悪魔のようなイグニス兄弟①~
目の前に立ちはだかるイグニス兄弟を前に、私は思わずため息をついた。
そう。この乙女ゲーム「薔薇の王座」には、合計5人の攻略対象がいる。まだ登場していない隠しキャラクターを含めれば、攻略対象は全部で6人になる可能性が高い。そしてイグニス兄弟は、その中の二人だ。
イグニス家は、ロマンシア大陸全体で最も有名かつ最古の魔法家であり、常に魔法の天才を輩出してきた一族だ。また、王国の最高決議機関である大評議院でも、常に重要な席を占めている。
黒髪の兄、ヴィクトル・イグニスは、天才中の天才であり、15歳の時点ですでに魔導士となった人物だ。
魔導士は、この世界における頂点とも言える存在だ。
无事に魔法学院を卒業して魔法使いとなり、その後、魔導審議会の試練を通過することで、初めて魔導士として認められる。
魔導士とは、一般の魔法使いを圧倒するほどの実力を持つ者である。
ヴィクトル・イグニスは、生まれつき並外れた魔法の才能を持ち、現在、大陸で最も若い魔導士だ。
イグニス家の未来の当主として、ヴィクトルは落ち着いたクールな性格を備えている。
金髪の弟はニコラス・イグニス。
兄ほどではないが、同じく高い魔法の才能を持っている。他の人からは「小悪魔」と呼ばれ、その天使のような外見とは裏腹に、性格は腹黒く、自分が嫌いな相手をからかうのが大好きだ。
兄であれ弟であれ、どちらも親しみやすいタイプではない。
そして今、この兄弟二人が揃って私をじっと見つめている。
「あんたたちは……誰?」
唾を飲み込みながら、私は低い声で尋ねた。
本当は、二人の正体はすでに分かっていた。しかし、それを認めるわけにはいかない。特に兄のヴィクトル──未来で私を火刑に送る男に!
彼と対峙した今、全身が恐怖に包まれているのを感じる。
「俺の名前はニコラス。でも、ニコと呼んでいいよ」
ニコは自己紹介しながら、凍った表情の兄を指差した。
「こいつは俺の兄、ヴィクトル。ヴィックと呼べばいい」
あっさりしてるね……
イグニスの姓こそ明かさなかったが、素直に本名を教えてくれた。
私はこの無頓着とも言える態度に、一瞬呆然とする。
ニコはだらりと窓際にもたれかかりながら、じっと私を見つめて口角を上げた。
「お前は、リアって呼ばれてたっけ?」
彼らの意図がさっぱり分からないが、私は慎重にうなずいた。
「そう……ですけど」
「ふーん、リアね」
ニコは薄く笑いながら肩をすくめた。
「でさ、俺、さっきのゲームにちょっと興味があるんだけど──」
わざと間を置いてから、ニコは目を細めて言葉を続けた。
「どうしてお前は、自分が必ず勝つって分かってたの?」
「まさか……ただ運がよかっただけよ。」
私はとぼけたふりをしながら返事をする
「嘘をつくのはよくないぞ……」
ニコは低く笑いながら手のひらをゆっくりと上げ、小さな火の玉をそこに浮かび上がらせた。
その赤い炎が揺らめく中で、彼の瞳には悪戯っぽい光が宿っている。
「罰が当たるからね」
なんだ!
何をする!
炎を見た瞬間、無意識のうちに火刑のシーンが頭をよぎり、怖過ぎて思わず一歩後退した。
『ははは──い!また僕の出番だよ!
さっきのゲーム、本当にエキサイティングだったね!
それにしても、攻略対象であるイグニス兄弟がこんなに早く登場するなんて、びっくりだよ!』
ソルが再び現れた。
命を救う藁をつかむように、私はすぐに頭の中で彼に問いかけた。
『どうしよう!本来の流れでは、彼らとはカルサ城で出会うはずもないし、絶対どこかがおかしい!』
『まさか、こんなに早くイグニス兄弟に会うなんてね。君、僕が思ってたより優秀だよ。本当にすごい』
『ふざけないで!』
私は思わず叫んだ。
幸い、ソルと話している間は、時間がゆっくりと流れる結界の中にいるようで、あの二人に気づかれずに済んだ。
『脱出を手伝ってくれる?この兄弟、本当に怖いんだけど!』
『どうして?せっかく攻略対象に出会えたのに、そんなチャンスを逃すなんてありえないだろう……よし、ご褒美として、特別な選択肢を追加してあげるよ!』
『特別な選択肢!?ふざけるなーー』
絶望的な気持ちで抗議する私の声も虚しく、目の前に見慣れた選択肢画面が浮かび上がった。
テキストがゆっくりと現れる。
A. すぐ逃げる
B. おとなしく説明する
C. 冷笑して2人に挑戦する
……
どうしてっ!!!
どうして毎回変な選択肢が出てくるんだよ!
『プレイヤーへのご注意──対戦相手が強いため、今回の選択肢は慎重に選ぶ必要があります。失敗すると、死に至る可能性もございますのでご注意ください~~』
『余計なご注意よ!!!』
向こうのヴィクトル・イグニスに火刑台に押し付けられるあの画面が、今でも頭の中に深く刻み込まれていて、私は気が狂いそうになる。
『あんたは助けてくれるんじゃないの?なんでいつも私をからかうんだ!』
『僕は本気で助けてるのに、ほら、正しい選択肢、簡単に分かるじゃん』
『うそ!あんた、結局私が火刑に処される画面を見たいんだろ!』
『まさか、そうなら君を異世界から引き寄せる苦労もしないよ。ちょっと悪戯をしてみたいだけ……あ、つい本音が出ちゃった──』
『ふざけないでよっ!!!』
……
10分後。
目の前に並ぶ3つの選択肢をじっと見つめながら、押す勇気がどうしても湧いてこない。
どれも選びたくない!!!!!




