80◆風の迷宮を進む
迷宮に入る冒険者が増えたせいか、入り口近くのテントが充実し始めた。
《癒し手》のいるテントもできて、急ぎの治療だけじゃなく怪我でも金を払って癒してもらえるようだ。
衛兵に挨拶して迷宮内に入る。
「聖なる導きよ、この者たちを守り給え」
「《聖導の祝福》《聖導の壁》」
「《聖導の鎧》」
導女フラバスの導術で柔らかな光がパーティを包んで支援がかかった。
「いつも通りやるよ。ハービスホークは見て合わせろ」
「あ、ああ、ちゃんとやるよ」
一階ではハービスホークの出番はなかった。
デカイネズミはすぐに倒れて迷宮に吸収されていった。
「ヂュジジ…」
ドロップは魔石と革手袋だった。
「買ったやつと一緒だ…」
「ここのが出回ってるのさ。鎧は違うみたいだが」
「進もう」
一階を過ぎて二階に下りる。
トレントの狩場だが、ここで実力が見られるだろう。
「通り道にいるけど倒す?」
「ああ、ちょうどいいから倒しつつ三階へ進もう」
「んむ。連れてくる」
――ヒュッ!ヒュッ!
矢を二本放つ。二本ともミキュラを追って動いているトレントに当てた。
「ズリズリズリズリ!」
――ガシュ!
前に進んで盾で幹を叩きつける。魔物の足が止まる。
そのまま連撃を入れた。右、右、右と入れて盾で殴りつける。
「フン!」
相手の枝の払いが来たのを受け止めて、突き返しを入れた。
「おおっ!」驚いているハービスホーク。放置する。
「エイエイ、エイエイ!」
ミキュラの連撃が続いた。
「チェア!ソイ!チェア!ソイ!」
ラベトリオの連撃が決まると、魔物の動きが止まった。
すぐに迷宮の吸収が始まる。
魔石とドロップの木材を拾って《インベントリー》に入れた。
「ここではこんなもんだ」
「お、おう。いつ後ろに下がるんだ?」
「下がらないよ。オレが受ける」
「ああ、そうか。盾持ちだもんな…」
続く数戦でもハービスホークの出番はまだなかった。
戦う動きを軽く見ておきたいのでラベトリオに少し下がってもらう。
「好きに動いていいぞ」
「ああ、わかった!」意外と素直な奴なのかもしれない。
――ヒュッ!
矢を放って追いかけるように前に出る。
「ズリズリ!」
――ガン!
前に進んで盾で幹を叩きつける。魔物を進ませないように圧力をかける。
「フン!」
相手の枝の払いが来たのを弾いて、突き返しを入れる。
そのまま右、右、右と連撃を入れて盾で殴りつける。
「エイエイ、エイエイ!」
ミキュラの連撃は安定している。
「タァー!」
ハービスホークが掛け声をかけて魔物の脇から両手剣で左右に袈裟に切りつけた。
連撃が決まっている。トレントの幹が揺れた。
スッと脇にずれる。
「チェア!ソイ!」
ラベトリオが後から前に出てきて後に続いた。いつもの連撃の途中で手を止めた。
魔物がすでに動きを止めていた。
「まあまあですね」
「動けるな」
気を配って動ける奴ではあるようだ。
「もっとできるんだぜ!」
「よし、下へ行こう」
「「「「はい」」」」「おう」
三階へ下りるために小部屋に入ると、先客がいた。
倒れている冒険者とその仲間達だ。仲間たちもかなり傷ついているように見える。
「ちょっと行ってきてもよろしいですか?《癒し手》のようですので」
「ああ、もちろん」
導女フラバスが近づいていく。《癒し手》同士の暗黙の了解があると聞いている。
――魔鹿と戦っているときに後ろから…。
――回復が追い付かずにやられた…。
漏れ聞こえてくるのはここの定番の負けだ。
仲間が動けるだけまだ判断が良かったのだろう。
◆◇
「倒れているのは《癒し手》ですか?」
「導女様!お助け下さい!はいそうです。うちの《癒し手》です」
斥候役に見える軽装の女冒険者が応えた。彼女もケガをしているようだ。
「では治癒を掛けますね。《聖導の癒し》!」
強く輝く光が倒れている冒険者の回復を強く促した。
光が吸い込まれるように消えてしばらく間があった。閉じていた目が開かれる。
「わぁ、よかった!」喜ぶ女冒険者。
「あなたが女神様か?」
「いいえ違います。ただの導女ですよ。さあ、立ってお仲間の回復をして下さい」
「…よろしければ手伝っていただいても?」
「いいえ、私も仲間とおりますからそこまでの余裕はありませんので致しかねます」
「そうですか。求めすぎですね。癒しの技、深く感謝致します」
「はい。お互い良い旅路を行きましょう」
目礼に一礼を返して、フラバスが戻ってくる。
その姿はまさしく厳かな《癒し手》といった風情であった。
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