第十三話「Extreme Flag」
その日のお昼。食堂に向かおうとしたシメリの前に、
「あれだけ言ったのにまた調子に乗ったね、シメリ・アクアミーズさん」
例の壁ドン脅迫お坊ちゃん、『煙』のクユル・タチノヴォーが、なぜかシメリのドライヤーを持って立ち塞がった。
「ふえぇ……勝手にしろって言ったじゃん……」
「巻き込むなとも言ったろう」
クユルはシメリの手にドライヤーを押し付けた。
「きみが水をぶっかけたあの男子たち、直接きみと話すのが気まずいからって僕に押し付けてきたよ。『クユルお前、壁ドンするほど仲が良いそうじゃないか』ってね――昨日のこと、誰かに話したな?」
クユルの口元はひくひくと引きつっていた。
「あ……あー! そういえば言った……けど一人だけだよ! あのあと、たまたまピキータさんとすれ違って……わたしが震えてたから、事情を聞かれて……それで……」
「それで正義感に燃えた彼女が、言いふらしたわけだな……! 壁ドンのとこだけ切り抜いて……! あのビリビリ娘、今度会ったら……!」
クユルは頭を抱えた。その背中に声をかける者がいた。
「今度会ったらどうしてくれるの? 楽しみね」
その金髪を視界に入れた途端、クユルは大量の『煙』をまき散らしてトンズラした。
ピキータは鬱陶しそうに手で払いつつ、遠ざかっていく少年を無視してシメリを気遣った。
「シメリさん大丈夫? ああいう変態壁ドン野郎はね、ちょっとくらいド突いてやっても許されるのよ」
「う、うん。平気。でも変な汗かいちゃったかも」
シメリの額はじっとりと濡れていた。気分転換に、とでもいうのか、ピキータは別の話題を振ってくる。
「さっきの勇姿、見てたわ。爆灯前の粉気を奪うなんてやるじゃない」
ピキータは愉快そうに舌なめずりをする。
「いつか手合わせ願いたいものね」
シメリの額は追加の冷や汗でさらに濡れた。
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そのまた夜。今日も今日とてコムギと屋根裏のベッドでなかよしタイムを過ごすシメリは、『夢』に入る前から一日の出来事を報告していた。授業のことも、そうでないことも全部。
「それでね、クユルくんがさ……」
「ひどい……そんな近くまで迫るなんて、女の子どうしでも怖いのに……」
「でしょー?」
またしてもシメリに覆いかぶさり、指を絡め、鼻がこすれそうな至近距離で向かい合っているコムギが言うと、じつに説得力がある。
「ピキータさんも、助けてはくれたんだけど……戦いたくてウズウズしてるみたいで、ちょっと怖いなー」
「だいじょぶ。同じ学校の仲間だし、戦うことないよ」
「だよねー!」
シメリは『夢』の世界に落ちながら、晴れ晴れとした表情で言った。
「同級生とバチバチの真剣勝負なんて……そうそうあるわけないよねー!」
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【新入生実力テスト! 演習場にて実戦形式、粉塵爆発ガチンコバトル!!】の通知が校内掲示板に貼り出されるのは、その三日後のことだった。




