第5話 「能力の正体に近づく」
【シーン:王都冒険者ギルド・資料室】
【エステル レベル29】
埃の匂いが、
鼻をくすぐる。
石造りの壁に囲まれた、
静かな部屋。
ここは、
ギルドの資料室。
普段は、
ほとんど使われない。
エステルは、
机の前に座っていた。
向かいには、
ギルド長ローガン。
そして、
ポリーもいる。
三人だけ。
扉は、
内側から施錠されている。
「まず言っておく」
ローガンが、
低い声で言う。
「今日の話は、
外でしてはならない」
エステルは、
小さく頷く。
胸が、
ざわつく。
---
ローガンは、
厚い本を机に置いた。
革表紙。
ところどころ、
焼け焦げている。
「神代文書の写しだ」
「完全なものではない」
「だが、
お前のスキルに
近い記述がある」
ゆっくり、
ページを開く。
難しい文字。
だが、
一部だけ、
現代語に訳されている。
『存在回帰』
『存在再定義』
似た言葉が、
並んでいる。
「昔、
世界が崩壊しかけた時代がある」
「その時、
ひとりの術者が現れた」
「死んだ者を、
戻した」
「消えた者を、
呼び戻した」
ローガンは、
一度、
言葉を切る。
「だが、
世界が歪んだ」
エステルは、
息を呑む。
---
「生と死の境目が、
曖昧になった」
「魂が、
留まる場所を失った」
「結果、
その術は封印された」
エステルは、
震える声で聞く。
「……じゃあ、
私の力は……」
「同系統だ」
ローガンは、
はっきり言う。
ポリーが、
不安そうに
エステルを見る。
「怖がらせたいわけじゃ
ありません」
「ただ、
知っておいてほしいんです」
エステルは、
膝の上で、
拳を握る。
---
「お前のスキルは、
回復魔法じゃない」
ローガンは、
言い切った。
「回復とは、
傷を治すことだ」
「だが、
お前のは違う」
「存在そのものを、
元に戻している」
「時間を戻すのとも、
違う」
「正しい状態を、
再定義している」
エステルは、
頭が、
追いつかない。
「……難しいです」
正直に言う。
ローガンは、
小さく頷いた。
「だから、
簡単に言う」
「お前は、
死をなかったことに
できる」
心臓が、
強く跳ねる。
---
「ただし、
代償がある可能性もある」
「文書が、
欠けている」
「何が起きるか、
誰にもわからない」
沈黙。
エステルは、
目を伏せる。
「……私、
そんな力、
欲しくなかった」
ポリーが、
そっと言う。
「でも、
エステルさんは
その力で
人を助けました」
エステルは、
顔を上げる。
「……守りたいんです」
「誰かが、
死ぬのは、
嫌です」
ローガンは、
しばらく考えてから、
言った。
「なら、
条件がある」
---
「戦場で、
むやみに使うな」
「使うのは、
本当に
守りたい相手だけだ」
「そして、
必ず報告しろ」
エステルは、
強く頷く。
「……約束します」
ローガンは、
少しだけ、
表情を緩めた。
---
【シーン:王都・路地】
【エステル レベル29】
資料室を出ると、
足が重かった。
世界が、
変わって見える。
自分は、
普通じゃない。
それでも。
「……普通に、
生きたい」
そう、
呟く。
---
【シーン:簡易宿・共有部屋】
【エステル レベル29】
リオと、
カインが待っていた。
「どうだった?」
リオが聞く。
エステルは、
少し考えてから、
言う。
「……すごく、
危ない力みたい」
カインは、
眉をひそめる。
「でも、
俺は助けられた」
リオも、
頷く。
「俺も」
エステルは、
胸が、
じんとする。
「……ありがとう」
小さく、
言った。
---
【シーン:簡易宿・ベッド】
【エステル レベル29】
天井を見上げる。
怖い。
でも、
逃げない。
この力で、
誰かを守る。
それだけは、
決めた。




