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第1話 「追放と最底辺の始まり」



【シーン:黄昏の五刃・野営地】

【エステル レベル25】


焚き火の火が、

ぱちぱちと音を立てて弾けていた。


赤く揺れる炎の向こう側で、

ガルドは腕を組んだまま立っている。


重戦士用の分厚い鎧は、

無数の傷でくすんでいた。


その前に、

エステルは膝をついていた。


理由は、

わからない。


ただ、

嫌な予感だけが胸を締めつける。


「……結論は出た」


低い声だった。


焚き火の音よりも、

重く、冷たい声。


「お前は、

このパーティーには必要ない」


言葉が、

意味を持つまでに、

少し時間がかかった。


必要ない。


それは、

追い出されるということだ。


「え……?」


喉から漏れた声は、

自分のものとは思えないほど、

かすれていた。


ガルドは視線を逸らさない。


「回復が遅い」


「回復量が少ない」


「戦闘中、

お前のせいで

何度も危ない場面になった」


ひとつずつ、

石を積み上げるように、

言葉が並べられていく。


双剣士のレオンは、

腕を組んだまま沈黙している。


呪術師のミュラは、

ちらりとこちらを見て、

すぐに目を逸らした。


召喚士のフェイも、

何も言わない。


誰も、

エステルの味方ではなかった。


「……私、

ちゃんと回復、

してきました……」


震える声で、

必死に言う。


ガルドは、

鼻で笑った。


「小回復だろう」


「そんな初級魔法で、

前線を支えられると思うな」


「レベルも25」


「足を引っ張っているのは、

事実だ」


胸の奥が、

ぎゅっと潰れる。


言い返したい。


今まで、

眠る時間を削って

回復魔法の練習をしてきた。


ポーションの知識も、

必死で覚えた。


それでも、

言葉にならなかった。


喉が、

詰まる。


視界が、

にじむ。


「……明日の朝、

ここを出ていけ」


それで、

終わりだった。


誰も止めない。


誰も、

声をかけない。


焚き火の音だけが、

虚しく響く。


エステルは、

ゆっくりと立ち上がった。


「……わかりました」


それだけ言うのが、

精一杯だった。


背を向けると、

涙が溢れた。


拭うことも、

できなかった。


---


【シーン:王都冒険者ギルド】

【エステル レベル25】


大きな扉を押し開けると、

騒がしい声が耳に入る。


酒の匂い。


汗の匂い。


血の匂い。


冒険者ギルドは、

いつも通りだった。


エステルだけが、

場違いに感じる。


受付カウンターに立つと、

若い女性が微笑んだ。


「いらっしゃいませ。

ご用件は?」


「……登録の、

変更を……」


声が小さい。


案内嬢のポリーは、

首を傾げる。


「パーティーからの

離脱手続きですね?」


エステルは、

小さく頷いた。


ポリーは、

少しだけ、

困ったような顔をした。


「理由を、

お聞きしても……?」


「……追放、

です」


その瞬間、

ポリーの表情が固まる。


「……そう、

ですか」


優しい声だった。


それが、

余計に辛い。


書類を書き終えると、

ポリーは一枚の札を差し出した。


「こちらが、

単独冒険者としての

登録証です」


木製の札には、

はっきりと刻まれている。


【Fランク】


最底辺。


胸が、

ちくりと痛む。


「……何か、

できることはありますか?」


ポリーが、

そっと言う。


エステルは、

首を振った。


「……大丈夫です」


本当は、

大丈夫じゃない。


でも、

そう言うしかなかった。


---


【シーン:ギルド前通り】

【エステル レベル25】


ギルドを出ると、

空は曇っていた。


太陽が、

見えない。


自分の心みたいだ、

と思った。


ポケットには、

わずかな銅貨。


装備も、

古いローブと杖だけ。


それでも、

生きなければならない。


「……冒険、

するしか、

ないよね」


小さく、

呟く。


誰に聞かせるでもなく。


掲示板に貼られた依頼書を、

一枚ずつ見る。


「下水遺跡の掃討」


「初心者向け」


報酬は少ない。


でも、

今の自分には十分だ。


依頼書を剥がす。


指が、

少し震えていた。


「……生きるために」


そう、

自分に言い聞かせる。


エステルは、

一歩踏み出した。


それが、

すべての始まりだった。


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