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炎樹8才~出会い~

初恋は6才の時で、炎樹には全く自覚はなかった。浅黒い肌、黒い髪、アメジストの瞳。その男の子に会ったのは森の中。一目で、外の血を引いていると知れた。森歌の民には浅黒い肌の人がいないからだ。少年は歌を歌っていた。それは、森歌の民の歌と同じ力があり、恋を歌った歌だった。炎樹は少年が歌い終わるまでじっと待つ。炎樹の黄金色の瞳が好奇心に煌めいていた。少年が歌い終わると、炎樹はパチパチと手を叩いた。少年が目を見開いて驚く。


「いつからいたんだ………?」


「んー、途中から?私、炎樹。あなたの名前は?ねぇ今の歌は何て言うの?何処の歌?」


好奇心から詰め寄って聞けば、逃げ腰になった少年が口を開く


「………一気に沢山聞くなぁ………俺の名前は紫音しおん。今の歌は『愛を乞う』、俺の親父の故郷の恋歌だ」


「素敵な曲ね!私今の曲好き!!」


「変な奴だなぁ………、皆俺の事気味悪がって見てたのに」


「なんで?」


「この色の肌が珍しいんだろ?こっちじゃ全然見ない色だしな」


「不思議で綺麗な色なのにね?赤銅色っていうの?」


そう言えば、照れたように紫音が叫んだ。


「やっぱり、お前変!!!」


「変じゃないもん綺麗なものを綺麗って言って何で悪いの!!!」


「はぁー別にいいケド………」


「紫音はの父様は外国とつくにのひとで母様が森歌の民だから『歌』が歌えるのね」


「あぁ………母さんにこっちの歌も教えて貰ったんだけどな、俺には親父の国の歌の方が性に合う」


「私の父様と母様が良く言うよ?歌は無理に歌うもんじゃなくて、魂に添って歌うものだって。紫音の魂はきっと今の歌に近いのね。紫音はココで暮らすの?」


「いや。親父んトコ。今日は爺ちゃん婆ちゃんに挨拶に来ただけだから」


「そうなの?折角『歌』えるのに………」


残念そうな顔をすれば、ポンポンと頭を撫でられる。


「祭りの時とかは来るぞ?でも、歌えるのは内緒な?まだ誰も知らないんだ」


「え?父様や母様も?!」


「歌える子がいる場合は強制的に森歌の民の学校来なきゃなんないだろ?俺、親父みたいに傭兵になりたいから」


「そっかぁ………わかった。二人だけの秘密ね?」


それが出会い。しかし、次に再会した時には少年は全く別人のようになっていたのだけれど。


 

        ※             ※            ※



炎樹は母様から目を逸らし、むくれた状態で隣の少年を見た。紫音だ。所々傷が出来て着衣はビリビリになっている。その隣には、もっとボロボロになった少年が歯を食いしばってこちらもむくれてそっぽを向いていた。周りにはその子の両親、紫音の祖父母、そして学校の先生、そして炎樹の母様がいた。


「さぁ、喧嘩の原因はなんですか?」


誰も何も言わない。しかし空気は完全に紫音が悪い事になっていた。ボロボロの少年をほぼ一方的に殴っていたのだ。しょうがあるまい。炎樹は喧嘩の原因は知らない。いきなり、喧嘩が始まって、炎樹はそれを止めに入ったのだ。一緒に怒られる理由は………心当たりが無いでもない。さっきの喧嘩の時売り言葉に買い言葉で紫音を傷つけたからだ。


「僕知ってるー」


「僕も」


「私もー」


そう言ったのは窓の外からピョコピョコ飛んで中を見る低学年の子供たちで、一番ボロボロの少年が「馬鹿!言うなよ」と慌てている。それを見て母様がボロボロの少年に言った。


「小さな子たちに言われるのと、自分から言うのどちらがいい?」


「っ………僕から………イイマス。コイツがいっつもツンと澄まして生意気だから………その………」


「外の奴はどうせ歌えないんだから出てけって言ってたー」


「たー」


「っオマエラ!!!」


言いにくい事を、小さな子たちに言われてボロボロの少年の顔が羞恥に染まる。


「「夏歌かか!!!」」


男女二人の怒声が響く。夏歌と呼ばれた子の両親だ。


「あんたって子は!!!なんてこと言ったんだい!!!」


「いてっ痛ぇよ母ちゃん!!!」


夏歌の両親は、さっきまで誤解していた事を恥じるように、夏歌に無理矢理頭を下げさせて紫音に謝る。


「ごめんねぇ………紫音君。うちの子が悪かったね」


「別に」


対する紫音はそっけない。ただそっぽを向いて言うだけだ。そんな中母様が溜息を吐いて夏歌を見る。


「………紫音は森歌の民です。自分が何を言ったのか理解できますね?何が悪いのかも」


「う………ハイ」


「なら、二度としない事です。あなたが同じ立場になった時の事をお考えなさい」


「はい………ごめんなさい」


夏歌は、両親に叱られた時よりも落ち込んでいるように見えた。紫音に一度謝ると両親が更に紫音に謝りながら夏歌を連れて部屋を出て行く。

紫音はそれを完全に無視した。その様子に残った大人たちが溜息を吐く。

紫音は、今年の「豊夏とよかの月」に商隊に連れられて一人でここに来た。戦で父を亡くし、流行り病で母を亡くしたので唯一の肉親である祖父母を頼って来たのだった。そこには以前、炎樹に会ったキラキラした活発な少年は何処にもいなくなっており、陰鬱で無口な少年だけがそこにいた。先週から学校に通うようになったものの、周囲と溶け込もうとせず、炎樹の事もまるで知らない人を見るように接し、全く歌おうとしない。また色々な少年と小競り合いが絶えなかった。教室の中ではスカした嫌な奴という見方が定評となりつつある。


「さて、炎樹、何故あなたがここに残されたか分かりますね?」


「はい………母様」


この口調の時の母様は炎樹の母様と言うより族長の妻と言う立場である事が多い。気まずい思いで母様を見れば哀しそうな視線とぶつかって、炎樹は益々居心地が悪くなる。

先程の喧嘩を止めに入った時、紫音に「お前なんか偉そうにしてるけど歌が下手だろ!!」と言われてカチンときて「あんたなんて全然歌えないじゃない!!」と言い返してしまったのだ。それは森歌の民の歌をという意味だったのだけど………その瞬間の紫音の傷ついた顔………目に焼きついて離れない。以前は歌っていた紫音だから、そんな事で傷つくなんて思わなかったのだ。


「歌えないというのが森歌の民にとってどれだけつらい事か分かりますか?」


「だって、紫音は………歌えるでしょ?」


秘密の約束、と言ったのを瞬間忘れて慌てて口を閉じるがもう遅い。


「紫音が歌えると知ってたのですね?だから傷つかないと思ったのね?でも紫音は今は歌えないわ。そうね?紫音」


母様の言葉に驚いたように紫苑が固まる。それは、その場にいた大人達も一緒だった。


炎妃えんき様、それは………」


紫音の祖父が母様の村での尊称を呼ぶ。


「先程、紫音の眼を見ました。外国とつくにの血を引く子供は歌えない事が多いので私も驚いたのですが………この子の魂に大きな傷が見えます。それが治れば歌えるでしょう」


「俺………また歌えるの?」


茫然と呟いたのは紫音で………。


「えぇ歌えますよ。ちゃんと傷を治せばですが」


母様が優しくそう言えば、紫音が今まで堪えていた言葉を吐き出す。


「俺、俺、ずっと親父と母さんの為に歌いたかった!!!けど前みたく歌えなくて………両親の為に歌えない息子なんて何て薄情な奴だって………!!!」


そう言って蹲ってしまった紫音をお祖父ちゃんとお祖母ちゃんが優しく抱きしめる。


鈴音れいんに似て馬鹿な子だねぇ………なんで祖父ちゃんや祖母ちゃんに言わなかったの?」


「前は歌えたのに今は歌えないなんて信じて貰えないと思ってた………!!!」


「良くある事なんだ。前世からの傷や、今世でとても傷ついたりした時に魂に傷が走る。それがあるとわし等は上手く歌えなくなるんだよ。一人で苦しかったなぁ………」


そう言ってお祖父ちゃんとお祖母ちゃんが紫音の背中を撫でてやると低く嗚咽が聞こえた。


「母様、母様。私どうしよう………酷い事言っちゃった!!!」


ボロボロ泣きながら母様を見れば、そこにあるのは優しい笑顔で。


「炎樹にそんなつもりが無くても人を傷つけてしまう事はあるの。だから言葉は選ばないといけないわ。出てしまった言葉は口の中には戻らないからね?さ、謝りに行きましょう?」


うんうん頷いて母様と一緒に紫音の所に行く。


「し、しお、ん、ご、ごめん、な、さい~~~!!!」


わーわー大泣きして言えば泣き顔を見られた所為かバツの悪そうな紫音と目があって………。


「ごめん、俺も悪かった。ごめんね炎樹」


そう言って頭を撫でてくれる手は優しくて初めて呼ばれた名はほろ苦かった。


「炎樹、紫音の魂の傷を治すお手伝いをしてくれないかしら?」


「すんっ。お手伝い?」


「魂の傷は森歌の民の『歌』で治すの。あなたにもできるわよね?」


その言葉にコクコク頷くと母様が笑って言った。


「皆が忙しい時は炎樹が歌ってあげなさい。紫音の気持ちになって、紫音の心に添うのよ?そうすればきっと速く紫音も歌えるようになるわ」


それから炎樹は皆が忙しい時も忙しくない時も紫音の為に癒しの歌を歌った。自分が紫音を傷つけた罪滅ぼしだと思ったからだ。紫音は黙って聞きながら時々ホロリと涙を零す。そう言う時が一番心に添えたときだと知るのはもっと先、紫音が歌を取り戻して炎樹のために歌ってくれた時だった。


ほろ苦い炎樹の初恋(当人自覚なし)でした。これから仲良くなれるといいね。

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