72◆迷宮の守護者
「《聖導の盾》!《聖導の守り》!」
柔らかな光がガラアックを包んで守備力を底上げする。
――ヒュッ!ヒュッ!
ミキュラと二人で放った矢が当たるが刺さらずに弾かれた。
すぐにハサミを振り上げながら、灰色の身体をこちらに向けて走ってきた。
「来るぞ!」
――シャキシャキシャキシャキ!
ハサミの周りに輝く霊気のようなものが見えている。
「フン!」
大サソリの右のハサミを受け止めて耐えたとたん異変に気が付いた。
「ゲホッゲホッ!これは!」
ハサミに着いた房から黄色い塵がふわりと周囲に撒き散らされているのだ。
近くで戦う者全員に降りかかった!
「「ゲホゲホ!」」「ケホケホ!」
――ガン!ガン!ゴツン!
――パリーン!
光の盾が最初の衝撃を和らげて砕け散る。
ハサミ、ハサミ、尻尾の針と三連撃を食らってよろめいた。
咳で体の自由が効かないが何とか立ち続けた。
――ビュー!
尻尾の先から何やら液体を浴びせられて胸がムカムカする。
鼓動の音がやたらと大きく聞こえる。
体力を削られていくのを感じる。やはり強敵!
目がかすんでいるが、勘で相手の方向に盾を構えた。
「《雷矢》!《氷結》!」
「まずいわね!大丈夫?」
音を立てて飛んだ雷の矢が魔物に突き刺さる。衝撃で全身を震わせて冷気を全身に浴びた。動きがわずかに鈍くなった。
「《浄化の聖風》!《聖導の癒し》!」
柔らかい光とともに風が吹いた。
各自の周囲の空気が清浄なものに置き換わる。
さらに回復を促す力を受け取った。
しかし、まだ咳は止まらない!
「《聖導の癒し:病魔》!」
「カハッ!ヒュウ!ハーハー。スーハー」
喉のつかえが一気に楽になって呼吸ができるようになった。
――ガン!ガン!ゴツン!
再びハサミ、ハサミ、尻尾の針と三連撃を食らってよろめいた。
たまらず片膝を付いて体を支える。
――ビュー!
盾で尻尾の毒液を避けるが避けきれない!
心臓の鼓動が激しくなる。
「ぐえぇぇ」
頭にこれまでの戦闘のイメージが重なる。
バネのように体を起こして盾で殴りつけて剣を突き立てた。
咳をする塵は導女が対処してくれたようだ。あとは殴り続けるしかない!
「ゲホゲホ!」「ケホケホ!」
「《聖導の癒し:病魔》!《聖導の癒し:病魔》!」
「ゼー、ハー!」「スゥー、ハー!」
ワルケリアナが魔術を放たずに様子を見ていた。
「見えてる?!魔物は向こうよ!」
ジルベルトはその隣で魔物を警戒している。
「治ったが治ってない!」
「治った!」「治りました!」
――シャキシャキシャキシャキ!
大サソリの動きが大きく変わった。尻尾とトゲ針を伸ばして一回転したのだ。
――ブウン!
とっさに盾を斜めにして跳ね上げる。成功した!
――ガキン!
「フン!」
「きゃっ!」「おお!」
「危ない!」「避けます!」「ハウ!」
後ろにいた全員の姿は見えないが無事のようだ。
腕が痺れて力が入りにくいが突き返しを入れた。
相手が動いていたので止まっている脚を盾で殴りつける。
「《聖導の癒し》!」
全員に柔らかな光が届いたが、ガラアックだけかき消えて終わった。
回復を促す導術だが、毒を食らっていては有効ではないようだ。
「エイエイ、エイエイ!」――「ヒュパッ!」
「チェア!ソイ!チェア!ソイ!」
二人が攻撃を始めた。大サソリに連撃が決まり出す。
「《双氷矢》!からの《双氷矢》!」
氷の矢が二本ずつ、合計四本飛んで大サソリの身体に突きささる。
刺さったところから冷却が進み氷付いた。
ワルケリアナの魔術も冴えていた。
――シャキシャキシャキシャキ!
ハサミに捕まる寸前で回避した。続いてハサミがまた来る。
その後に尻尾の毒針だ。二回も食らったので順番を覚えてしまった。
「フン!」
突き返しは無理に入れない。連撃を相手のハサミに入れた。
右、右、右、盾で近くにあった顔を殴りつけた。
胸の鼓動が激しさを増す。その分音が聞こえずらい。
「チェェア!」
ラベトリオの力強い一閃が魔物のハサミを関節から斬り飛ばした。
「エエーイ!」
ミキュラがいきなり現れて後ろから魔物を切り上げた。気配を隠して回り込んでいたのだ。
それが止めとなって、力なく迷宮に灰色の腹を着けると大サソリは動かなくなった。
後でグリーブスがパチパチと拍手をしていた。
「やったな!おめでとう!」
「うおー!やった!」
目の前が暗くなって倒れ込んだ。
「やったわ!」
「ふにぃ。勝った」
「ふー、一時はどうなることかと思いました」
「少し待たせすぎました。ごめんなさい」
「《聖導の癒し:解毒》!《聖導の癒し》!」
ガラアックの身体を光が包んで毒素を解毒する助けとなる。
鼓動が落ち着き始める。体が温かくなってきたのを感じる。
これで回復するだろう。
倒れたまま尋ねる。
「ドロップは何だった?」
「大きな魔石と《INT+》のスカーフに腕輪ね。《魔術抵抗》の上がるものよ!」
「これは誰が使うといいのかな」
「スカーフは魔術士にいい物だと思うの!正直欲しいわ!」
「「「「どうぞ!」」」」
ローブのフードを外すと、ワルケリアナは銀色に見える灰色のスカーフを首にくるりと巻いた。首飾りの上になって、白い首筋に巻き付いた。
「ありがと!」
「大サソリの攻撃に効くものかわからないですけど、腕輪はミキュラさんがいいと思います。魔物の魔術に利きますよ」
「んむ。そうする」
ミキュラも腕輪を二の腕まで上げて嵌めた。その方が邪魔にならないらしい。
「カッコイイ?」
「カッコイイよ!」「強そう!」
「エヘヘ」
「ふう。やっと落ち着いた」
「回復した?」
「ああ。もう大丈夫だ」
「私たちもひどい目に遭った!」
「あんな魔物だなんて一言も言ってなかったなあ」
「そうよね!教えてくれてもいいのに!」
「知らない方が初心者には勉強になるだろう?」
グリーブスとアームスが真面目な顔をしていた。
「いやそれは。まあ知ってても対応は《癒し手》次第かもしれませんが」
「導女様、助かったよ」
「んむ。助かった」「ええとても」
「はい、どういたしまして」
「じゃあ、そろそろ監視所に戻るかな。お前たちも休憩してくならして行ってかまわないぞ」
「「「「「はーい」」」」」
「これでここも狩場の一つになったな」
「そうなるのかあ。ちょっと意外だな」
「何言ってるの。やっと初級迷宮の踏破者になったのよ!胸を張りましょ!次はもっと上を目指すわよ。中級迷宮よ!」
「そうだな!」「ふみぃ」
「お付き合いしましょう!」「ええ!」
「元気がいいな。フロアボスも倒していったらどうだ?」
「さすがに今はちょっと」
「ん、休憩は大事」
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