第9話 「真の試練」
【シーン:王都冒険者ギルド・緊急会議室】
【エステル レベル39】
空気が、
張りつめている。
長机の周囲には、
ギルド長ローガン。
王国の学者。
騎士団長。
そして、
エステル。
「消えている」
学者が、
低い声で言う。
「死んだのではない」
「存在そのものが、
消滅している」
エステルの指が、
震えた。
---
「場所は、
世界樹の根元付近」
ローガンが、
続ける。
「世界の理を、
支える要だ」
エステルは、
胸が苦しくなる。
嫌な予感が、
はっきり形になる。
---
【シーン:世界樹外縁・調査隊】
【エステル レベル39】
巨大な樹。
空を突き刺すほどの高さ。
根元には、
黒い亀裂。
触れた岩が、
音もなく消える。
粉も残らない。
「……戻せますか」
リオが、
聞く。
エステルは、
首を振る。
「……わからない」
初めて、
正直に言った。
---
調査兵が、
足を滑らせる。
亀裂に、
触れる。
体が、
霧のように消えた。
悲鳴すら、
残らない。
「……存在回復!」
光を放つ。
だが、
何も起きない。
戻らない。
エステルの顔が、
真っ青になる。
---
【シーン:世界樹根元】
【エステル レベル39】
奥へ進むほど、
空気が薄い。
呼吸が、
苦しい。
地面に、
無数の消失痕。
ここでは、
存在回復が効かない。
エステルは、
膝をつく。
「……私の力、
万能じゃない」
---
ローガンが、
近づく。
「文書にあった」
「存在を戻すには、
定義が必要だ」
「お前は、
無意識にやっている」
エステルは、
顔を上げる。
「……定義?」
「その者が、
何者で、
何を成す存在か」
「それを、
理解しているほど、
戻せる」
エステルは、
思い出す。
リオ。
カイン。
兵士たち。
顔が、
浮かぶ。
---
【シーン:世界樹・核】
【エステル レベル39】
巨大な結晶体。
ひび割れ。
黒い光が、
漏れている。
「核が、
壊れかけている」
学者が、
叫ぶ。
黒い塊が、
湧き出す。
存在喰らい。
触れたものを、
消す魔物。
---
戦闘が、
始まる。
リオが、
矢を放つ。
当たった部分が、
消える。
効かない。
カインが、
斬る。
刃ごと、
消える。
「……無理」
エステルは、
前に出る。
存在喰らいが、
触手を伸ばす。
カインが、
飲み込まれる。
「カイン!」
消える。
何も、
残らない。
---
エステルの思考が、
止まる。
膝が、
崩れる。
でも。
思い出す。
カインの言葉。
「前を向け」
リオの笑顔。
守ると、
決めた。
---
エステルは、
立ち上がる。
目を閉じる。
カインを、
思い描く。
無口。
仲間思い。
自分を、
信じてくれた人。
「……カインは、
生きる」
「私の仲間として」
胸の奥が、
燃える。
光が、
爆発する。
---
空間が、
歪む。
消えたはずの場所に、
影が生まれる。
カインが、
吐き出される。
「……え?」
存在回復が、
進化した。
「定義回復」
ステータスに、
表示される。
---
存在喰らいが、
悲鳴を上げる。
光に、
包まれる。
消える。
核のひびが、
ゆっくり塞がる。
---
【シーン:世界樹外縁】
【エステル レベル45】
カインは、
無事だった。
リオが、
泣きながら抱きつく。
エステルは、
力が抜ける。
ローガンが、
静かに言う。
「……お前は、
世界を、
書き換えた」
エステルは、
首を振る。
「……仲間を、
戻しただけです」




