魔弾銃士の限界値と可能性
対象距離、六十メートル。コボルト、五体。
ビッ! ビッ! ビッ!
何でか分かんないけど、エンカウントしたコボルトが一斉に私の方へ走ってきてる……。取り合えずブリューゲルから言われた通り、グルーデルに向かって走っているけど、状況が理解できていない。
何でこうなった? 私は新しいコボルトを倒そうと思っていたのに。
……直接、聞いてみるしかないか。
「ね、ねぇ。ブリューゲル、さっき集団で襲われるって言ってたけど何でなの?」
「回復魔法の追加効果だ! だから襲われてる! 俺は前にいるコボルトを仕留めるから、そのまま街まで走っていけ!」
ビッ! ビッ! ビッ!
……回復魔法にそんな効果があったのは、知らなかった。……だから、コボルトからいっぺんに襲われているのね。それでブリューゲルは逃げろと。
だとすると、これは私が招いた結果……ってことだよね。でも、この状況で私に出来ることと言ったら何が出来るだろうか。
ビッ ビッ ビッ!
もう! 考えたいのに、さっきから鳴りっぱなし。この音が気になって全然集中できないよぉ。
「ねぇ、さっきから変な音が鳴ってる! 何でなの?」
「ライフが八ポイント以下になると鳴る! 音は気にせずひたすら走れ!」
「わ、分かった!」
八ポイント以下か。今の私のライフは、残り四ポイント。……ってことはだよ、完治魔法をあと3回詠唱しないと消えないのか……長い。もし回復しようとすると、魔法の効果でさらに襲われるってことだよね。はぁ、気になるけど、無視するしかないか。
ビッ! ビッ! ビッ!
とりあえず、今のところはグルーデルまで走ってるけど……敵前逃亡みたいで何だか嫌だなぁ。ちょいちょい、後ろを振り返りながら走ってるけど、めっちゃ追いかけてくる。
魔法でサポートしたいけど、ここからじゃ届かない。でも、ブリューゲルもこっちへ走ってきてる。もしかしたら、今ここで私が拘束魔法を詠唱すれば、ブリューゲルが倒してくれるかもしれない。距離は離れてるけど、走るスピードを少しだけ落として詠唱すればまだ大丈夫。だとしたら、ここは。
「ブリューゲル! これから、近くにいるコボルトへ拘束魔法を詠唱する! そうすれば数を減らせる!」
「正気か!」
「うん! だって、これは私が回復魔法を使ったからこうなったんでしょ? 大丈夫! 距離はまだ離れてる!」
「……分かった。俺は、それに合わせてスキルを使う。ただし、その後は走れ」
これは、私が招いた結果でもある。これ以上、ブリューゲルに迷惑はかけたくない。大丈夫。例え残りライフが少なくても、近づかれなければダメージは受けない。だから、せめて考えられる方法を試す。
対象のコボルトまでは、五十五メートルか。少し詠唱を遅くすれば魔法は届く。
『炎の渦が汝を拘束。業火の鎖が汝を縛る。捕らえろ。業炎連鎖』
拘束魔法。十秒間、コボルト、行動不能。リキャストタイム十秒。
リキャストタイム終了まで、詠唱不可。魔法リスト、一。
「ブリューゲル!」
「おう!」
『神速抜刀。響く雷鳴、轟く霹靂。焼き焦げろ。唸れ。神雷雷鳴』
固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十ダメージ。
「もういっちょう!」
『神速抜刀。汝を屠る刀身は裁きの雷。迸れ。一刀雷神』
固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十ダメージ。
パリィン!
……すごい。私が拘束したコボルトを、あっという間に倒しちゃった。しかも、属性を調べてない状態でだよ。いや、それだったら私にだっても……できる。
「走れ!」
残りは五体か。走れって言われたけど……さっきと同じように順番に拘束させていけば、ブリューゲルなら倒してくれるよね。きっと。
……コボルトまで五十メートル……この距離なら、詠唱5回分の時間はある。
「何をしている! そのまま街まで走れ!」
「やだ! やっぱりここで倒そう! 追いつかれるまで、まだ時間はあるから平気! 拘束魔法を連続で詠唱するから、あとはお願い!」
「何を! 同時に相手にするのは危険だ! ここまで来たら、他に逃げ場はないぞ!」
「分かってる! だからお願い!」
「分かっているなら」
『土は檻。我は汝を阻害する――』
対象距離、三十メートル。コボルト、五体。
『土は牢獄、大地は足枷――』
あいつ。話の途中で詠唱始めやがった。このまま、距離を保って街まで行けば安全なのに、何故それをしない。足止めをするにも、俺はヘイト上昇の魔法は詠唱できねぇし、範囲系の攻撃手段もない。それに、連続で拘束魔法は詠唱できん。
『――閉ざせ。地平障壁』
拘束魔法。十秒間、コボルト、行動不能。リキャストタイム十秒。
リキャストタイム終了まで、詠唱不可。魔法リスト、一。
「ブリューゲル!」
……俺があの時、回復魔法を詠唱しろって言わなければ、防ぐことは出来た。これは俺のミスでもある。でも、セレスディアは倒すと言った。戦うとなれば、俺がタゲを奪い返せねぇと無意味だし……多分……いや、あいつは俺の職業を全く理解していない。
「早く! 拘束させたよ!」
こんな時、俺が拘束魔法を詠唱出来れば、一番いいんだが。
……拘束魔法か。そういやさっき、なくても困ったことがないとかセレスディアに言っていたっけか。……前言撤回。制限付きだが、この場では極めて重要な魔法だ。
「早く! 拘束終わっちゃうよ! もう! 次、詠唱するよ!」
セレスディアが今の状況をどれだけ理解しているかは知らんが、それでも戦うことを選んだ。
「ごめん! 詠唱出来なかった! どうしよう!」
……だから、逃げろって言ったんだがな。いや、魔法についての説明とかしていなかったからな。……バカなのは俺か。
あいつは、まだ何も知らない新入りだ。この責任は、指導者の俺が取らないとだな。
……アイテム全ロストの代償はでかいが、アバターアウト覚悟でセレスディアを守らなくては。……覚悟か。……全く、どっちがレクチャーしてるのか分かんねぇや。
「ねぇ。、ブリューゲル! どうしたの!」
「いや。ちょっと、考え事をな。……セレスディア、二人でコボルトを倒すぞ! コボルトとの距離は、最低でも十メートルは維持しろ!」
「わ、分かった!」
まさかコボルト相手に、こんなにも苦戦をするなんて思いもしなかったぜ。……これは、ギルメンには知られたくないな。とんだ笑い話だ。
だが、今はいい。
まずは、状況を整理。四体との距離は二十メートルまで詰められた。さっき、拘束させたやつは後回しだ。どれだけダメを与えればタゲを奪えるかは知らんが、攻撃あるのみ。
リキャスト終了と同時に拘束させ、俺がスキルでダメを与えながらセレスディアを守る。
「セレスディア! 順番に拘束させて時間を稼いでくれ! リキャスト終了までは、他の魔法で攻撃とサポート! お互いの連携が大事だ!」
「分かった!」
まず最初に狙うは、セレスディアが拘束させたやつ。一気に、距離を詰める。
……だた気がかりなのは、同じ攻撃を繰り返す戦い方になる。俺がやられたように、セレスディアの行動を奴が学習してしまえば、俺のスキルと拘束魔法が通用しなくなってしまう。そうならないためにも、速攻で倒す!
対象距離、四十メートル。コボルト、四体。
ビッ! ビッ! ビッ!
『大地は足枷、汝を拘束。大地の鎖が汝を阻む。縛れ。地表連鎖』
拘束魔法。十秒間、コボルト、行動不能。リキャストタイム十秒。
リキャストタイム終了まで、詠唱不可。魔法リスト、一。
これで一体を拘束できた。問題なのは、この十秒間で何をするかだよね。ブリューゲルは、連携が大事って言っていし、十メートルまでは接近されるなとも言われた。
『神速抜刀。轟く雷鳴――』
……私が魔弾で攻撃するためには、三メートルまで近づかないとダメ。
今は、魔法だけで何とかするしかない。
『――響く紫雷。雷撃。二之太刀』
固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十ダメージ。
コボルト、行動不能。残りライフ、十ポイント。
……ブリューゲルの行動は速い。拘束させたと思ったら、すぐに固有スキルを詠唱した。倒しやすいように属性を調べようにもランダムだから、今この場で詠唱するべきではないよね。
ビッ! ビッ! ビッ!
……迷っている暇なんてない!
こうして考えているあいだにも、コボルトは私に向かってきている。今はまだ、拘束魔法を詠唱できないけど、別の魔法を詠唱すれば拘束魔法のリキャストタイムが終わる。ブリューゲルをサポートしたあと、終了と同時に詠唱しよう。
『我は汝に託す者。汝はそれを授かる者。託す刃は敵を討つ。屠れ。一刀剣戟』
付与魔法、ブリューゲルに付与。十秒間、固有スキル、二ダメージ追加。
リキャストタイム十秒。魔法リスト、一。
「助かる!」
ビッ! ビッ! ビッ!
コボルトとの距離は三十メートル。まだ、安全な距離。少し距離が縮まっちゃうけど、ここで詠唱しなければ倒せない。
『我は汝の素性を知る者。真実暴かれ、汝は絶句。誘う先は逃れぬ監獄。堕ちろ。二重魔法。絶息一刀』
識別魔法。属性判別、風。リキャストタイム十秒。
拘束魔法。風属性、コボルト。十秒間、行動不能。リキャストタイム十秒。
リキャストタイム終了まで、詠唱不可。魔法リスト、三。
「ナイスだ! セレスディア!」
ビッ! ビッ! ビッ!
これで二体拘束。近づかれちゃったけど、属性を知ることが出来た。……最短で詠唱すればあまり近づかれない。詠唱できるのは2回だけか……だけど、ここで詠唱しないと……ブリューゲルと連携できない。迷ってる暇……ないよね。
対象距離、二十メートル。風属性コボルト、行動不能。
『渦巻く風は汝を切り裂く。吹き荒れろ。風嵐渦』
ダメージ判定。単体魔法。八ダメージ。残りライフ、十二ポイント。
リキャストタイム十秒。 魔法リスト、四。
『神速抜刀。迸る雷鳴は天を翔る――』
ブリューゲルも同じコボルトに詠唱した。これで倒せる。
『――唸れ。雷鳴連撃』
固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十ダメージ。追加ダメージ二。
パリィン!
対象距離、二十メートル。コボルト二体。
ビッ! ビッ! ビッ!
やっと一体倒せた。これで、残るコボルトはあと四体。リキャストタイムは?
よし。1つ終わった。これで魔法リストは三。だけど、拘束魔法が詠唱できない……ここは。
『我が両目は真実暴く。自供せよ。偽りの真実』
識別魔法。属性判別、雷。リキャストタイム十秒。魔法リスト、四。
「ラッキーだな! 同時に仕留めるぞ!」
やった! 雷属性! あとは、リキャストタイム終了と同時に拘束魔法だ。
…………
……これで2つ終了した!
『四方の監獄、自由を奪う。誘う先は永遠の闇。堕ちろ。永久回廊』
拘束魔法。雷属性、コボルト。十秒間、行動不能。リキャストタイム十秒。
リキャストタイム終了まで、詠唱不可。魔法リスト、二。
「任せろ!」
『神速抜刀。雷鳴の如く――』
ブリューゲルが詠唱しているあいだに、距離を取って次の詠唱に備える。
『――天を轟き、響かせろ。唸れ。神雷鳴鳴』
固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十八ダメージ。
雷属性、コボルト。行動不能。残りライフ、二ポイント。
『神の雷は裁きの鉄槌。迸れ。神雷撃』
単体魔法。雷属性、コボルト。四ダメージ。リキャストタイム十秒。
魔法リスト、三。
ビッ! ビッ! ビッ!
パリィン!
これで、二体倒せた!
「セレスディア! この先、最悪は拘束魔法が通用しなくかもしれん! もしそうなったら、別な方法で倒すぞ!」
ビッ! ビッ! ビッ!
対象距離、十五メートル。コボルト、一体。
魔法リストは三……これなら、拘束と識別魔法を詠唱できる……けど、コボルトとの距離が近い。
でも……間に合う!
『鉄の檻。自由を奪い投獄せよ。さすれば汝は真実明かす。誘え。二重魔法。地獄の監獄、自壊の魂』
識別魔法。属性判別、炎。
拘束魔法。コボルトが解除魔法を詠唱し、拘束を無効化。
リキャストタイム終了まで、詠唱不可。詠唱上限。
ビッ! ビッ! ビッ!
『神速抜刀。汝を屠る刀身は――』
……え、ウソ……でしょ? モンスターが魔法を、詠唱したなんて。……聞いてないよ。あ、さっきブリューゲルが言っていた通用しなくなるってこれのこと。
だけど、コボルトの動きが……完全に止まった?
『――裁きの雷。迸れ。雷神一刀』
固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十ダメージ。
「奴が魔法を詠唱した分、 隙が出来た! 一気に倒すぞ!」
……それで動きが止まったのか。ここで倒せれば、コボルトはいなくなる。出来る限り、最短で詠唱しないと! でも詠唱……できない。
ビッ! ビッ! ビッ!
…………
……1つ、終わった!
対象距離、十メートル。炎属性、コボルト。
『炎は汝を焼き尽くす。業火と成りて滅却せよ。業炎鉄火』
単体魔法。炎属性、コボルト。四ダメージ。残りライフ、六ポイント。
リキャストタイム十秒。詠唱上限。
残り六ポイント! だけど、ダメージ量が少ない……もう一度、攻撃魔法を詠唱したくてもできないし、倒せない。……どうすれば。
属性を調べてダメージ量を増やしても、効果は期待できない。
『神速抜刀。迸る雷鳴――』
ブリューゲルはいいなぁ。固有スキルをたくさん使えるし、攻撃回数も制限がなくて。たくさんダメージを与えることが出来て。
『――刀身纏いて汝を屠る。紫雷一閃』
固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十ダメージ。
パリィン!
「セレスディア! これで三体倒した! 残りの二体を倒すぞ! 拘束魔法は通用しないから、別の方法を探せ!」
ビッ! ビッ! ビッ!
拘束魔法が通用しないんじゃ、対抗することができないかも。だって、私は一体も倒せてないんだよ。
「良く持ちこたえた! 残りの二体を倒すぞ!」
無理だよ……ブリューゲル。ダメージ量が違いすぎるよ。
「しかし、よくあの場で逃げずに戦うことを選んだな! セレスディアの覚悟、見せてもらった! 次は、魔弾銃士の可能性を見せてくれ!」
覚悟、可能性……か。最初は楽勝だと思って意気込んでたけど、今じゃ心が折れそうだよ。……もしも私がこの職業じゃなかったら、もっと速くコボルトを倒せたよね……何であの時、倒そうって言っちゃったんだろう。……もう、どうすればいいのか……分かんなくなっちゃった。
ビッ! ビッ! ビッ!
……………………
………………
…………
……ここで落ち込んでどうすの、私!
最初は逃げろって言われたのに、反抗して倒すって言ったのは私でしょ! だからブリューゲルが協力してくれた。
今は何も出来ないけど、もっと知識をつけて、もっと経験して、この職業の戦い方を学ばないとでしょ!
ボードゲームやエレメントフィストでも、最初の頃は1回も勝てなかったじゃない!
それと同じだ!
魔弾銃士は、全職業の魔法を詠唱できるけど効果が半減される。だから、その中で状況にあった魔法を詠唱するんだ!
魔法のダメージ量が少ないのなら、モンスターに近づいて魔弾で攻撃すればいいじゃない!
くよくよするのはやめよう……ブリューゲルはもうコボルトと戦ってる。だけど、さっきみたいにコボルトは私に向かってこなくなった……これなら、安心して魔法を詠唱できる。……いや、私に注意が向いていないのなら、接近して魔弾で攻撃できるかもしれない。モンスターに倒されちゃうかもしれないけど、玉砕覚悟でやってみる!
ブリューゲルが待っている。
急げ!
対象距離、十メートル。コボルト二体。
残すは二体。俺がぼさっとしてたから、一体だけダメージを与えてなかった。だが、残り一体のライフは十ポイント。
タゲを奪えているかどうかは知らんが、ここまでくれば問題ないな。
最初は、アバターアウトを覚悟していたが、どうやらその心配はなさそうだ。
今度あいつとPT組む時は、ヘイト管理に気を配らねぇとな。そうでないと、またセレスディアを危険にさせてしまう。
それに、あいつはまだ新入りだ。今は無理でも、徐々に知識をつけて戦い方を理解した時、意外と魔弾銃士は侮れないかもな。何でも出来るが、何も出来ない。……面白い。次は俺自身も、同じ失敗を繰り返さないし、させたくはない。……俺も学ばせてもらった。
……反撃開始。と言いたいところだが、俺のスキルもどこまで通用するか。
……そのためには、俺も奴を学習しなおさなければ。
距離、二メートル。コボルト、二体。
まずは、通常攻撃から様子を見る。
ダメージ判定。コボルト、四ダメージ。残りライフ、六ポイント。
回避はされずか。
グルルルッ! グルルルッ!
……二体同時攻撃。バックステップで躱して、スキルを詠唱。
『神速抜刀。雷鳴一閃。迸れ。迅雷の太刀筋』
固有スキル承認。
ダメージ判定。コボルト、回避。残りライフ、六ポイント。
躱されたか。ならば、攻撃ディレイ後を狙うのではなく、こちらから攻める戦法にしないとダメだな。となると、今度は俺がその隙を狙われるか。
「ブリューゲル! そのままコボルトの注意を引いていて! 接近して倒すから!」
「それは出来るが……接近って、正気か?」
「うん! だからお願い!」
おいおい、あと1回でも喰らったらお終いだってのに……だがこの展開、さっきとかわんねぇな。面白い。
『我の眼は全てを見通し――』
ん? ここで識別魔法? 対象はライフが削られていない方。……なるほどな。接近ってことはそう言うことか。これは、面白い物が見られるかもしれないな。
『――さらけ出す。晒せ。先見の真実』
属性判別、風。魔法リスト、一。リキャストタイム十秒。
対象距離、五メートル。コボルト、二体。
ビッ! ビッ! ビッ!
コボルトの注意はブリューゲルにお願いした。あとは、私が魔弾をコボルトに当てることが出来れば、倒せる!
『魔弾装填、雷』
走りながらだと、上手くリロード出来ないから……いや、この動作も慣れないとダメだよね。時間はかかったけど、無事リロードできたし、射程にも入った。この敵は三発撃てば倒せる。
大丈夫だ。コボルトは私を見ていない。……こうやって、間近で観察していると、攻撃と攻撃の合間でわずかに動きが止まっている。その瞬間を狙えば、当てられる。
……落ち着け……敵に照準を合わせて、トリガーを引く。
……魔弾銃士は、全職業の中で、最も攻撃速度が速い。……今。
ダメージ判定。コボルト、六ダメージ。
パリィン!
『魔弾装填、風』
カチャ。
ダメージ判定。風属性、コボルト。二十四ダメージ。
パリィン!
「ふぅ。全部倒せたぁ! ありがとう! ブリューゲル!」
「よくやった! セレスディア! 流石は、最速を誇る攻撃速度――っと色々と言いたいとこはあるが、話の続きは街へ戻ってからだ。このまま一気に走るぞ。また、エンカントされちゃかなわん」
「わかった!」
始まりの街、グルーデル。酒場、昼。
「いやぁ。宿屋でライフも全回復したら、変な音が鳴らなくなってよかったあ」
「お疲れさん。最後は痺れたぜ。しかもあの芸当は、俺じゃ――っていうか、他の職業じゃ真似はできないぜ。魔弾銃士だけの特権だな」
最後かぁ。あの時は、無我夢中だったからあんまり覚えてないけど、 魔弾がコボルトを撃ち抜いて、砕け散った光景は鮮明に覚えてる。
「……なぁ、セレスディア。あのよ……今回は危険な目に合わせてしまって、すまない。俺がレクチャーしてやるとか言ってたのに、説明しなくて。しっかり説明をしていればこんなことにはならかった……本当に申し訳ない」
え、え。別にブリューゲルが謝る必要ないよ?
「そ、そんな。謝らなくていいのに。だってあれは、私が回復魔法の効果を知らないで使ったからああなった訳で」
「いや、しかしだな――」
「もう。終わったこと。無事に帰って来られたんだし、それでいいじゃん……ダメかな?」
「……すまねぇな。セレスディア。申し訳ない……ありがとう」
「気にしないの」
ブリューゲル、あのこと自分のせいだと思っていたのね。まぁ、あれは私の知識がなかったから。でも、学べたことはたくさんあった。
魔弾銃士は、魔法のダメージ量が期待できない。だから、場面に合わせて魔法を選んで、トドメは魔弾で倒すのがいいのかも。一人でベアウルフと戦った時は、全部魔弾で倒していた。後衛職だからといって、一人でもPTを組んでいても、後ろからサポートをするんじゃなくて、近接戦をメンイに戦う職業なのかもしれない。
けど、それを出来るようになるには、魔弾の射程距離を延ばすこと。
魔弾を確実に、当てられるようになること。
そのためには……まず銃の扱いに慣れるのと、モンスターの動きをよく観察しなきゃだ。あとは、スペルマジックでの身体の動かし方に慣れることも必須だし重要だよね。
がんばるぞー。
「ん? どうした? そんなに嬉しそうな顔して」
「え、そんな顔……してた?」
「ああ。すごく嬉しそうだったぞ。まっ、またPT組みたくなったらいつでも言ってくれ。いつでも歓迎するぜ」
「うん。その時はよろしくね。ブリューゲル」
やることは多いぞぉ。魔法の追加効果も徹底的に調べないとだよね。