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第十五話「out of 蚊帳」

――まざれるわけないじゃん、こんなの!!


 シメリはしめやかにキレた。だって箱の外の景色は、見える部分だけでもう地獄だ。

 炎が燃え、雷が落ち、暴風が吹き、土塊が舞い、閃光が咲き、闇が覆い、よくわからない爆発音と、誰かの怒号、そして悲鳴がこだまする。


「おらあ死ね死ね死ね死ね!」

「やらせるかっての!」

「きたねぇぞ! 出てこい!」

「野郎、ぶっ殺してやる!」

「待ってくれ、俺はもうバリア割れた――」

「きゃあ! 撃たれた! ねぇ撃たれたぁ!」

「前半は協力しようって言ったじゃん!」

「あんたが先に!」

「こいつが怪しい動きしてた!」

「違う、誰かが――」


 この短時間で憎み合い、いがみ合い、脱落、裏切り、正体不明の策略が目まぐるしく動いている。粉気が視界に入るたび疑心暗鬼になり、爆力がひとすじ走ればもう闘争待ったなしだ。

 戦闘音が遠ざかると束の間ホッとし、また近づいてくると息を殺す、シメリはそんなことを何度も繰り返していた。

 シメリはコムギをうらやましく思った――彼女は授業と同じくテストも免除されており、今もいつものように寮で寝ているだろう――反面、こんな地獄にコムギが放り込まれずに済んで良かった、とも思うのであった。


「うぅ……お願いだから早く終わってぇ……」


 終わらせることもできる。簡単だ。まっすぐ演習場の外へ走り、『次元隔絶(アイソレーション)』のバリアを脱出すれば終わりだ。

 けどそんなことをしたら、もし生存者が半分以上残っていた場合、シメリの得点は中央値を下回る。『次元隔絶(アイソレーション)』は一方通行だから、戻ることもできず低スコアが確定してしまう。

 ただでさえ属性にハンディキャップを背負っているのに、このうえ成績まで下げられて、劣等生向けのカリキュラムを組まれでもしたら、本格的に落ちこぼれ街道まっしぐら。そんなことになったら……今夜どんな顔をして、コムギに会えばいいというのだ。

 シメリはめそめそと泣く。涙じゃなんの火も消せやしないと、わかっていても止められない。


「ぐすっ……きみはかわいいねぇ……わたしと一緒に逃げる……?」


 木箱に迷い込んできた野ネズミに話しかけ、シメリは平静を保つ――あるいは動物に声をかけている時点で、保つべき理性などとうに吹き飛んでいるのかもしれない。

 野ネズミはちょろちょろと動き回り、しきりに周囲のにおいを嗅いで――待て、ネズミ? 違う! これは『野』ネズミじゃない! ヴァイニンの『鼠』だ! 主人に代わり、敵の位置を探ろうとしている……!?


「ゲヒヒ……! こんなところにィ、かわいらしいお嬢さんのニオイがぁ……!」


 見えなくてもわかる。黒ずくめの小男が、これからディナーでも頂きますとばかりに、凶悪な笑みを浮かべ迫ってきて――


「……した気がするんでゲスが。今回ばかりは外れたようでゲスなぁ」


――あっさりと去っていった。


 去り際、ヴァイニンはシメリの隠れている木箱の隙間に紙切れをねじ込んでいった。

 開くとこう書いてあった。


 コ フ キ イ モ


「……もしかして、あのときのお礼?」


 そういえば以前、食欲がすぐれなかったとき、ヴァイニンの『鼠』に食べ残しのコフキイモを分けてあげたのだった。

 ああ、いいことをすると、返ってくることもあるんだなぁ。シメリは場違いにジーンとしてしまった、直後


――ドッゴーン!!


「ゲスうううううぅぅぅぅぅ……」


 耳をつんざく轟音。ヴァイニンは行ったはずの道を爆風にぶち転がされて帰ってきて、そのまま遥か後方へ消えた。

 ああ、この世界には、恩も仇も関係ない、理不尽なことがいっぱいだ!!


「ハハハ……」


 シメリは泣くもキレるも通り越して、虚しく乾いた笑いを浮かべた。




★ ★ ★ ★ ★ ★ ★




 だんだん悲鳴が少なくなっていく。それは決して争いがなくなったからではなく、単に頭数が減っただけのこと――主にふたりの生徒の手によって。


()()ァーッ! 爆発は芸術だァ!」


 粉気濃度を高めることを覚えた夜光禅が、制御は多少甘くとも格段に威力の高い炎で敵を焼き尽くし、


「『雷』の粉塵爆発――『閃雷光陰(バリバリバリスタ)剣式(ソードスタイル)』」


遠距離型だった雷の矢に不発粉気の持ち手をくっつけて握れるようにしたピキータが、帯電する剣でバッサバッサと斬り捨てる。

 苛烈な攻撃で『耐爆防護(プロテクション)』を削られた犠牲者たちは、最初のヒビが入ったくらいで絶望を浮かべ、次のヒビで命の危険を感じて演習場の外へ逃げ出す。

 バリアがなくなれば、生身であれを受けることになる。そうなったら成績がどうのと言ってる場合ではない。『次元隔絶(アイソレーション)』のせいで先生の助け舟も入らないのだ、退き際を誤れば大変なことになる。

 次第に状況は乱戦というより、夜光禅とピキータに捕捉されないよう逃げ回るか、あるいは数人で即席のチームを組んでどちらかを潰す――いずれにせよこの二人を軸とした展開に移行していった。後者の戦略は残り人数が減れば成立しづらくなり、夜光禅とピキータが粘るほど、自然と前者の割合が増えてくる。


 やがて残り十人と少し、そのほとんどが逃げに徹するようになると、


「……我こそは夜光禅 舞日」

「……ピキータ・ライグルーヴ」


必然、目が合うのはこのふたりで、


「コノカミ御三家の名にかけて」

「私自身の飛躍のために」


割り込める者は誰もおらず、


「いざ尋常に!!」

「勝負!!」


熱く痺れるステージが幕を開けた。




★ ★ ★ ★ ★ ★ ★




 はじめはピキータが優勢だった。


 彼女は雷の矢と剣のほかにも、自らの機動力を強化する何らかの技を持っているようだ。踏み込んだ地面が弾けるほどの速度で駆け、接近戦を仕掛ける。

 一方の夜光禅は、あれでいて純粋な中〜遠距離専門の後衛タイプだ。過剰な火力をもつ炎は至近距離で発動すれば彼自身すら焼くため、懐に攻め入られたときの応じ手に乏しい。

 痺れる剣閃が走るたび、夜光禅の『耐爆防護(プロテクション)』が削れて悲鳴をあげる。ピキータには一度も有効打を与えられておらず防戦一方。


 だが夜光禅も負けていない。雷速で迫るピキータの剣に対し、あえて自分も前に出た。


「さァ来いよ――」

「ッ!?」


 サングラス越しにも届く猛烈な殺意の視線。「何か企んでいる!」――そう感じたピキータは反射的に移動を中断、夜光禅から距離をとる。




 夜光禅は特に何もせず後方へ跳んだ。




 フェイントだ!


 夜光禅は前に出るふりをしてピキータを退かせ、まんまと距離を稼いだのだ。


「ぬぅん! 『業火積熱陣(ゴウ・チャージン)』!!」


 夜光禅はすかさず自身を取り囲むように炎の円陣を展開。ピキータがうかつに踏み込めないようにして、接近戦を封じた。

 かくして戦況は五分に戻る。


「……なによ。奇抜なキャラしといて、ぜんぜん常識的な知能あるじゃない」

(フン)ッ。これでも一応イイトコの生まれなんでなァ……」


 ピキータは不敵に笑う。


「でもいいのかしら? 私はもともと、飛び道具でやってきたのよ」


 夜光禅も牙をむく。


「こっちだって、時間さえありゃ……な?」


 互いに、どんどん戦意は高まり――




★ ★ ★ ★ ★ ★ ★




――シメリはそんな激戦を、虚ろな目で見ていた。


 いい加減、涙も乾いて泣き飽きた。

 あー、これ終わったらわたしもどっちかと戦わなきゃいけないのかな、とか。

 もう十分時間稼いだし、さっさと退場しとこうかな、とか。

 ヴァイニンくん大丈夫かな、とか。

 そういえばクユルくんの姿を見ないな、とか。

 早く帰ってコムギちゃんに会いたいな、とか。

 とりとめもないことを考えていた。


――予想外というのは、そういう油断のなかで起きるものだ。


 拮抗していた夜光禅とピキータの戦闘は、ある瞬間、致命的なまでにぐらつき始める。


 ピキータの『閃雷光陰(バリバリバリスタ)』を、夜光禅が紙一重で避けた。それだけならよかった。次なる一矢を放てばよい。

 しかし、夜光禅が天高く掲げた両手の先、遥か天まで渦巻くように現れた長大な粉塵爆発に、ピキータは完全に気勢を削がれた。


「は? 何……これ……」


 何メートル、何十メートル、下手をすれば、バクハーツの校舎より高いのではないか……一年生が起こしたものと信じがたい現象が、少女の見上げた先にある。


()()()ッ……この技は強いぞ。なにせ我も初めて使うからな……」


 自ら生み出した熱で滝の汗を流しつつ、夜光禅は気丈に笑う。


「『火』の粉塵爆発、その極致――ああ、名付けるのもおこがましいな。

 これぞ(すなわ)ち『炎龍召喚』」


 炎の龍が、大気を震わせた。

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