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第十一話「粉塵爆発実技 入門編」

 ウソ科学に理屈をつけて大真面目に解説してるときが一番ドーパミン出るって近所の粉塵爆発おじいさん(通称ふんじい)も言ってました




 翌日、みんな大好きコニャーン先生の授業にて。


「みんなー、おっ待たせー! 今日からはお待ちかね、粉塵爆発の授業をやっていくよー! まずは理論のおさらいから!」


 入試に合格した時点で基本事項は理解していることを前提として、コニャーン先生はさくさくと話を進める。


「粉塵爆発は『粉出(ふんしゅつ)』『塵化(じんか)』『爆灯(ばくとう)』『発転(はってん)』の四段階で構成される。『発転(はってん)』は応用的な難しめのやつだから、今回は三つ目までをやるね。

 『粉出』は粉気を出すこと。『塵化』は粉気の形状や濃度を調整すること。『爆灯』は粉気に爆力を当てて、粉塵爆発を起こすこと!」


 コニャーン先生は説明の片手間に粉気を出し(粉出)、空中で粘土細工のようにうねうねと動かし(塵化)、最後に爆力を撃ち込んで(爆灯)、爆発的にかわいいネコちゃんを創ってみせた。


「粉出と爆灯はともかく、塵化は何やってるか分かりづらかったよね。無意識にやってても『何のため』まで理解してる人は少ないかも。それを説明するために『粉塵爆発の四原則』の話をしよう」


 コニャーン先生はネコちゃんを教室の外へ逃してやると、指を立てながらよく通る声で言った。


「粉塵爆発の原則その一! 『粉気が爆力に触れると粉塵爆発が起こる』! まぁこれはみんな知ってるよね」


 そうでなければバクハーツにいない。みんな無言で頷く。


「その二! 『粉塵爆発の属性は爆力に依存する』! これも知ってるはず。粉気はみんな共通で、大きな個人差はない。爆力の属性が違うから、『火』の粉塵爆発使いは『火』を、『風』なら『風』を起こせるわけだ」


 ここにも疑問をさしはさむ者はいない。


「その三! 『粉塵爆発の威力は粉気の量と濃度に依存する』! これ重要。量はともかく『濃度』を意識できてないヒト意外と多くて、そこ気をつけるだけで格段にレベルアップできるよ」


 これに大きな反応をみせたのが夜光禅だ。


「なんと、濃度! 盲点であった。我が炎も粉気を濃くすればさらに強く……!?」


 夜光禅は渾身の力を込めて濃密な粉気を放出しようとした。ところが――


「ぬ、ぬぅ……?」


――その手からはいつものモヤモヤした気体ではなく、ゴロンとした白い塊が現れた。


「これは、粉気……なのか?」


 夜光禅は首を傾げつつ、いつも通り白い塊に『火』の爆力を撃ち込んでみた。


「おかしッ、燃えないじゃねぇか!!」


 しかし表面を舐めるように小さな火が走るばかりで、芯まで燃えず、期待したような大爆発は起きなかった。

 苛立つ夜光禅へ、コニャーン先生は高らかに拍手を送った。


「すばらしい! 夜光禅くんは授業内容を先取りしてくれたね。これこそ次にあたしが言おうとしてた粉塵爆発の原則その四――『粉気濃度が高すぎると不発粉気(ふはつふんき)になる』!!」


 不発粉気? と、半分くらいの生徒が首をひねった。


「不発粉気っていうのは、粉塵爆発になりきれず、燃え残った粉気のこと。コレがあると思い通りの威力が出ないんだよね。小麦粉にダマができると美味しいホットケーキが焼けないのと一緒。だから粉気濃度は高くすりゃいいってもんじゃないの」


 夜光禅は地団駄を踏んで悔しがる。


「くそッ、やられた! 我は『悪い例』となるために泳がされたのか!」

「まぁまぁ、ホットケーキと違って焼き直しもきくから。さっきの不発粉気、もっかい『爆灯』してみ?」

「うむ……」


 夜光禅は半信半疑で二発目の爆力を撃ち込んだ、途端――爆発!! 今度は望み通りの熱と光と轟音が咲き誇り、夜光禅のサングラスを明るく照らした。


「ぬ、ぬぉーッ! 芸術的ッ!!」

「こんな風に、一発で燃え切らなかった不発粉気も、もう一度『爆灯』すると粉塵爆発になってくれる。爆力を余計に消費するから、普通はよく『塵化』して濃度を整えて、そうならないようにするんだけどね」


 コニャーン先生はシメリたちがメモをとる速度にあわせて解説する。


「ほかにも不発粉気は粉塵爆発のエネルギー効率を下げたり、制御を難しくするの。ひどいときには術者の意思を離れて暴走してしまう……」


 いつかドラフトドア教授が言っていた、粉塵爆発が創り出す『あらゆる()()()もの』の一端には、こうした不発粉気の混入による粉塵爆発の暴走から来る悲劇も含まれているのだ。


「ただ悪いことばかりじゃなくて、持続性の粉塵爆発の場合、不発粉気は内部でゆっくりと消費されていくから、効果時間が延長される。『火』属性や『光』属性の粉塵爆発使いが明かりを確保するためによく使う手法だね。

 お弁当をイメージするとわかりやすいかな? お腹が空いたら勝手に食べて、いつもより長く働いてくれるの。

 ちなみにさっきの『猫』の粉塵爆発はちょっと多めに不発粉気を込めたから、だいたい一時間くらいは日向ぼっこをエンジョイできるかな」


「えっ」


 シメリは青ざめた。とんでもなく恐ろしい可能性に思い当たってしまったからだ。


「どしたのシメりん?」

「生物系の粉塵爆発って、粉気を使い果たしたら消えちゃうんですか……?」

「そうだよ。パッ、てなくなる」


 コナンハーゼンに存在するすべてのものは粉塵爆発だ。


「じゃあ人間も……『命』の粉塵爆発だから……」

「くっくっく、ご想像の通り」


 コニャーン先生は邪悪な笑みを浮かべ、手をワキワキ動かしながら言った。


「ある日突然『時間切れ』を迎え、この世界から消滅する……!」

「ふえぇ!?」


 コニャーン先生はからからと笑った。


「なんてね、ウソウソ。人間は食べ物や飲み物を粉気に分解して、自分で自分の『持続時間』を延長してるから、急には消えたりしない。ちゃんとご飯を食べてれば大丈夫」

「ふえぇ……おどかさないでくださいよぉ……」


 震えるシメリの肩をコニャーン先生は優しく撫でる。


「ごめんごめん。他にも、粉神さまが原初の星の(スターダスト・)粉塵爆発(エクスプロージョン)で創ったものはとんでもなく持続時間が長いから、例えばあたしたちが立ってるこの地面がいきなり消滅するようなこともないよ」

「とんでもなくって、どのくらい……?」

「ある学者によれば、少なくとも千五百億年以上って話だね」

「ふえぇ……」


 余談ではあるが、いくら生物が『命』の粉塵爆発であるとはいっても、その肉体を構成する最小物質ひとつひとつは、元を辿れば世界のはじまりから形を変えて脈々と受け継がれてきたものであるから、生命活動を終えた瞬間に消え去るわけではない。死体も残る。

 だからこそ、コナンハーゼンにおいても人類は木を切って家具や建物を作ることができるし、獣をつかまえて食肉や毛皮に供することができるのだ。

 また同量同濃度の粉気から創られた粉塵爆発でも火や雷など「ただそこに在るだけでエネルギーを消費し続けている現象系の粉塵爆発」と水や土など「基本的に自ら動かない物質系の粉塵爆発」では持続時間に雲泥の差が……


……という話を続けていたらいつまでも本筋に戻れないので、このあたりでやめておこう。


「どこまで話したっけ――不発粉気か。まとめると粉気は薄すぎると弱い、濃すぎると扱いが難しいから、ほどよく調整すること。そのために『塵化(じんか)』という工程がある――そんなトコかな」


 コニャーン先生は一度言葉を切り、


「質問ある?」


と促した。

 最初に挙手したのは『雷』のピキータだった。


「粉塵爆発で『粉気』は創れますか? それができたら粉塵爆発の威力や持続時間を無限に伸ばすことも可能だと思うのですが」

「創れるけど、残念ながら消費したぶん以上の粉気は得られないねー」

「では『爆力』は……」

「粉塵爆発の威力は『粉気の』量と濃度に依存するからね。爆力だけ増やしたって意味がないの」

「なるほど。よくわかりました」


 次にヴァイニンが手を挙げる。


「ゲヒヒ! 失礼ながら、『粉出』『塵化』『爆灯』に続く、粉塵爆発の四つ目の段階――『発転(はってん)』について伺いたく。

 先の内容であることは承知しているのでゲスが、どうしても気になってしまいやしてね?」

「あー、発転。発転かぁ……」


 コニャーン先生はポリポリと頭をかいた。


「その属性にゆかりのある、ちょっと別のものを生み出す技術のこと。

 例えば『土』属性だったとして、ほんとに土しか創れなかったら不便じゃん?

 だから一人前の粉塵爆発使いはたくさん練習して、土にゆかりのある色んなもの――砂とか石とか金属とか創れるようになって、技にバリエーションをもたせるの」


 コニャーン先生はムムッと顔をしかめると、はじめより丁寧に粉気を操り爆灯して、猫よりたくましい『なんかキリッとした猫科動物』を創り出した。


「知ってる? これ、カラカルって動物なんだけど」


 わかんないかぁ、と肩を落とすコニャーン先生。さしたる粉気も与えられなかったカラカルは、ひとつあくびをしただけで風に溶けて消えた。


発転(はってん)に関しては特に個人差が大きくて、誰が何をできるか同じ属性同士でもけっこう個性が出るし、具体的に普段と何が違うのか説明するのも難しいんだ……」


 だから今日は触れないつもりだった、とコニャーン先生は語る。


「気になるだろうけど、ヴァイニンくんがこれからどんな『鼠』を創れるようになるのか……ハムスターで止まるのか、カピバラやヌートリアまでいけるのか……先生にも分からない。ごめんね? こんな頼りない答えで」

「ゲヒヒ! いえいえ、とてもためになったでゲス」

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