29◆旅の《癒し手》と護衛
「依頼だからやるけど荒れ地に向かってどうするんですか?導女フラバス様」
「予言があるのです。勇者の予言が。ラベトリオ」
旅の二人が会話を続けていた。
御者がウトウトしていても馬は道なりに足を進めている。
「勇者反対派の方に聞かれるとよろしくないので多くは語れませんが、タカイダイーチ近くの荒れ地に『出る』のだそうです」
「《勇者》が?ふむ」
「ええ。これは大事な使命なので明かしましたが他言無用です」
「はいよ。わかってますよ。タソガレーヌでギルドの偉い方からも釘を刺されたからなあ」
「だが二人でってのもまた思い切りましたね」
「まだ確定ではないので少人数での探索の方が向いていると思ったのです。予言は外れることもありますし、小回りも効きますからね」
「ふむ」
「いちばんは旅費のことがあります」
「経費は少ない方がいいか」
「はい」
「マードまでつながるといいな。運が良ければ次の街で商隊の護衛を引き受けられるかもしれない」
「その辺りはお任せします。なにぶん世間のことはあまり知りませんので」
「知っているのは迷宮の事ばかり、でしょうか」
「ええ。(それと予言のことです)」
◆◇
タカイダイーチ氏族会準備会。ただの飲み会である。
「グレイのとこの嬢ちゃんは《迷宮慣れ》で弾けたそうじゃな」
「そらーもうすごかったらしいぞ。ちぎっては投げちぎっては投げ!」
「うむ。魔鹿の肉もバラバラじゃ!」
「初級迷宮に魔鹿は出んじゃろ」
「おおう、そうじゃった…」
「かわいい顔してやるもんじゃな。何と言ったか…」
「ダイアドアラント」
「ほう。また若いのが出てきたな!」
「ワルケリアナ」
ピクッ!全員の身体が反応した。
「の所が案内したんだとよ。できた娘だ」
「クリームの所の孫娘じゃな」
「まーたクリームのところか!」
「ぬぬぬ。どうして美味しいところをクリーム氏族に持っていかれるんじゃ!我慢ならん!うちのはどうしておる!」
「お前のとこのは中級で魔鹿とサンダーホーン間違えて死にかけたじゃろ」
「そうじゃった。まだ休んでいるんじゃ」
「トレントにボコられたのはうちの孫じゃ」
「「「あるある」」」
「浅い階層のトレントと同じつもりで挑むと怪我をするのう」
「よくあることだね」
「そろそろお開きにしたら?爺さんたち」
「クリームさんとこから仕入れたお酒も旨いのは空になってるよ」
「ぬぬぬ、クリームめ!うらやましい!」
「剣は諦めたと聞いてしょんぼりしているかと思いきや、魔術で復活かあ。元気のいい子だから応援しとるんじゃわしゃ」
「「「わしもわしも」」」
「ええい、わしもじゃ!」
「昔フラれた娘がクリームの嫁になりおったんじゃ!あの強気なところがそっくりなんじゃ!かわいいんじゃ!」
「「「はいはい」」」
準備会(飲み会)の夜は続く。叱られるまで。
楽しんでいただけたら幸いです。




