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猫になる季節

真冬に猫になれた!

作者: 西牙 叶

 見渡す山に屋根に降り積もる静かな雪。

 ここは、古き良き日本家屋の二階、ストーブがあたためる畳みの部屋。


 年末年始を過ごすためにおじいちゃんの家に来ていた私は、うつらうつらして目覚めると猫のトラと体が入れ替わっていた。


 やった!


 入れ替わるのは二回目。


 前は真夏であんまり楽しめなかったけど、今は真冬!


 バンザイした前足で、手始めに体を撫でてみる。

 短毛なりに冬毛になってモフモフさが増してて最高!

 肉球以外は隙間なく毛に包まれてて、完全なる防寒対策ができてるこの安心感。

 

 丸まってみる。

 私、ずっとこうしてみたかった……


 綺麗な丸になれたようだ。

 猫の体が柔らかいのは、丸まるためなんだなぁ。

 お腹のモフモフが気持ちいい。

 ぬくぬくで、このまま寝てしまいたい…………


「わっしょい! わっしょい!!」


 なになに!?

 真冬に祭りか?


 飛び起きて窓のほうを見る。


 雪で曇っててなにもわからない。

 わからないけど、とりあえず踊っとくか。

 前回はモデルウォークだったけど、今回は猫踊りだ。


 わっしょい、わっしょい! ぴーひゃら、ぴーひゃら!


 ふぅ、かなりあったまった。


「わっくしょい!」


 ん? 後ろ?

 ああ、私になったトラのくしゃみだったのか。


「へぶっしょい! 寒い……」


 硬い体で一生懸命、丸まろうとしてる。


 ごめん、人間は寒いよね。

 綿入りのちゃんちゃんこに手袋と靴下まで万全に寒さ対策してるけど、モフモフの毛皮のようにはいかないか。


 窓の隙間から冷たい空気が入ってきてる。

 この部屋はストーブしかない。

 田舎に来たからには、二階から風情ある冬景色を楽しもう!

 なんて気取ってしまわず、こたつにいればよかったね。


 私に懐いてるからか気まぐれか、様子を見に来てくれたトラにまで寒い思いをさせてしまった。


 一緒にこたつに戻ろう。


「にゃい、にゃい」


 揺すっても起きない。


「にゃーい、にゃーい」


 さらに揺するとさらに丸まってしまった。


 少し温めてあげるか。ほれ。


 トラがするみたいに体にすり寄ると、


「にゃあ!?」


 いきなり抱きしめられた。


 そのまま一気に締め上げるようにギュウウウーッ!


 気持ちは嬉しいけど、ぐるじい!


 幸い、トラはすぐに力を抜いた。

 

 親猫に包まれた仔猫のような状態になった。

 私も冬に来たら、こうしてトラを湯たんぽにして寝るんだよね。


 湯たんぽにされる側もなかなかいいよ。トラは暖かい?


「寒い、こたつ、こたつ……」


 もぐった夢を見てるのか、安らかな寝息が聞こえてきた。


 ひとまずよかった。

 こちらはトラとストーブに挟まれてるから、かなりいい状態になってきたよ……


 眠りかけた時、ふすまが開いた。


「まだここにいたのか」


 あ、おじいちゃん。


「寒いだろ? 起きてこたつに行け」


 腕を抜け出して、おじいちゃんの前に後ろ足で立つ。


「にゃー」


 連れてってー


「おお? トラ、またなにかお願いか?」


 夏のこと、覚えててくれた?

 そう、今回は抱っこして連れてってほしいのですよ。

 両手を伸ばしたらわかるね。

 抱っこ、抱っこ。


「にゃっ、にゃっ」


「冬はもう毛を刈る必要ないだろ?」


 うん、ないよ。抱っこ!


 しゃがんだおじいちゃんの胸にガシッと抱きつく。


「おお、よしよし」


 抱きしめて撫でてくれた。

 ハートフルな瞬間だけど。違うよー。


「よしよし、お前の気持ちは伝わった」


 伝わってないよー。


「ほら、こたつに行け」


 手でふすまに追いやられてしまった。


 抱っこは簡単なようで意外に難しかった。今回は失敗、自分で歩くか。


 うわー、廊下寒い、冷たい。歩いたら肉球凍ってしまう。


 これは、ワンチャン、いや、ネコチャン、さっきみたいにトラが湯たんぽ代わりに抱っこしてくれることに賭けよう。


「起きろ、ほら」


 おじいちゃんはトラを揺すって起こしにかかった。


 目を閉じたまま、両手を伸ばすトラ。


「抱っこ」


 ええ? 私がしてほしいことを。


「ええ? 抱っこはもう無理だぁ」


 おじいちゃんは言いながら、抱っこしようとしてくれてる。


 無理だよ、本物の虎を抱っこするくらい無理だよ。


「何やってるの」


 あ、お母さん。


「抱っこしてくれと言うんだよ」


「何言ってるの、ぎっくり腰になったらどうするの。甘えないで自分で歩きなさい!」


 お母さんにお尻をはたかれたトラは、一目散に駆け出していった。


 追いかけて居間にいくと、こたつにやっぱりもぐってた。


 私ももぐりこんで、トラの隣で丸くなる。

 全身だんだん暖かくなっていく、幸せ――


 ん? トラがもぞもぞしだした。


「あっつい。あ、脱げた」


 寝たまま器用にちゃんちゃんこを脱いだけど、驚きの体験に違いない。


 便利でしょ、人間のモフモフ。


 すっきりしたトラと一緒に、再び丸くなる。


「こら」


 お母さん、寒いこたつめくらないで。


「頭くらいだしなさい、猫じゃないんだから」


 猫なんだよ、今の私は……


 心地よく目を覚ますと元に戻ってた。


 おじいちゃんもお母さんもみんないる。

 トラもこたつの中でおじいちゃんの膝に乗ってる。

 こちらに一切こないのは寂しいけど。

 こたつとおじいちゃんには勝てない。


 みかんを食べたら、こたつに首までもぐって寝直しだ。

 猫に匹敵する極上の温かさ。

 さっきの極上体験を夢でまた味わえるに違いない。 

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