第十四話「Screaming Shimeri」
「ミィ……ミイィー! ミイイイイィー!!」
シメリは鳴いた。頭を抱えて子猫のように鳴いた。でもそんなことで過ぎ去りし時間は戻って来ない。
「一年生、あつまれー! ガチンコ仕様の『対爆防護』かけていくよー!」
――シメリはとうとう何の対策もできないまま、実力テスト当日を迎えてしまった。
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「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー! コニャーンせんせえぇ!」
「ごめんねシメりん。実力テストって学校全体のイベントだから、あたしに泣きついても何も変えられないんだー」
「ルナ・コニャーンせんせえぇ!」
「フルネームで呼んでもダメだよぉ」
コニャーン先生は苦笑しながらも、ぐずるシメリに『耐爆防護』を施した。
「ルールはちゃんと覚えた?」
「……演習場の指定ポイントに立って、合図と同時に、試合開始。一年生全員が敵どうし。『耐爆防護』を削り切られたら失格。すみやかに退場。生き残った時間が長いほど得点アップ」
コニャーン先生はシメリの頭を撫でた。
「よくできました。演習場は『次元隔絶』っていうデカいバリアで囲まれてるから、中から外には出れるけど、外から中には入れない。
だから試合が始まっちゃうと先生も助けてあげらんないの。自分のちからで頑張って勝ち残るんだよ」
シメリはえぐえぐとえづきながら首を横に振った。今はそういうことが聞きたいのではない。そもそも、そもそもだ。
「どうしてこんな……物騒なことするんですかぁ……」
コニャーン先生は言葉に詰まった。
「それは……新入生の実力を測るためとか、のちのち実力別のカリキュラムを組む参考にするためとか、色々建前はあるけど……一番は――」
「一番は?」
シメリは数秒後、「聞かなきゃよかった」と後悔することになる。
「――バクハーツが、情熱を重視する校風だからかな!!」
バクハーツ粉技爆術学校。
一流の粉塵爆発使いを目指す少年少女が集い、知恵と力と"爆発的パッション"を磨く至高の学び舎。
熱き戦いは闘志を高める。昂る闘志は情熱を生む!
そんな旧時代の熱血スポコン漫画のような理屈にもならない謎理論が、教育的配慮すら超越して新入生を暴力的バトルイベントにブチ込んでいるのだ!!
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演習場はバクハーツを擁する広大なハーツ平野の一角に整備された、戦場の縮図ともいえるフィールドである。
流石にテストに使う以上、致命的な罠や高低差は設けられていないが、小高い丘や身を隠すための塹壕など、変化に富んだ地形が再現されている。
なお粉気は「全兵士がどこでも手軽に流し込めるガス状破壊兵器」のようなものなので、塹壕に潜ったとて安全が保証されるものでもない。
「ふえぇ……」
シメリは自分の初期位置として指定された、廃墟を模した地形の隅っこで、ヒビだらけの木箱のなかに身を隠し、粉鹿のように震える。試合開始前の粉出は禁じられているため、粉鹿よりなお無力だ。
それでもまだ、身を隠せるだけマシだろう。いつだったかドライヤーを貸した男子たちは、遮るもののない丘のてっぺんに配置されて半泣きになっていた。
木箱のヒビから外の様子を伺いつつ、シメリは必死で自分に言い聞かせる。
「生き残り。あくまで目的は、生き残り……!」
生き残った時間が長いほど得点アップ、ということは、積極的に戦って誰かを打ち倒さなくとも、逃げ回っているだけで評価を稼げるということだ。
そう考えれば、無理に同級生で潰しあうより、いっそみんなで示し合わせてジッとしてるほうが、よほど――
「ふぅん。あなたは逃げることを選ぶのね、シメリさん」
――いや、ダメだ。シメリはぬるま湯のような考えを捨てる。
いるのだ、ここには……いや、どの集団にも一定数。向上心がバグってる、血気盛んな人たちが。
初期位置が近いピキータは、シメリが隠れるところもしっかり見ていたようで、箱をコンコンとノックしながら話しかけてきた。
「いいわ。それも立派な作戦のひとつ。戦意のないひとを襲う趣味もないから、やるのは最後にしてあげる」
『やる』って、つまり……シメリは怖くて聞けなかった。
「仲良しゴッコで済ませようとしたって無駄。平均点が上がるだけなのだから、人より高みには辿り着けない――」
ピキータが箱を撫でる。ざらついた音がシメリの不安を煽る。
「――それが嫌なら、行動するしかない。同級生を踏み台にしてでも……友達どうし、潰し合ってでも……!」
開始時刻が近づく。誰からともなく緊張した空気が広がる、蔓延する。
「シメリさん、私はあなたを邪魔しない。助けもしない。だからあなたも、戦わないつもりなら、ただ見ていて。私が輝くところを――そして」
ピキータは一度だけ振り返り、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「我慢できなくなったら、いつでも交ざってきなさい」
――ぐわおぉーーーん!!
はじまりの鐘が響き、ピキータは稲妻のように駆けていった。




