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病弱な私がプロゲーマーになってしまった  作者: 北條院 雫玖
VRMMORPG スペルマジック編
9/10

魔弾銃士の限界値と可能性

 対象距離、六十メートル。コボルト、五体。

 ビッ! ビッ! ビッ!

 何でか分かんないけど、エンカウントしたコボルトが一斉に私の方へ走ってきてる……。取り合えずブリューゲルから言われた通り、グルーデルに向かって走っているけど、状況が理解できていない。

 何でこうなった? 私は新しいコボルトを倒そうと思っていたのに。

 ……直接、聞いてみるしかないか。

「ね、ねぇ。ブリューゲル、さっき集団で襲われるって言ってたけど何でなの?」

「回復魔法の追加効果(敵対値上昇)だ! だから襲われてる! 俺は前にいるコボルトを仕留めるから、そのまま(グルーデル)まで走っていけ!」

 ビッ! ビッ! ビッ!

 ……回復魔法にそんな効果があったのは、知らなかった。……だから、コボルトからいっぺんに襲われているのね。それでブリューゲルは逃げろと。

 だとすると、これは私が招いた結果……ってことだよね。でも、この状況で私に出来ることと言ったら何が出来るだろうか。

 ビッ ビッ ビッ!

 もう! 考えたいのに、さっきから鳴りっぱなし。この音が気になって全然集中できないよぉ。

「ねぇ、さっきから変な音が鳴ってる! 何でなの?」

「ライフが八ポイント以下になると鳴る! 音は気にせずひたすら走れ!」

「わ、分かった!」

 八ポイント以下か。今の私のライフは、残り四ポイント。……ってことはだよ、完治魔法をあと3回詠唱しないと消えないのか……長い。もし回復しようとすると、魔法の効果でさらに襲われるってことだよね。はぁ、気になるけど、無視するしかないか。

 ビッ! ビッ! ビッ!

 とりあえず、今のところはグルーデルまで走ってるけど……敵前逃亡みたいで何だか嫌だなぁ。ちょいちょい、後ろを振り返りながら走ってるけど、めっちゃ追いかけてくる。

 魔法でサポートしたいけど、ここからじゃ届かない。でも、ブリューゲルもこっちへ走ってきてる。もしかしたら、今ここで私が拘束魔法を詠唱すれば、ブリューゲルが倒してくれるかもしれない。距離は離れてるけど、走るスピードを少しだけ落として詠唱すればまだ大丈夫。だとしたら、ここは。

「ブリューゲル! これから、近くにいるコボルトへ拘束魔法を詠唱する! そうすれば数を減らせる!」

「正気か!」

「うん! だって、これは私が回復魔法を使ったからこうなったんでしょ? 大丈夫! 距離はまだ離れてる!」

「……分かった。俺は、それに合わせてスキルを使う。ただし、その後は走れ」

 これは、私が招いた結果でもある。これ以上、ブリューゲルに迷惑はかけたくない。大丈夫。例え残りライフが少なくても、近づかれなければダメージは受けない。だから、せめて考えられる方法を試す。

 対象のコボルトまでは、五十五メートルか。少し詠唱を遅くすれば魔法は届く。

(ほのお)(うず)(なんじ)拘束(こうそく)業火(ごうか)(くさり)(なんじ)(しば)る。()らえろ。業炎(ごうえん)連鎖(れんさ)

 拘束魔法。十秒間、コボルト、行動不能。リキャストタイム十秒。

 リキャストタイム終了まで、詠唱不可。魔法リスト、一。

「ブリューゲル!」

「おう!」

神速抜刀(しんそくばっとう)(ひび)雷鳴(らいめい)(とどろ)霹靂(へきれき)()()げろ。(うな)れ。神雷雷鳴(じんらいらいめい)

 固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十ダメージ。

「もういっちょう!」

神速抜刀(しんそくばっとう)(なんじ)(ほふ)刀身(とうしん)(さば)きの(いかずち)(ほとばし)れ。一刀雷神(いっとうらいじん)

 固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十ダメージ。

 パリィン!

 ……すごい。私が拘束したコボルトを、あっという間に倒しちゃった。しかも、属性を調べてない状態でだよ。いや、それだったら私にだっても……できる。

「走れ!」

 残りは五体か。走れって言われたけど……さっきと同じように順番に拘束させていけば、ブリューゲルなら倒してくれるよね。きっと。

 ……コボルトまで五十メートル……この距離なら、詠唱5回分の時間はある。

「何をしている! そのまま(グルーデル)まで走れ!」

「やだ! やっぱりここで倒そう! 追いつかれるまで、まだ時間はあるから平気! 拘束魔法を連続で詠唱するから、あとはお願い!」

「何を! 同時に相手にするのは危険だ! ここまで来たら、他に逃げ場はないぞ!」

「分かってる! だからお願い!」

「分かっているなら」

(つち)(おり)(われ)(なんじ)阻害(そがい)する――』


 対象距離、三十メートル。コボルト、五体。

(つち)牢獄(ろうごく)大地(だいち)足枷(あしかせ)――』

 あいつ(セレスディア)。話の途中で詠唱始めやがった。このまま、距離を保って(グルーデル)まで行けば安全なのに、何故それをしない。足止めをするにも、俺はヘイト(敵対値)上昇の魔法は詠唱できねぇし、範囲系の攻撃手段もない。それに、連続で拘束魔法は詠唱できん。

『――()ざせ。地平障壁(ちへいしょうへき)

 拘束魔法。十秒間、コボルト、行動不能。リキャストタイム十秒。

 リキャストタイム終了まで、詠唱不可。魔法リスト、一。

「ブリューゲル!」

 ……俺があの時、回復魔法を詠唱しろって言わなければ、防ぐことは出来た。これは俺のミスでもある。でも、セレスディアは倒すと言った。戦うとなれば、俺がタゲ(ターゲット)を奪い返せねぇと無意味だし……多分……いや、あいつ(セレスディア)は俺の職業を全く理解していない。

「早く! 拘束させたよ!」

 こんな時、俺が拘束魔法を詠唱出来れば、一番いいんだが。

 ……拘束魔法か。そういやさっき、なくても困ったことがないとかセレスディアに言っていたっけか。……前言撤回。制限付きだが、この場では極めて重要な魔法だ。

「早く! 拘束終わっちゃうよ! もう! 次、詠唱するよ!」

 セレスディアが今の状況をどれだけ理解しているかは知らんが、それでも戦うことを選んだ。

「ごめん! 詠唱出来なかった! どうしよう!」

 ……だから、逃げろって言ったんだがな。いや、魔法についての説明とかしていなかったからな。……バカなのは俺か。

 あいつ(セレスディア)は、まだ何も知らない新入り(初心者)だ。この責任は、指導者の俺が取らないとだな。

 ……アイテム全ロスト(全てを失う)の代償はでかいが、アバターアウト(プレイヤー死亡)覚悟でセレスディアを守らなくては。……覚悟か。……全く、どっちがレクチャーしてるのか分かんねぇや。

「ねぇ。、ブリューゲル! どうしたの!」

「いや。ちょっと、考え事をな。……セレスディア、二人でコボルトを倒すぞ! コボルトとの距離は、最低でも十メートルは維持しろ!」

「わ、分かった!」

 まさかコボルト相手に、こんなにも苦戦をするなんて思いもしなかったぜ。……これは、ギルメン(ギルドメンバー)には知られたくないな。とんだ笑い話だ。

 だが、今はいい。

 まずは、状況を整理。四体(コボルト)との距離は二十メートルまで詰められた。さっき、拘束させたやつは後回しだ。どれだけダメを与えればタゲを奪えるかは知らんが、攻撃あるのみ。

 リキャスト(リキャストタイム)終了と同時に拘束させ、俺がスキル(固有スキル)ダメ(ダメージ)を与えながらセレスディアを守る。

「セレスディア! 順番に拘束させて時間を稼いでくれ! リキャスト(リキャストタイム)終了までは、他の魔法で攻撃とサポート! お互いの連携が大事だ!」

「分かった!」

 まず最初に狙うは、セレスディアが拘束させたやつ。一気に、距離を詰める。

 ……だた気がかりなのは、同じ攻撃を繰り返す戦い方になる。俺がやられたように、セレスディアの行動を(コボルト)が学習してしまえば、俺のスキルと拘束魔法が通用しなくなってしまう。そうならないためにも、速攻で倒す!


 対象距離、四十メートル。コボルト、四体。

 ビッ! ビッ! ビッ!

大地(だいち)足枷(あしかせ)(なんじ)拘束(こうそく)大地(だいち)(くさり)(なんじ)(はば)む。(しば)れ。地表連鎖(ちひょうれんさ)

 拘束魔法。十秒間、コボルト、行動不能。リキャストタイム十秒。

 リキャストタイム終了まで、詠唱不可。魔法リスト、一。

 これで一体を拘束できた。問題なのは、この十秒間で何をするかだよね。ブリューゲルは、連携が大事って言っていし、十メートルまでは接近されるなとも言われた。

神速抜刀(しんそくばっとう)(とどろ)雷鳴(らいめい)――』

 ……私が魔弾で攻撃するためには、三メートルまで近づかないとダメ。

 今は、魔法だけで何とかするしかない。

『――(ひび)紫雷(しでん)雷撃(らいげき)二之太刀(にのたち)

 固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十ダメージ。

 コボルト、行動不能。残りライフ、十ポイント。

 ……ブリューゲルの行動は速い。拘束させたと思ったら、すぐに固有スキルを詠唱した。倒しやすいように属性を調べようにもランダムだから、今この場で詠唱するべきではないよね。

 ビッ! ビッ! ビッ!

 ……迷っている暇なんてない!

 こうして考えているあいだにも、コボルトは私に向かってきている。今はまだ、拘束魔法を詠唱できないけど、別の魔法を詠唱すれば拘束魔法のリキャストタイムが終わる。ブリューゲルをサポートしたあと、終了と同時に詠唱しよう。

(われ)(なんじ)(たく)(もの)(なんじ)はそれを(さず)かる(もの)(たく)(やいば)(てき)()つ。(ほふ)れ。一刀剣戟(いっとうけんげき)

 付与魔法、ブリューゲルに付与。十秒間、固有スキル、二ダメージ追加。

 リキャストタイム十秒。魔法リスト、一。

「助かる!」

 ビッ! ビッ! ビッ!

 コボルトとの距離は三十メートル。まだ、安全な距離。少し距離が縮まっちゃうけど、ここで詠唱しなければ倒せない。

(われ)(なんじ)素性(すじょう)()(もの)真実暴(しんじつあば)かれ、(なんじ)絶句(ぜっく)(いざな)(さき)(のが)れぬ監獄(かんごく)()ちろ。二重魔法(にじゅうまほう)絶息一刀(ぜっそくいっとう)

 識別魔法。属性判別、風。リキャストタイム十秒。

 拘束魔法。風属性、コボルト。十秒間、行動不能。リキャストタイム十秒。

 リキャストタイム終了まで、詠唱不可。魔法リスト、三。

「ナイスだ! セレスディア!」

 ビッ! ビッ! ビッ!

 これで二体拘束。近づかれちゃったけど、属性を知ることが出来た。……最短で詠唱すればあまり近づかれない。詠唱できるのは2回だけか……だけど、ここで詠唱しないと……ブリューゲルと連携できない。迷ってる暇……ないよね。

 対象距離、二十メートル。風属性コボルト、行動不能。

渦巻(うずま)(かぜ)(なんじ)()()く。()()れろ。風嵐渦(ふうらんか)

 ダメージ判定。単体魔法。八ダメージ。残りライフ、十二ポイント。

 リキャストタイム十秒。 魔法リスト、四。

神速抜刀(しんそくばっとう)(ほとばし)雷鳴(らいめい)(てん)(かけ)る――』

 ブリューゲルも同じコボルトに詠唱した。これで倒せる。

『――(うな)れ。雷鳴連撃(らいめいれんげき)

 固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十ダメージ。追加ダメージ二。

 パリィン!

 対象距離、二十メートル。コボルト二体。

 ビッ! ビッ! ビッ!

 やっと一体倒せた。これで、残るコボルトはあと四体。リキャストタイムは?

 よし。1つ終わった。これで魔法リストは三。だけど、拘束魔法が詠唱できない……ここは。

 『()両目(りょうめ)真実暴(しんじつあば)く。自供(じきょう)せよ。(いつわ)りの真実(しんじつ)

 識別魔法。属性判別、雷。リキャストタイム十秒。魔法リスト、四。

「ラッキーだな! 同時に仕留めるぞ!」

 やった! 雷属性! あとは、リキャストタイム終了と同時に拘束魔法だ。

 …………

 ……これで2つ終了した!

四方(しほう)監獄(かんごく)自由(じゆう)(うば)う。(いざな)(さき)永遠(とわ)(やみ)()ちろ。永久回廊(えいきゅうかいろう)

 拘束魔法。雷属性、コボルト。十秒間、行動不能。リキャストタイム十秒。

 リキャストタイム終了まで、詠唱不可。魔法リスト、二。

「任せろ!」

神速抜刀(しんそくばっとう)雷鳴(らいめい)(ごと)く――』

 ブリューゲルが詠唱しているあいだに、距離を取って次の詠唱に備える。

『――(てん)(とどろ)き、(ひび)かせろ。(うな)れ。神雷鳴鳴(じんらいめいめい)

 固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十八ダメージ。

 雷属性、コボルト。行動不能。残りライフ、二ポイント。

(かみ)(いかずち)(さば)きの鉄槌(てっつい)(ほとばし)れ。神雷撃(じんらいげき)

 単体魔法。雷属性、コボルト。四ダメージ。リキャストタイム十秒。

 魔法リスト、三。

 ビッ! ビッ! ビッ!

 パリィン!

 これで、二体倒せた!

「セレスディア! この先、最悪は拘束魔法が通用しなくかもしれん! もしそうなったら、別な方法で倒すぞ!」

 ビッ! ビッ! ビッ!

 対象距離、十五メートル。コボルト、一体。

 魔法リストは三……これなら、拘束と識別魔法を詠唱できる……けど、コボルトとの距離が近い。

 でも……間に合う!

(てつ)(おり)自由(じゆう)(うば)投獄(とうごく)せよ。さすれば(なんじ)真実明(しんじつあ)かす。(いざな)え。二重魔法(にじゅうまほう)地獄(じごく)監獄(かんごく)自壊(じかい)(たましい)

 識別魔法。属性判別、炎。

 拘束魔法。コボルトが解除魔法を詠唱し、拘束を無効化。

 リキャストタイム終了まで、詠唱不可。詠唱上限。

 ビッ! ビッ! ビッ!

神速抜刀(しんそくばっとう)(なんじ)(ほふ)刀身(とうしん)は――』

 ……え、ウソ……でしょ? モンスターが魔法を、詠唱したなんて。……聞いてないよ。あ、さっきブリューゲルが言っていた通用しなくなるってこれのこと。

 だけど、コボルトの動きが……完全に止まった?

『――(さば)きの(いかずち)(ほとばし)れ。雷神一刀(らいじんいっとう)

 固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十ダメージ。

(コボルト)が魔法を詠唱した分、 隙が出来た! 一気に倒すぞ!」

 ……それで動きが止まったのか。ここで倒せれば、コボルトはいなくなる。出来る限り、最短で詠唱しないと! でも詠唱……できない。

 ビッ! ビッ! ビッ!

 …………

 ……1つ、終わった!

 対象距離、十メートル。炎属性、コボルト。

(ほのお)(なんじ)()()くす。業火(ごうか)()りて滅却(めっきゃく)せよ。業炎鉄火(ごうえんてっか)

 単体魔法。炎属性、コボルト。四ダメージ。残りライフ、六ポイント。

 リキャストタイム十秒。詠唱上限。

 残り六ポイント! だけど、ダメージ量が少ない……もう一度、攻撃魔法を詠唱したくてもできないし、倒せない。……どうすれば。

 属性を調べてダメージ量を増やしても、効果は期待できない。

神速抜刀(しんそくばっとう)(ほとばし)雷鳴(らいめい)――』

 ブリューゲルはいいなぁ。固有スキルをたくさん使えるし、攻撃回数も制限がなくて。たくさんダメージを与えることが出来て。

『――刀身纏(とうしんまと)いて(なんじ)(ほふ)る。紫雷一閃(しでんいっせん)

 固有スキル承認。二連続攻撃、ヒット。十ダメージ。

 パリィン!

「セレスディア! これで三体倒した! 残りの二体を倒すぞ! 拘束魔法は通用しないから、別の方法を探せ!」

 ビッ! ビッ! ビッ!

 拘束魔法が通用しないんじゃ、対抗することができないかも。だって、私は一体も倒せてないんだよ。

「良く持ちこたえた! 残りの二体を倒すぞ!」

 無理だよ……ブリューゲル。ダメージ量が違いすぎるよ。

「しかし、よくあの場で逃げずに戦うことを選んだな! セレスディアの覚悟、見せてもらった! 次は、魔弾銃士の可能性を見せてくれ!」

 覚悟、可能性……か。最初は楽勝だと思って意気込んでたけど、今じゃ心が折れそうだよ。……もしも私がこの職業(魔弾銃士)じゃなかったら、もっと速くコボルトを倒せたよね……何であの時、倒そうって言っちゃったんだろう。……もう、どうすればいいのか……分かんなくなっちゃった。

 ビッ! ビッ! ビッ!

 ……………………

 ………………

 …………

 ……ここで落ち込んでどうすの、私!

 最初は逃げろって言われたのに、反抗して倒すって言ったのは私でしょ! だからブリューゲルが協力してくれた。

 今は何も出来ないけど、もっと知識をつけて、もっと経験して、この職業(魔弾銃士)の戦い方を学ばないとでしょ!

 ボードゲームやエレメントフィストでも、最初の頃は1回も勝てなかったじゃない!

 それと同じだ!

 魔弾銃士は、全職業の魔法を詠唱できるけど効果が半減される。だから、その中で状況にあった魔法を詠唱するんだ!

 魔法のダメージ量が少ないのなら、モンスターに近づいて魔弾で攻撃すればいいじゃない!

 くよくよするのはやめよう……ブリューゲルはもうコボルトと戦ってる。だけど、さっきみたいにコボルトは私に向かってこなくなった……これなら、安心して魔法を詠唱できる。……いや、私に注意が向いていないのなら、接近して魔弾で攻撃できるかもしれない。モンスターに倒されちゃうかもしれないけど、玉砕覚悟でやってみる!

 ブリューゲルが待っている。

 急げ!


 対象距離、十メートル。コボルト二体。

 残すは二体。俺がぼさっとしてたから、一体だけダメージを与えてなかった。だが、残り一体のライフは十ポイント。

 タゲ(ターゲット)を奪えているかどうかは知らんが、ここまでくれば問題ないな。

 最初は、アバターアウト(プレイヤー死亡)を覚悟していたが、どうやらその心配はなさそうだ。

 今度あいつ(セレスディア)とPT組む時は、ヘイト(敵対値)管理に気を配らねぇとな。そうでないと、またセレスディアを危険にさせてしまう。

 それに、あいつ(セレスディア)はまだ新入り(初心者)だ。今は無理でも、徐々に知識をつけて戦い方を理解した時、意外と魔弾銃士は侮れないかもな。何でも出来るが、何も出来ない。……面白い。次は俺自身も、同じ失敗を繰り返さないし、させたくはない。……俺も学ばせてもらった。

 ……反撃開始。と言いたいところだが、俺のスキルもどこまで通用するか。

 ……そのためには、俺も(コボルト)を学習しなおさなければ。

 距離、二メートル。コボルト、二体。

 まずは、通常攻撃から様子を見る。

 ダメージ判定。コボルト、四ダメージ。残りライフ、六ポイント。

 回避はされずか。

 グルルルッ! グルルルッ!

 ……二体同時攻撃。バックステップで躱して、スキルを詠唱。

神速抜刀(しんそくばっとう)雷鳴一閃(らいめいいっせん)(ほとばし)れ。迅雷(じんらい)太刀筋(たちすじ)

 固有スキル承認。

 ダメージ判定。コボルト、回避。残りライフ、六ポイント。

 (かわ)されたか。ならば、攻撃ディレイ後を狙うのではなく、こちらから攻める戦法にしないとダメだな。となると、今度は俺がその隙を狙われるか。

「ブリューゲル! そのままコボルトの注意を引いていて! 接近して倒すから!」

「それは出来るが……接近って、正気か?」

「うん! だからお願い!」

 おいおい、あと1回でも喰らったらお終いだってのに……だがこの展開、さっきとかわんねぇな。面白い。

(われ)(まなこ)(すべ)てを見通(みとお)し――』

 ん? ここで識別魔法? 対象はライフが削られ(ライフポイント二十)ていない方。……なるほどな。接近ってことはそう言うことか。これは、面白い物が見られるかもしれないな。

『――さらけ()す。(さら)せ。先見(せんけん)真実(しんじつ)

 属性判別、風。魔法リスト、一。リキャストタイム十秒。


 対象距離、五メートル。コボルト、二体。

 ビッ! ビッ! ビッ!

 コボルトの注意はブリューゲルにお願いした。あとは、私が魔弾をコボルトに当てることが出来れば、倒せる!

『魔弾装填、雷』

 走りながらだと、上手くリロード出来ないから……いや、この動作も慣れないとダメだよね。時間はかかったけど、無事リロードできたし、射程にも入った。この(コボルト)は三発撃てば倒せる。

 大丈夫だ。コボルトは私を見ていない。……こうやって、間近で観察していると、攻撃と攻撃の合間でわずかに動きが止まっている。その瞬間を狙えば、当てられる。

 ……落ち着け……敵に照準を合わせて、トリガーを引く。

 ……魔弾銃士は、全職業の中で、最も攻撃速度が速い。……今。

 ダメージ判定。コボルト、六ダメージ。

 パリィン!

『魔弾装填、風』

 カチャ。

 ダメージ判定。風属性、コボルト。二十四ダメージ。

 パリィン!

「ふぅ。全部倒せたぁ! ありがとう! ブリューゲル!」

「よくやった! セレスディア! 流石は、最速を誇る攻撃速度――っと色々と言いたいとこはあるが、話の続きは街へ戻ってからだ。このまま一気に走るぞ。また、エンカントされちゃかなわん」

「わかった!」

 

 始まりの街、グルーデル。酒場、昼。

「いやぁ。宿屋でライフも全回復したら、変な音が鳴らなくなってよかったあ」

「お疲れさん。最後は痺れたぜ。しかもあの芸当は、俺じゃ――っていうか、他の職業じゃ真似はできないぜ。魔弾銃士だけの特権だな」

 最後かぁ。あの時は、無我夢中だったからあんまり覚えてないけど、 魔弾がコボルトを撃ち抜いて、砕け散った光景は鮮明に覚えてる。

「……なぁ、セレスディア。あのよ……今回は危険な目に合わせてしまって、すまない。俺がレクチャーしてやるとか言ってたのに、説明しなくて。しっかり説明をしていればこんなことにはならかった……本当に申し訳ない」

 え、え。別にブリューゲルが謝る必要ないよ?

「そ、そんな。謝らなくていいのに。だってあれは、私が回復魔法の効果を知らないで使ったからああなった訳で」

「いや、しかしだな――」

「もう。終わったこと。無事に帰って来られたんだし、それでいいじゃん……ダメかな?」

「……すまねぇな。セレスディア。申し訳ない……ありがとう」

「気にしないの」

 ブリューゲル、あのこと自分のせいだと思っていたのね。まぁ、あれは私の知識がなかったから。でも、学べたことはたくさんあった。

 魔弾銃士は、魔法のダメージ量が期待できない。だから、場面に合わせて魔法を選んで、トドメは魔弾で倒すのがいいのかも。一人でベアウルフと戦った時は、全部魔弾で倒していた。後衛職だからといって、一人でもPTを組んでいても、後ろからサポートをするんじゃなくて、近接戦をメンイに戦う職業なのかもしれない。

 けど、それを出来るようになるには、魔弾の射程距離を延ばすこと。

 魔弾を確実に、当てられるようになること。

 そのためには……まず銃の扱いに慣れるのと、モンスターの動きをよく観察しなきゃだ。あとは、スペルマジックでの身体(アバター)の動かし方に慣れることも必須だし重要だよね。

 がんばるぞー。

「ん? どうした? そんなに嬉しそうな顔して」

「え、そんな顔……してた?」

「ああ。すごく嬉しそうだったぞ。まっ、またPT組みたくなったらいつでも言ってくれ。いつでも歓迎するぜ」

「うん。その時はよろしくね。ブリューゲル」

 やることは多いぞぉ。魔法の追加効果も徹底的に調べないとだよね。

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