第6話 「黄昏の五刃の凋落」
【シーン:中級ダンジョン・赤岩洞】
【ガルド レベル210】
剣を、
地面に突き立てる。
荒い息が、
洞窟に反響した。
「……くそっ」
額から、
血が流れる。
目の前には、
巨大な岩皮トロル。
分厚い皮膚。
鈍重な体。
だが、
一撃が重い。
「レオン!」
ガルドが、
叫ぶ。
双剣士のレオンが、
横から斬りかかる。
刃が、
岩皮に弾かれる。
「硬すぎる!」
ミュラが、
呪詛を放つ。
黒い霧が、
トロルを包む。
動きが、
鈍る。
「フェイ!」
「今だ!」
フェイの召喚獣、
炎狼が突進する。
炎が、
トロルの腹を焼く。
だが。
トロルは、
倒れない。
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「回復だ!
早くしろ!」
ガルドが、
叫ぶ。
後方にいる、
治癒術師の少女が、
慌てて詠唱する。
「小回復!」
淡い光。
ガルドの傷が、
わずかに塞がる。
「足りない!」
ガルドは、
舌打ちする。
かつて。
ここには、
エステルがいた。
戦闘の合間、
黙々と回復を飛ばしていた。
地味だが、
確実だった。
「……くそ」
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トロルの棍棒が、
振り下ろされる。
ガルドは、
盾で受ける。
ぐしゃり。
盾が、
へこむ。
腕が、
痺れる。
レオンが、
背後に回る。
首を狙う。
刃が、
皮膚を裂く。
だが、
浅い。
トロルが、
暴れる。
フェイの炎狼が、
殴り飛ばされる。
ミュラが、
転倒する。
「ミュラ!」
ガルドが、
駆け寄る。
トロルの足が、
振り下ろされる。
避けきれない。
骨の砕ける音。
ミュラの体が、
折れ曲がった。
「……ぁ」
声にならない声。
治癒術師が、
慌てて詠唱する。
「中回復!」
光が、
ミュラを包む。
だが、
折れた骨は、
戻らない。
「なんで……」
治癒術師の少女は、
泣きそうになる。
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ガルドの胸に、
嫌な予感が走る。
「撤退だ!」
叫ぶ。
レオンが、
ミュラを担ぐ。
フェイが、
炎狼で牽制する。
トロルの咆哮が、
背後で響く。
なんとか、
洞窟の外へ出た。
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【シーン:赤岩洞・入口】
【ガルド レベル210】
ミュラは、
地面に横たわっている。
顔は、
真っ青。
呼吸は、
浅い。
治癒術師が、
必死に回復をかける。
だが、
出血は止まらない。
「……エステルが、
いれば……」
誰かが、
呟いた。
ガルドは、
歯を食いしばる。
思い出す。
膝をつく、
小さな少女。
泣きながら、
「わかりました」
と言った声。
自分が、
追い出した。
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ミュラの体が、
びくりと跳ねる。
そして、
動かなくなる。
沈黙。
治癒術師の少女が、
手を止める。
「……ごめんなさい」
それだけ、
言った。
フェイが、
顔を覆う。
レオンは、
地面を殴った。
ガルドは、
立ち尽くす。
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【シーン:王都冒険者ギルド】
【ガルド レベル210】
受付前。
ポリーが、
黙って遺体搬送書類を受け取る。
視線が、
冷たい。
周囲の冒険者たちが、
ひそひそと話す。
「黄昏の五刃、
最近ダメらしいぞ」
「回復役、
失ったんだろ」
ガルドの胸が、
締めつけられる。
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【シーン:簡易宿・一室】
【ガルド レベル210】
暗い部屋。
誰も、
口を開かない。
ガルドは、
壁に寄りかかる。
「……俺の、
せいか」
誰も、
否定しない。
沈黙が、
答えだった。
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一方。
【シーン:街道・野営地】
【エステル レベル32】
焚き火の前。
リオと、
カインが、
笑っている。
今日の依頼は、
無事成功。
エステルは、
二人の傷を
丁寧に治す。
「ありがとう」
その言葉が、
胸に染みる。
エステルは、
知らない。
かつての仲間が、
崩れていくことを。




