美女と腑抜け
私の実話を元に名前などを変えています。
凄い美人の三日月さんという女性が職場の同僚になった。
ただ、容姿ばかりを取り上げられて実力を評価してもらえないと文句を言う事が多い人で、その前に性格がきつすぎて、そこで何故ブチ切れるんだと言うところで怒ったりもする。
それに男性不信で、今までにセクハラ等が多く嫌気が差しているというのだが、俺から言わせれば自分から敵を作って相手を怒らせて、そう言う態度なら思い知らせてやらねえとなって相手に悪意を抱かせてもおかしく無い態度を取るのも問題だった。
三日月さんはかなり裕福な家庭で育ったようで、会社の社長や重役ばかりが身内にいて、会社にきたのもコネ入社だと言うが、実際コネはコネでもそれなりに実力があるからということだった。
だが、実際は容姿端麗なのが知れ渡っていて、面接官や他の重役にも名前が知られていて入社しただけで、無能でこそないのだが、実力は他に比べてやや見劣りすると言った感じだった。
そして、一昔前に流行った暴力系ツンデレっぽくてまあ切れやすい事この上ない。
そういう前情報だった上に、俺の配属されている部署は資材搬入などの管理で、どちらかと言うと閑職に近くて力仕事もある。
俺にとっては天職とまでは行かないがそれなりに良くて、在庫管理と資材の運び出しなどはかなり楽だった。
元々その部署には、ろくに使えない鶏がらみたいな奴ばかりが集められ、体力も人並みに無い奴らなのに、台車に30kg缶を20個持ってきて、パレットに載せてリフトでトレーラーに積み込む作業をしろとかと言うものだった。
何故美人の三日月さんがこん場所にと思ったのだが、営業で結構やらかしてしまったらしい。
取引先の人間から、今夜どうだいと誘われてブチギレて殴りつけたらしい。
これが夜のお誘いではなく、試作品が出来たから見せられる状態にあるので、最も早い確認なら今夜どうだい?と言う意味で相手は言っただけだったらしいのだが、それをいつも自分がセクハラの対象にされているため、いやらしい誘いだと思い違いをして、条件反射で瞬間的にブチ切れてしまったらしい。
完全に頭イッテルかも知れんと思ったのだが、何とか首の皮一枚で俺の居る資材搬入の部署に回されて来たようだった。
納入品の確認、伝票の確認、その他支払請求する部署に事務的立場で来た三日月さんは、最初の挨拶でまあまあその態度が、ちょっとそれはどうなの?と思われてしまうような気の抜けた挨拶だった。
そんな時に俺は場を和ませようとして
「三日月さんって三日月って言うぐらいだから蹴りはやはり三日月蹴りが得意だったりしますか?」
とか聞いたら
「う~わ何?キモ!」
と言われてしまったので
「いえ何でも無いです」
と言って俺は話を終わらせた。
だが前情報からどうしても三日月さんの暴力的女性にもかかわらず、体が弱いのが気になってしまい、鍛えた方が良いと言うと
「はぁ!?私を弱いと見下すのか!」
と言うので、じゃあどうぞと言って俺は手を後ろに組んで、いくらでもどうぞ!と言ってふんと鼻を鳴らしてみると、色々鬱憤が溜まっていたのか三日月さんは俺をボッコボコに殴ってくるのだが、悲しいかなペチペチとなるだけ。
「流石に弱すぎて話にならん!」
と言うと
「何よ!馬鹿にして!そうやって男は女を力で言うなりにさせる事しかできない癖に!」
と叫ぶので、それにしたって弱すぎて小学生の女子の方がまだ強いかもと言うと
「ふざけるな!」
と言うので
「いえ真剣に貴方体の具合が悪いと思いますんで、医者に行ったた方が良いですし、食べ物の好き嫌いが多いのがそれだけで解りますよ、だって顔青白いし、眼が何か薄い色しすぎてて」
と俺が言うと
「何で好き嫌いが多いって解る?」
と聞かれ
「そんなのわかりますよ?あまりにもバランスが悪くて、フラついているし、歩き方が足の長さの割に歩幅は小さいし、たまに膝がカクっとなったりしてませんか?あと体重が軽すぎて殴られていても何も痛くないし、それどころか体の使い方が間違っているので稼動範囲が余りに狭い動きをしているので、自分の体を上手く使えてないのが良く解りますけど、三日月さん運動音痴ですね?」
と言うと、顔を真っ赤にして恥ずかしがって
「そんな事まで解るの?」
と言うので
「俺から言わせれば貴方は全く美人じゃ無い、何せ健康的じゃ無いしどう考えても病的で、貴方のわき腹なんて2リッターのスポドリのペットボトルの前後幅ぐらいしかないですから、そんなの絶対におかしいし、アイドルとかモデルが痩せすぎて問題になるアレみたいですんで、かなりまずいと思います」
と言うと、三日月さんは口ごもって、口をへの字にしてしまうので
「三日月さん貴方好き嫌い多いでしょう?嫌いな食べ物を挙げて言ってもらえます?それが解れば色々良い方向に行くかも」
と言うと
「まず何で私の事をそこまで見抜いた?」
と言われ
「普通に貴方を見たら、まず目が行くのはそこです」
と言うと
「普段誰もが私の美貌をとやかく言うが、貴方だけは私の事を美人じゃ無いと言うし、私が運動音痴だったり、食物の好き嫌いが激しいのを初対面で見抜いた人間がいない」
と言うので
「そりゃあ貴方を見たら、真っ先に目に入るのはその顔の美しさで、芸能人の今売れているアイドルや、ドラマや映画などに出てくる女優の特徴を全部持っているような顔しているから、まず皆そこに注視して、色白なのがとにかく良いと思うから、不健康かどうかまでは気がつかないでしょうね、それに化粧も少しすれば血色も解りませんからね」
と言うと、三日月さんはそれから人が変わったように、真剣に話を聞いてくるようになった。
まず食べ物で何が嫌いか聞くと、肉全般駄目、魚は白身が良い、野菜はピーマン、セロリ、パセリ、トマト、人参、イモ類全部嫌い。
牛乳、ニンニク、ニラ、ラッキョウ、ネギ、冥加、オクラ、納豆、辛い物全般嫌い。
あとはあれとこれとと続くので、俺は驚愕してアレルギーかと聞くと、違うと言うので逆に何なら食べられるのかと聞くと、お菓子とかデザート系、他にはチーズリゾット等が好きだと言うので、まあ簡単な話ただの偏食家だった。
三日月さんは、家では広い30人位入れるような広間で一人、ほぼ家族と団欒なんかしないで毎日飯を食うから味が解らないし、あの感じが嫌いだったと大体金持ち特有の悩みで、俺もまあ考えられそうな感じの話だなあと思っていたら、三日月さんが真剣に俺に話をするので、遠めに見て俺が物凄く怒られて詰められているのでは?と周りは思ったらしく、とても声を掛けられるような雰囲気じゃ無いので、他の社員達は見ないフリをしていたと言うことだった。
そもそも閑職なので空き時間は割と有り、それからと言うもの事務手続きなんかをしながら俺は三日月さんとばかり話していた。
そして、三日月さんから私の話は他の人には言うなと釘を刺されていたので、俺はあくまでも個人的な事は言う訳無いと言うと、その言葉に三日月さんには納得してもらえた。
後で他の社員からなんだったんだと聞かれる事があっても、仕事の話を当たりさわり無く、順序だてて教えてもらっていただけだと言っておいた。
そんな感じで、三日月さんと健康面から始まり、段々と私生活の細かいことや、音楽などと色々話し込んでいくうちに、俺のアパートに度々来ては、飯を作って食わせるような仲になった。
そんな関係を何度も繰り返していくうちにその年の冬になり、二人でコタツでゆっくりしていたら、男女ならコタツで寄り添って良い感じになって、いつの間にか気がつけば三日月さんは俺にはただの甘え猫になっていて、良い感じに仲良くなれたなあと思い、恋愛ってこういう事なのかな?なんて思い始めていた。
だが、いざそういう時になっても勇気が無く、手を出そうとは思ってもできなかった。
そんな一歩踏み込む勇気の無い俺は、それからも三日月さんと色んな事を話した。
見た目で摺り寄ってくる高学歴マウント野郎とか、女は力づくで言いなりにさせろ系の、典型的パワハラ上司なんかを陥れる為の技術を教えたりとしながら、三日月さんはレベルアップしていき、最終的には俺の嫁になりました、なんてことは無かった。
年が明けると、気に入った若いやり手の上司に声をかけられ、すぐに意気投合して食事に行ったりし、さっさと付き合っていつの間にか結婚する事になっていた。
三日月さんは、心身共に健康的になったら人当たりも良くなり、すぐに上役に気に入られて俺のいた閑職の部署から別に移動になっていた。
俺には何も言わずに三日月さんは、二度と顔を見せないまま結婚の報告も無く、いつの間にか幸せに暮らすために、その若いやり手の上司と共に転勤していった。
直後に寿退社したとの噂が会社に流れ、俺の耳にも入ったが複雑な気持ちになった。
正直見た目は好きだった、人としても心身共に健康的になった三日月さんは、非常に魅力的だったし暴言も吐いたりしなかった。
だがそれは俺にだけではなく、本来の三日月さんがそうだったと言うだけだ。
俺は、お金持ちのお嬢様との身分違いな恋愛など、できるはずもないよなと無理やり納得をして諦めた。
そんな事もあって、会社にいると色々楽しかった事を思い出すのだが、三日月さんはもういないし、閑職だったから部署も他と統合されるのをきっかけに俺も会社を辞めた。
今でも彼女の事を思い出すと、その美しい顔は今でも忘れられないが、いつも何故かすぐにぼやけてしまうのは、きっと目から溢れる涙のせいではない。
と思いたいだけだったというつまらない話だ。
簡単な書き方で終わってしまいましたが、所詮人生なんてこんなものです。




