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第十二話「粉塵爆発実技 実践編」

「それじゃ、今回の内容を踏まえて、実際に粉塵爆発を使ってみようか。ちょっと動かないで待っててね――」


 コニャーン先生は両手から『粉出』し、『塵化』で薄く均等に広げ、教室全体を粉気で満たすと、一斉に『爆灯』した。


「――『命』の粉塵爆発、『耐爆防護(プロテクション)』」


 生徒たちの身体の表面に一瞬だけ青白い光がひらめいたかと思うと、皮膚に溶け込むようにして見えなくなった。


「みんなの身体にバリアを張ったよ。上級程度の攻撃粉塵爆発を受けても一発は耐える優れモノ。これで万が一制御をミスって粉塵爆発が暴走しても、安全に授業を続けられるってワケ。

 たぶん一年生の技なら十発は防げると思うけど、割れるときはヒビみたいな模様が浮かぶから、その兆候が見えたらすぐ先生に言ってね」


 コニャーン先生の号令のもと、みな重い思いに粉塵爆発の練習を始めた。




★ ★ ★ ★ ★ ★ ★




「ゆくぞッ、祖霊よ、わが炎に加護を!

 『火』の粉塵爆発――『焦土の(モエル・)慈母(ガイーヤ)』!」


 夜光禅は粉塵爆発で身の丈ほどの火柱を創った。


「まだまだァ! もっと熱く、もっと激しく――

 『火』の粉塵爆発ゥ、『過熱(モット・)焦土の(モエル・)慈母(ガイーヤ)』!!」


 夜光禅はさらに粉気の量と濃度を高め、おのれの頭の二倍ほどの高さまで火柱を伸ばした。

 しかし力みすぎたのか半分ほど不発粉気が混入。制御の甘くなった粉塵爆発は暴走を始める。


「おっ、(アチ)ャッ、アーッ!」


 火柱はびゅんびゅんとムチのようにしなり、夜光禅自身をも飲み込んだ。ギャリギャリと『耐爆防護(プロテクション)』の削れる音がした。


「なるほど、塵化に失敗するとああなるのね。これくらいでいいかしら――『雷』の粉塵爆発、『閃雷光陰(バリバリバリスタ)』」


 ピキータは粉塵爆発で帯電する矢を放つ。実技教室の床や壁は特別頑丈にできているため、好き放題に攻撃を当てられる。矢の着弾点を中心に、辺りを引き裂くような電撃が炸裂した。


「……ひょっとして。不発粉気を応用すれば、こんなことも……」


 彼女は自爆のリスクを避けながらも、(やじり)に不発粉気を加えたり、矢羽の形状を変えたりと試行錯誤していた。


「わたしも……!」


 シメリは意気込む。ただでさえ弱小だのなんだのと言われるマイナー属性が、はじめからボーッと同級生の背中を眺めているようではダメだ。あとから追いつこうなんて甘いことは考えるな、とにかく百パーセント、配分など考えず、フルマラソンでも全速力で走り切れ!


「『水』の粉塵爆発、『クリエイトウォーター』!」


 『粉出』――『塵化』――そして『爆灯』!


 全力で放った粉気と爆力は、主人たるシメリに忠実に応えた――すなわち全くいつも通りの力を発揮した。

 ヒトは想いの力で急に強くなったりはしない、小説とは違うのだと、シメリは改めて思い知る。


 シメリの創った『水』は一瞬だけ空中で球体を保ったのち、重力に引かれてベシャッと落ちた。

 床にできたシミだけが、そこに水があったことを弱々しく証明している。


 夜光禅の火柱のようにうねることも、ピキータの雷のように飛ぶこともない。本当に水が『出た』だけ。


 同級生たちが起こした現象とはあまりに規模が違う、残念すぎる結末。この有様では、夜光禅の放った火柱の、その最後の残り火を消すことにも苦労するであろう。

 水は火に強い――それはあくまで火と水が同じくらいのパワーバランスで設計された世界のお話。

 ドラフトドア教授の話にもあった通り、コナンハーゼンの『水』は女神の嫌悪によって、粉塵爆発を阻害する権能を持っている。


 そう、『粉塵爆発』だ!


 あろうことかその対象には『水の粉塵爆発』も含まれている!


 『水の粉塵爆発』もまた粉塵爆発である以上、自身のもつ『水』のちからに阻害されて、普通に創っても半分以下の威力しか出ないのである!!


「ふえぇ……!」


 シメリは恥ずかしくなった。こんな「顔を洗うときちょっと便利』程度の粉塵爆発を、『クリエイトウォーター!』とか技名まで叫んで発動した自分自身が情けなかった。

 ちなみにクリエイトウォーターの他には霧を吹き出す『クリエイトミスト』、じょうろ程度に水が流れる『クリエイトシャワー』、あとはちょっと自分でもカッコつけすぎたかなと思って口には出せないやつがある。攻撃力はお察しの通り。


「なんだよ、『負けない』なんて言っておきながら……」

「やっぱカスじゃん、水属性なんて」


 陰口が、いや、ぜんぜん陰に隠れていない悪口が聞こえてくる。『風』や『土』属性の男子生徒が、強風を身にまとい、土壁を背に、シメリを散々こきおろしてくる。


「ううぅ……!」


 シメリはせめてもの抵抗として、名前も知らない男子たちを睨んだ――本当は自己紹介を真面目に聞いていたので名前を覚えているけれど、これを機にさっぱり忘れてやることにしたのだ。


「おっ? やる気か?」

「涙目で威嚇しても迫力ねーぞー」


 そのとき男子たちの脳裏に、ほんの軽い悪意が芽生えた。生意気な水属性女を、ちょっとビビらせてやろうと。


「ちょっとわからせてやんねーとな」

「だな、立場ってやつをな」


 彼らは肩を小突く程度の風を、服を汚す程度の土を、シメリにけしかけようと粉気を練る。男子たちの頭上で白い気体が渦を巻く。


「ちょっとそこ! 今回は戦闘形式の授業じゃないよ!」


 悪事をめざとくとらえたコニャーン先生は制止の言葉を投げるも、男子たちは聞く耳をもたない。


「いーじゃん先生、バリアがあるだろ?」

「そーそー。じゃれあいだよ、じゃれあい」


 コニャーン先生は肩をすくめた。


「あーあ、アンタたちのためを思って言ってやったのに。もう知ーらないっと」


 コニャーン先生は見ていたのだ。アホどもがヨソ見をしているうちに、大人しくやられてやるつもりは全くないシメリが、反撃の一手を準備し終えているところを。


「えいっ」


 シメリは爆力を放った。爆力だけを、二発、撃った。

 粉気は要らない。だって彼らがわざわざ()()()()()()()。ご丁寧にも、自分たちの頭の上に。

 シメリの爆力は男子たちの用意していた粉気に命中し、ふたつの水球を創り出した。水球は重力に引かれて落ち、物理的に彼らの頭を冷やした。


「ぶへッ! こいつ……!」

「俺たちの粉気を盗みやがった!」


 『耐爆防護(プロテクション)』は攻撃性の粉塵爆発を防ぐが、攻撃力のないただの水を弾いてはくれない。頭から水をかぶった男子たちの制服はずぶ濡れだ。

 コニャーン先生は片眉だけ上げてヘラヘラ笑う。


「授業はしっかり聞いておくべきだよー。『粉気が爆力に触れると粉塵爆発が起こる』『粉塵爆発の属性は爆力に依存する』――これ、別に()()粉気、()()爆力とは言ってないんだよね。

 粉気と爆力さえあれば出所が違っても粉塵爆発は起きる。粉気に属性は無いから爆力を当てたほうが粉塵爆発の主導権を握れる。

 ダメじゃん、喧嘩売っておきながら、相手の前で『()ってください』とばかりに粉気を出しっぱなしにしちゃあ」


 びしょびしょの髪を湿った袖でなんとか拭おうとする男子たちのところに、シメリはてくてくと歩いていく。


「えっと、わたしのドライヤー、使う……?」


 シメリの優しさが男子たちの心に突き刺さる。


「ちなみにドライヤーも、人間の粉気を機械の爆力が『温風』に変えてる、『粉気の横取り』を応用した爆発(エクスプローシブ)道具(アイテム)だね!!」


 そこにコニャーン先生が追い討ちをかける。


「あーあーわかった、わぁーかったよ! カスとか言ってゴメン!」

「涙目とか言ってすまねぇ!」

「繰り返さないで、ヘコむから……」


 まぁ一応謝ってはくれたので、シメリはドライヤーを貸してあげた。


「うわ。なんだこの白いカス」

「これ俺らの不発粉気じゃね?」

「マジかぁ……俺らの腕もカスってことかぁ」


 ちなみにシメリは、自慢ではないが、自慢ではないが! 不発粉気を混入させるようなヘマはしない。塵化の腕が良いのだ、自慢ではないが!!




★ ★ ★ ★ ★ ★ ★




「ゲヒヒヒヒ、興味深いことをしていらっしゃいますなぁ」

「あ、ヴァイニンくん」


 引き続き練習をしていると、黒ずくめの小男がすすすと寄ってきた。


「手の内を暴くようで申し訳ないでゲスが、『粉気の横取り』について、いくつかお話を伺っても?」

「いいよ。別にわたしが発明したものでもないし」


 ヴァイニンは「ゲヒッ!」と嬉しそうな声をあげると、質問を開始した。


「あの技は、粉塵爆発が成立してしまったあとには効果はないのでゲスか?」

「うーん。不発粉気が残ってれば、そこを狙ってなんとか……その場合は丸ごと水になるんじゃく、不発粉気だった一部だけが水になる感じだけど」


 粉気の状態であれば、たとえそれが不発粉気であっても、横取りは有効。ただしシメリの粉塵爆発のように不発粉気が一切ない「巧みな」(※自慢ではない!)粉塵爆発に対しては、完成後に爆力を差し込んでも効果はない。


「あっしの『鼠』も、不発粉気が残っていれば、横取りして内側から『水』に変えてしまえるのでゲスか?」

「あー、それは……難しいかな。皮にあたって、そこで止まっちゃう」


 爆力はそれ単体で攻撃力や貫通力を有しているものではなく、薄皮一枚で止まってしまう脆さを持っている。火花のようにも見えるが、熱さも冷たさもなく、素肌に受けても何も感じない。眼球に受けたら一瞬まぶしくて不快、その程度の「もろい」エネルギーなのだ。

 夜光禅の『火』やピキータの『雷』、あるいは『風』『光』『闇』あたりなら、皮や肉などの物理的障壁を持たないから、炎や電気をすり抜けて不発粉気まで到達できるだろう。しかしヴァイニンの『鼠』は無理だ。『土』も厳しい。


「では腹を捌いて、傷口から不発粉気に向けて直接、爆力を流し込めば……?」

「ふえぇ、怖い! 怖いよヴァイニンくん! わたし血とか苦手なの……理屈のうえでは、できると思うけど」


 そもそも(じか)に刃物で斬りつけて傷に触れられるほど至近距離にいるなら、粉気どうこう以前にその相手には勝ったも同然だろう。

 頭に爆力をブチ込んで人間ダイナマイトにしてやるぜぇ! などという世紀末的な発想は、少なくとも一般の戦闘において実用的ではない。


「ふむふむ! では、粉気をこのように……!」


 ヴァイニンは何やらモゾモゾとコートを動かし――


「『隠し持って』いたら……どうですかな?」


――ポトリ、と、服のすそから『鼠』を落とした。


 服の下で密かに粉塵爆発を起こし、今この瞬間シメリの目の前で『鼠』を創ってみせたのだ。


「……無理、かなぁ。服で爆力が弾かれちゃう。それ以前に、粉気が見えないとどうしようもない。わたしの負け!」

「ゲヒヒ! あっしも『鼠』ごときで貴女を害せるとは考えておりませんがな」


 いや、『水』よりは希望があると思うよ? 噛まれると痛いし――シメリは思うが、本当に実行されても困るので口には出さなかった。


「では、あっしはこれにて……」


 ヴァイニンはいつかの焼き直しのように、そそくさと陰に消えていった。

 突然やってきて、シメリの弱点だけ暴くと満足していなくなった――悪く考えるとそうなるけれど、こうして平和的に粉塵爆発の話ができるあたり、彼自身は悪い人ではないのかもしれない。シメリはポジティブに捉えておくことにした。

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