく見える。
あたしは大丈夫かな?
「華音、遅いよ。心配したんだからね!」
「ごめんなさい」
彼の視線も突き刺さる。
「……行くぞ」
あれ?
小言は無しみたい。
助かった!
あたしは2人の背中を追いかけた。
「で、二次会はどこ行く?」
歩き出してちょっと経った頃、神白君はいきなりあたしに話しかけた。
「え……?」
二次会って何の話だ?
「あたし居酒屋で焼き鳥食べたーい!」
リンは元気に答える。
「お前は何がいいんだ?」
状況が呑み込めなくて、あたしは答えられない。
「ちょっと待ってろ。今から店探すから」
そう言うと神白君は学校で支給された端末をいじりだした。
ブブッ!
あたしの端末が震えた。
(from神白 話合わせろ。黙ったままじゃ不自然)
なるほど、演技だったのか!
「あたしも焼き鳥がいいな」
「ん。了解」
こんな話をしていると、前方に2人組の警察官を見つけた。
胸がドキドキする。
これから不法侵入しようと思っている時に出会いたい相手ではない。
どうやら制服姿の高校生に声を掛けているようだ。
今の時間帯、このあたりは居酒屋とバーぐらいしか営業していない。
11時前とはいえ、高校生がいてよい場所ではないからなぁ。
あたしは大学生に見えているのかな。
不安になってきた。
そうこうしているうちに、警察官との距離はあと5m。
向こうがあたしたちに気付いた。
手の平にじんわりと汗がにじむ。
あと3m。
胸の鼓動が治まらない!
周りに聞こえるんじゃないかってくらい大きな音で鳴っている。
「決めた!この店はどうだ?」
「賛成!」
「この道をまっすぐ進めば着くらしい」
「ほら、行くよ!」
そう言うとリンはあたしの手を握った。
そしてアイコンタクト。
(大丈夫だって)
少しだけ鼓動が治まった。
警官の目の前を横切る。
特に何も言われなかった。
あたしたちはそのまままっすぐ進んだ。
「はー」
思わずため息が零れる。
「そんなに心配しなくても。任務前からこんな調子で大丈夫?」
リンは苦笑い。
「おい、ストップ。誰が聞いてるか分からない。うかつに口に出すな」
今は人通りの多い道から外れ、オフィスビルや民家が混在する地域に入っている。
あたしたちの他に通りに人はいないけど、気を引き締めなおす。
「あそこだ」
指の先には3階建ての古いオフィスがあった。
2階部分はまだ電気がついている。
「1階がオフィス、2階が社長室、3階が倉庫として使われている。社長は6時には帰宅するが、秘書は毎晩遅くまで残っているらしい。これは秘書が帰るまで待機だな。」
そう言うと、建物の斜め前にある公園へ入っていく。
「木の上で身を隠せ」
神白君はすっと木の上に上った。
あたしとリンは、その隣の木に一緒に上る。
それから、秘書が帰るのを静かに待った。
「動き出した!帰るらしい。引き続き観察」
「了解」
あたしたちは端末を使って、秘書の動きを探っていた。
それにしても、この機械は便利!
見た目はスマートフォンと同じだから、人前で使っても怪しまれない。
真正面から見ない限り何を見ているか分からない造りになっていて、それ以外の角度ではネットやチャットの画面になっている。
そして、仲間同士と連絡用の無線、メール、チャット機能付。
今、神白君は望遠鏡、あたしは温度センサー、リンは盗聴器として使っている。
他にもスパイに必要な機能が充実している。
落としたら大変なことになりそうだけど。
こんな怪しい機能が付いていて、
「ただの携帯です」
ではすまされないよね。
社長室の電気が消えてしばらくすると、秘書が建物から出てきた。
「動くなよ」
端末越しに指示が来た。
あたしたちと秘書との距離は10mも離れていない。
息を潜めて秘書が車に乗り込むのを見守る。
秘書はあたしたちに気づくことなく車を発進させた。
「万が一秘書が戻ってきて、鉢合わせになると困る。このまま30分待つ」
「了解」
そのまま時が過ぎるのを待った。
初任務開始です。




