06◆森林の階層
シャドウゴブリンが複数で偵察していた。
「ミキュラ、頼む」
「ん」
素早く駆け出したミキュラが投げナイフで攻撃する。
そのまま先手を取るべく、ワルケリアナの魔術が飛んだ。
「《氷結》!」
「こっちだ!」
斜め後ろからロングソードで切り込む。
奇襲が成功して一体目はなんなく倒した。
二体目も氷魔術の効果で動きが遅くなっており、体勢を整えられてない。
「ふっ!」
ミキュラの短剣がシャドウゴブリンのシルエットを切り裂いた。
強力な一撃が入り、倒れる影。
後には魔石が残されていた。ドロップは弓と矢がでた。
「ドロップだ」
「私は使わないわ」
「ワタシは興味ある。でもガラアックのほうが練習するといいかも」
「それはあるかもなあ。お互い使えると攻撃に間ができなくなるだろうし」
合間に打てる1発が戦闘を短時間で終わらせる一手になるのは、全員が承知していた。
「ミキュラの方が器用だから、先に覚えて教えてくれ」
「ん、そうする?わかった」
シャドウゴブリンの弓矢はミキュラが使うことになった。もう1セット出てくればオレが受け取ろう。
ドロップを受け取るときは、報酬の分配を減らすのが普通だが、あまりこだわってはいない。
『マードの爪』では装備優先にしたいからな。受け取って飯が食えないんじゃ話にならないし、それを嫌って装備を受け取らないのも困る。
幸いドロップも稼ぎも多めに獲れてるから装備強化予算を組むまでは分配する方針で行こうと思う。
全員の貢献度も一緒ぐらいだしな。
「見て来る」
「頼む」
「わかった」
ミキュラの偵察が強力に利いていて、ほぼ先制が成功する。
うちらのような少人数パーティとしてはありがたいことだ。
「回り込んだ方がいい。大勢いた」
「じゃあ下がって別方向だな」
「戻りね」
分かれ道まで戻る。
「なんか強そうな匂いがする」
「下がるか?挟まれたくないな」
「準備は大丈夫」
「進みましょ。ダメそうなら逃げるわよ」
「リーダーの方針どおりに」
「わかった、見てくる。静かに進んでて」
すぐに速足で消えるミキュラ。
音がほとんどしない。
ゆっくりと後を追う。
「猪の魔物がいた。1匹だけど強そう。大きさがある」
(こういう時に弓があれば使えるかな?)
「こっちで攻撃し始めよう。受ける前提で行く」
「そうして欲しい」
「魔術はどうする?」
「強めのをいつでも入れてくれ。掠るぐらいならいけるから」
「わかったわ。いつも通り足止めからやるわ!」
「よし、やろう」
「おらあ!」
叫び声を上げて、すぐに猪のそばに駆け寄る。
向こうが気付いてから振り返るのが早かった。
――バン!!
盾に強力な鼻突きを食らった。
それでも耐えられないほどじゃない。腰を落として耐える。
「ブモモモ!」
態勢が安定するのが難しい。盾の持ち手に反対の手を添える。
「くそっ!」
「《氷矢》!」
「フッ!」
二人の攻撃が立て続けにヒットした。おかげでこちらへの圧力が弱まる。
「いいぞ!」
冷気を帯びた猪の身体に盾ごと体を押しつける。
出来た隙間に割り込むように武器で斬りつけた。
「ブモ!」
いきなり盾の先から猪が消えた。
「あっ!」
後ろから狙っていたミキュラが弾き飛ばされた。
「こっちだ!」
盾を剣で叩いて威嚇する。
「プギィ!」
暴れられて後衛にまで行かれると、攻撃ができない。
前衛で留めておかないと!
「いけるか?」
「大丈夫~」
ミキュラの間延びした声が聞こえた。
「《氷矢》!」
ワルケリアナの魔術が的確に当たった。
すかさず突っ込んで斬りつけて、盾で殴る。
「プギィ!」
脇からスッと現れたミキュラの短剣が脚を切り裂いた。
「これでどうだ!」
渾身の力を込めて叩きつけると、魔物の動きが止まった。
「プギィ…」
「はぁはぁ」
「倒せた?」
「倒したね」
「強い魔物だったな」
「スケルトンよりはるかに手強いね」
「ミキュラ、怪我は?」
「してないよ~。弾き飛ばされただけ」
「「よかった!」」
「ドロップを確認しよう」
「肉塊だねえ」
「上質な肉だなあ」
「当たりドロップね!」
「自分たちの取り分を残して、売ろうか」
「高く売れるわよ!」
「やたー!」
「今日はこれで引き返そうか」
「そうね、今日はいい働きをしたわ」
「いつもしてるぞ」
「あら、ありがと!」
「ミキュラもしてるよ!」
「うふふ、ありがと」
しばらく歩いて木立を抜けると上へ向かう階段の近くだ。
「何もいない」という偵察のミキュラ。
素直に帰ってくる三人だった。