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第6話 リセットさん

「ゲームなんかしてるの? 珍しい」

 人がいなくなった放課後の教室でヤマトを待っていると、すぐ側でピーコの声がした。顔を上げた僕の代わりに、彼女は画面をのぞき込む。

「これ3DSよね。お兄ちゃんが持ってたわ。……どうぶつの森? 昔のだね」

 四月を前に、僕は家を出る。引っ越しというほど大げさなものではないが、準備は少しずつ進めていた。3DSは、先週部屋を片付けていたら出てきたのだ。立ち上げてみると、綺麗だった村は雑草で埋め尽くされ、住人の顔触れはすっかり変わってしまっていた。好きだった青猫のマールも、引っ越していなくなっている。

「ゆうたろうの頼みを聞いたら草刈ってくれるんだっけ?」

「あれ、自分で除草する方が楽なんだよな」

 ゲームに出てくる幽霊のキャラクターの依頼は、村中に散らばった人魂を集めること。クリアすれば村中の草を綺麗に刈り取ってくれるのだが、人魂を集めるのがとにかく大変で、最後の一つが見つからない時などは、もう自分で草刈りをした方が楽だと思ってしまう。

「リセットさんもいたね」

 ピーコが言う。セーブせずに終わって、前のところからやり直そうとした時に現れて説教するモグラのキャラクターである。

「失敗したからって簡単にリセットするな、って叱られるのよね」

 苦笑、といった感じでピーコが笑う。僕は3DSのスイッチを切り、蓋を閉めて机の上に置いた。

「アスムくんは、過去に戻れるなら、いつがいい?」

 ピーコが唐突に、そんな事を言う。

 考えたこともなかった。僕は過去になど戻りたくはない。子供は年齢が低いほど不自由で、思い通りにいかないからだ。

「後悔してる事とか、ある?」

 そう尋ねられて何故か、誰かに対して誠実でなかった時の事と、頓珍漢な言動で苦笑いされた事が、同じ比重で思い出された。後悔は罪の意識から生まれるのだろうか。それとも恥の感覚だろうか。僕は過去の失敗を悔いているのだろうか。それとも、ただ無かった事にしたいだけだなのだろうか。

 消してしまいたい小さな失敗。けれど、何かを引き換えにするほど切実でもない。

「自分は、どうなんだよ」

 問い返すと、ピーコは首を傾げた。

「分かんない」

「分からないのかよ」

 僕のツッコミに、ピーコは反応しない。いつもは、打てば響くように乗って来るのに。

「どうしたんだ?」

 表情が暗い。何かあったのだろうか。

「私、ヤマトと同じ高校、受けられないかもしれない」

 しばらくして、ピーコがぽつりと言った。

「何でだよ。私立、合格したんだろう?」 

 僕の問いに、ピーコは妙に明るい声で答えた。

「模試の成績が悪かったから、先生が駄目だって。お母さんが私立には行かせないって言ってたのを気にしてるみたい。親は大激怒でさ」

 担任は品出しでもするように生徒を高校に振り分けるし、親は親で本人の希望より見栄が大事だ。うちの子は誰々より偏差値の高い学校に合格した。それが、この年齢の子供を持つ親のプライドなのだろうか。

「こんな成績しか取れないなんて情けないって、ケータイも没収されちゃった。お母さんは……」

 ピーコの目が潤んでいるのが見えた。

「子育てに失敗したって」

「そんな言い方……」

 失敗したとは、どういう意味だろう。お前は失敗作だ。そう子供に告げる親の真意が分からない。ただ傷つけたい、それだけなのだろうか。子育てに失敗したのなら、責任は親にある筈だ。謝るのは親の方だ。失敗して、あなたの大切な人生を滅茶苦茶にしました、申し訳ありません、と土下座するべきだ。それなのに何故、被害者のような顔をして子供を責めるのだろう。

「気にするな、ピーコ」

 けれど僕は、それだけしか言う事が出来なかった。自分の語彙ごい力のとぼしさが腹立たしい。ピーコを慰めてやることすら出来ない。

「アスムくん」

 しばら項垂うなだれていたピーコが、かすれた声を出した。

「戻りたい時間、思いついた」

 僕と目を合わさずに、ピーコは言った。

「受精卵の頃に戻りたい。戻ったら、分裂するのを止めるの」

 それは、生まれて来たくなかったと言っているように聞こえた。

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