表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/16

第1話 Unhappy birthday

「ジリリリリリリ……」

目覚まし時計の音が頭に響く。

2月初めの朝は起きるのが辛い。

そのせいかな? いつもより体が重く感じる。

もうあと5分、夢うつつでいたいと思う欲望を抑え、あたしはベッドから起き上がる。



「華音ちゃん、おはよ~。そしてハッピーバースデー!」

顔を洗って眠気を飛ばしてリビングに入った途端、元気な声が掛かる。

母さんだ。

「おはよ」

それだけ返した。少し照れくさいな、なんて。

今日で15歳になった。

といっても、今は高校受験を目前に控えた受験生。

時間よ、止まれっ……と思ってる身としては、素直に喜べない。

「そうそう。お父さんが今日の夕方ごろ、帰ってくるって。昨日メールが来たのよ」

それを聞いて、一気にうれしくなる。

「何か月ぶりだっけ?父さんが帰ってくるの。もう顔忘れちゃったかも」

「なに、親父帰ってくるって?うわ、ヤバい。こんな時間。」

階段の上からお兄ちゃんの焦った声。どうやら、寝坊だ。

どうも、あたしと比べて朝に弱いらしい。

「奏多、ごはんは~?」

「ムリ!」

それだけ言うと、猛スピードで玄関から飛び出ていった。

「華音ちゃんもそろそろ時間でしょ?そろそろ準備しなさい」


玄関の鏡で自分をチェックしてから、玄関を開ける。

「行ってきます!」

肌がピリピリするくらいの寒空の中へあたしは飛び出す。



「華音ちゃん、おめでとう。」

家からすぐの十字路で、ゆきが待っていてくれた。

物心つく前から一緒にいる、私の大親友。

ただ、ゆきはどこにでもいる中学生ではない。

幸田ゆきといえば天才プログラマーとして、(私の知らない世界では)知らない人がいないくらいの有名人、らしい。

パソコンを前にすると、あなた、誰?ってぐらい豹変する。

ま、あたしとしては、いつものほほ~んとしているゆきのほうが好きだけどね。

「ゆきもおめでとう。高校決まったってね」

才能のおかげで、高校からのスカウトまで来たらしい。

日下部学園という、一般入試がないという特殊な超エリート校。

実はお兄ちゃんも通っている高校2年生だ。

一体彼のどこが優れているのか、未だに分からないが……

途端にゆきの顔が曇る。

「だって、今より華音ちゃんと会えなくなっちゃう」

ゆきは、もうウル目になっている。

「受験校って東高でしょ?真逆だもん。一緒に通学できないよ」

「会えないわけじゃないし。大体、まだ入学まで2か月あるからそれまでいっぱい遊ぼ!」

ここで学校に到着。

「じゃ、帰りは5時にここで待ち合わせね」

「うん」

クラスが違うため、ゆきとは下駄箱で分かれた。



「お待たせ」

5時を少し過ぎた頃、ゆきが校舎から出てきた。

「書類がいっぱいもう大変。先生たちには捕まるし」

そりゃ、わが中学のホープだもん。

仕方ないよ。

日がどっぷりと暮れた道を2人で歩きながら、他愛もないことを2人で話す。

ゆきはおしゃべりじゃないが、近くにいてホッとできる存在。

商店街を抜け、少し人通りの少ない道に入ったところで、

「幸田ゆきだな」

振り向くと、筋肉質で黒っぽい服にサングラスという100%怪しい男が後ろに立っていた。

おしゃべりに夢中で気づかなかった。

周りを見渡すと似たような男が1,2……3人!

「そっちに用はない。早く消えろ」

「あんたたち、誰? ゆきに何の用?」

震えているゆきの手を握って、ゆっくり下がりながら聞いた。

「お前には関係ない。そいつをさっさと……渡せ!」

それを合図に他の3人が走ってきた。

「こっち!」

すぐ傍にあった狭い路地に、放心状態のゆきを引っ張り込む。


「はっ…はっ…」

2人で逃げる、逃げる。

私はとにかく、ゆきは運動に向いていない。

それに加え、細道の土地勘は2人とも皆無に近い。

「やばっ」

気づくと、さっきより人気のない所へ出てしまった。

「鬼ごっこはおしまいでいいか? 少し飽きた」

路地を抜けた先で、男たちが待ち受けていた。

後ろからも1人追いかけてくる。

そして、じりじりと包囲網が狭まっていく。

何か方法はないか。

もう距離は2メートルを切っている。

もう、ダメ。

最後の抵抗のため、息を吸い込む。

「近寄るなーっ」

一瞬、体の中で熱いものが駆け巡って、

ゴウッ!

包囲網とあたしたちの間に炎の壁が出現した。

そして、あたしの視界がかすかに赤くなった、気がした。


何が起きたか分からない。

けれど、男たちがひるんで腰を抜かしていることは確認できた。

「行こう」

今にも崩れ落ちそうなゆきの手を引き、あたしは夢中で走る。

人通りのある道を抜けてから、やっと一息ついた。

ゆきはまだショックのせいか、喋れそうにない。

お互い無言で歩く。

あたしが強烈な喉の渇きに気づいたのは、ゆきを送り届けたあとだった。



「ただいま。お水頂戴」

玄関に入るとこれだけ言って、座り込む。

「おかえり。華音、久しぶりって……。おい、大丈夫か」

懐かしい父さんの声。これだけ聞くと、あたしは意識を手放した。



目を覚ましたあたしが一番最初に見たものは、今までで一番深刻そうな父さんの顔だった。

父さんがゆっくり口を開く。

「華音、よく聞いてくれ。信じられないかもしれないが、お前は……ヴァンパイアだ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ