1
登場人物が二人ぐらいの劇を想定して書いています。
オレはおおかみ。
あ?
どこのおおかみだって?
チッ。
おまえ、オレさまのことを知らないってのか? あ?
ひゅう。
おまえだってガキのころ、読んだことがあるだろうが。
あ?
何を、だと?
はん。有名なところだと、あれだ。
ばあさんとこどもを丸呑みしたり、子ヤギを6匹も丸呑みしたり。
ああ、そうだよ。あのおおかみさ。
ま、つまり、泣く子も黙る、おとぎ話のワルモノだ。
森の王様ってとこか。
みろ、この毛並みを。
つやつや、ぴっかぴかしてるだろうが。
あ?
骨と皮ばかりになってるって?
ひゅう。
おまえも、丸呑みしてほしいか?ん?
ふん。口には気をつけるんだな。
なにい?
最近はヤギと仲良くやってるじゃねーかって?
ばかやろう!
あんなヤツと一緒にするんじゃねえ!
う…。
くっそ…。
叫んだら、目が回っちまったぜ…。
おまえ、命拾いしたな。
今のオレは、それどころじゃねーんだよ。
なんでかって?
ひゅう。
おまえ、それを言わせるつもりかよ。オレに?
おまえ、知らねえのか?
オレさまの悲劇を!
ふ。くっそ・・・。
叫ぶのはいけねえな。くらくらしやがる。
おまえ、ぶたの野郎を知ってるか?
はん?
そうか。なら話が早い。
あ?
あのおおかみはブタに食われたって?
・・・・・・・・・。
ひゅう。
ばっかやろう!!!!!!
くそっ、それこそおとぎ話だっ!
うー…。
だめだ。目が回る・・。
くそっ。
おまえみたいな不味そうなやつでも、口にできりゃあもうちょっとマシなんだが・・。
それどころじゃねえんだよ。オレは。
オレは今、スープ1杯、飲む気がしねえ。
もうもう、我慢できないとこまで来てんだよ・・。
とにかくなあ、
ドンガラガッシャーン!!!!!!!!
誰だ!
「へ、へいっ!あっしですう!おおかみのだんなっ!」
・・・フン。なんだよ。きつねのやろうか。
あのばか。
まあた外のバケツひっくり返しやがったな。チッ。
「あ、あのう・・・・・おおかみのだんな・・・・?」
入れ!
「はいいっ!」
ぎいい〜。
がちゃり。
「あ、あのう・・・。おおかみのだんなには・・・。ごきげんうるわしゅう・・」
うるわしいわけねえだろうが!このばかぎつね!
「ゥ゙ヒャイッ!」
ふん。
なんの用だ?
「はっ!はいっ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え〜っと?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「へへ、え〜っと?・・・なんでしたっけ?」
ドガシャーン!
「ひいいいいいい〜っ!」
おっと、手が滑っちまった。
「・・・・・・・・・・・手が滑ったら椅子が飛んでくるんすか?」
バッコーン!
「ひゃっ!」
ふん。
今度は足が滑っちまって机が飛んだなあ・・。
今度滑ったら何が飛ぶやら。多分、きつねとかじゃねえか?
「やっ、やっ、やめてっ、やめてくださいっ、思い出しました!思い出しましたからっ!」
だ〜か〜ら〜、
早く話しやがれって言ってるんだこのとんまやろう!
「はいいいいっ!あの!あのですねだんな!だんなの、だんなのしっぽが」
オレさまのしっぽがどうしたあ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「うわあ!あああああああああああ、あの、あのあのあの、あの、だんなのしっぽが、しっぽが、とうとう、とうとう、みつかったんでやすよ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ひゅう。
おれさまの、しっぽが?
見つかっただと?
「はい!あったんでやす!」
・・・・間違いねえんだろうな?
「はい!あの毛並みは確かにだんなのしっぽでやす!おいら、この目で確かめてきやしたから!」
そうか。
・・・・・・。
ひゅう。
まあきつね、ご苦労だったな。茶でも飲むか?
「えっ!!!
あ、ああああああ、は、はい!い、いいいいただきますですです」
こぽこぽこここここぽぽ。
かちゃん。
それで?
オレさまのしっぽは、今どこにあるんだ?
「はい!
ふうふうごっくん。うんめえ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ひゅう。
「あっ!えっとだ、だんなのしっぽでやした!え、えっとあの。
あっ!!!!
あ、あのう、あのう、だんな。
ぜっっっっっっっっっっっったい、怒らないで、聞いてくださいよ?」
怒らないで、だと?
「はい。
あのう・・・。
あの、だからっ、おいらっ、おいらは、見つけたってだけで!おいらがそこへ置いたわけじゃないんで!」
ひゅう。
「ひっ!」
ばかやろう!
ひと睨みしただけでそこまで縮み上がってちゃあ、話が進まねえじゃねえか!とっとと話しやがれ!
「はいっ!あのう、だんなのしっぽは、あいつの家の」
・・・・・・・。
あいつ?
「はい、あいつでやす。あのぶたの」
ぶただとお!
「ひいっ!」
・・・・・・。
フン、まあいい。
ぶたの?どうした?
「えっと・・・・・・。
だんな?ぜったい、ぜえったい、怒りっこなしですよ?」
わかったわかった。早く言え。
「はい、そのう・・。
あいつの、家のですね。
え〜っと・・。そのう・・・・」
早く言えってんだろうが!
「はいいい!
えっと、ゴミ捨て場にあったんでやす!」
ゴミ捨て場だとお!!
「ひゃあっ!だんな!おいらじゃないってば!あいつですよ!あいつがきっと、そこへ捨てやがったんですよ!」
ひゅう。
・・・・・・・・・・。
なるほど。そういうことかよ。
あいつのしそうなこったな。くそっ・・・・。
ん?
なんだ?
おまえ、まだいたのかよ。
これでわかったか?
食いもんも喉を通らねえほど、オレ様が悩んでるわけが・・。
そうだよ。
さっきも言っただろうが!
オレさまは、食われちゃいねーんだよ!
現にここに!こーして!オレさまはいるだろうが!
なんにも見てねえやつが、勝手なこと言ってんじゃねえぞ!
オレさまを舐めるんじゃねえ!
あんとき、オレさまは華麗な身のこなしで、鍋には落ちなかったんだ!
でも。
でもなぁ。
ひゅう。
あのブタ野郎がとっさに鍋のフタを閉めやがったせいで…。
オレさまの大事な、しっぽが。
しっぽが、ねもとっから、ちぎれちまったんだよ!!!!
舞台中央、客席側に壁のない、古ぼけた家、中には机、椅子が2脚、きちんとしたお茶セット、壁に紐が引っ掛けてある。おおかみは椅子にどんより座っている。家だけにスポットが当たっている(屋根はない)。
というイメージで書いています。