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異世界司馬懿  作者: 蒼き流星ボトムズ
2/2

司馬懿、レオパレスに降臨する!

俺の名前は田中ゆうすけ。

貧乏フリーターだ。

学歴は高校中退。

ちゃんとした職歴は無い。

生活というより生存の為にパソナに派遣登録している。


住処は埼玉県春日部市。

野原ひろしと異なり、妻子も家も持ってない。


ねぐらはレオパレス。

界壁問題でゴタゴタしている。

法律的には退去しなければならないらしいが、その金も無い。

貰えると聞いていた補償金はまだ振り込まれていない。


まあ、最下層民なんんだろうな、俺は。

埼玉はこんなにも暑いのに、クーラーに変なタイマーが付けられていてまともに稼働しないと来ている。

薄い壁は隣人の壁ドンで大きく歪んでいる。


まあ、それはいいさ。

問題は、この部屋に司馬懿が来てしまっている事である。

背後には長身のイケメン二人が直立不動で起立しており、まだ一言も発していない。

恐らくは眼帯をしている方が司馬師、消去法でもう一人が司馬昭(雰囲気がやや柔らかい)だろう。

軍中にあるタイミングで召喚されたのか、3人共古代中華風の将校用甲冑を纏っている。


いやいや。

問題はそこじゃない。


問題は… 本当に大きな問題は…



「田中君と言ったね。 歓待を感謝する。」


「…い、いえ! この様なあばらやしか用意できず誠に申し訳御座いません!」


「もう理解しているようだが、改めて自己紹介をさせて頂く。」


「…は、はい!」


「私は。

姓は司馬。 名を懿。 字を仲達と申す者だ。」


「…お、お目に掛かれて光栄です。」


「フフフ(目が笑ってない)。 諸葛殿でなくて済まないね。」


「い、いえ! そのような事は!」


「はっはっは(目が笑ってない)! 意地の悪い言い方になってしまったね。」



何でこの司馬懿は、こんなに流暢な現代日本語を話せるのだ?

いや、流暢も何も完全なネイティブ発音。

日本人? 司馬懿のコスプレ? いいや、この威圧感は断じてそんなレベルではない!

いや! それ以上に何でこの男は1800年も後の異国に突然呼び出されて、こうも平然としていられるのだ!?

召喚ってこういうものなのか?

後ろの二人も司馬懿程ではないが、召喚された直後から殆ど表情を動かしていない。

何だこいつら、感情が無いのか!?


「ああ、田中君。 すまないね。 後ろのは私の愚息だ。」


やはり司馬師。司馬昭兄弟か。

史実通り、並々ならぬ風格がある。


「おい。」


司馬懿が軽く顎で指図すると眼帯が一歩だけ前に歩を進めた。


「はじめまして、田中ゆうすけ様。

ご歓待に感謝しております!

自分は姓は司馬 名は師 字は士元であります!

ご指導ご鞭撻のほどを宜しくお願い致します!」


如何にもエリート軍人的なキビキビとした動きだ…

これが司馬師… 凄い威圧感だ。

ただ、司馬懿ほど流暢な日本語ではない。

『成人後に来日して滞在年数が長い外国人』くらいの発音制度。

ネイティブな喋りではない。



司馬師は最小限の挨拶を済ませると元の位置に戻り、隣に促す。


「はじめまして、田中ゆうすけ様。

ご歓待恐縮至極であります!

自分は姓は司馬 名は昭 字は士上と申します!

何卒ご指導ご鞭撻のほどを宜しくお願い致します!」


やはり司馬昭か~

改めて見ると、やはり司馬師に比べて雰囲気が丸い。

丸いと言っても、司馬懿・司馬昭との対比でそう見えるだけだろうから油断はしない。

何せ皇帝殺した人だしな…

いや、それより司馬師よりも更に日本語力が劣っている。

せいぜい『凄く日本語の上手な外国人留学生』程度だ。



「こ、高名なお三方にお目に掛かれて光栄です。」


「はっはっは(目は全然笑ってない)。 どうせ悪名であろう。」


「い! いえ!  いえいえいえいえ! いえいえ、そんなことは! そんなことは!」


「田中君。 本題に入らせてくれ。」


「は、はひ!」


「改めて確認するよ?

この地は日本。 倭人が住む国。 私達は君達によって呼び出された。

間違いないね(偽証は斬るという目)?」


「は、はひーーー!」


「正確な状況を把握したい。 私の認識に齟齬があれば是非とも訂正をお願いしたいな。」


「え、えっと。

倭というのは古い呼び名で、我々は今は日本人名乗っております。」


「掘り下げて尋ねたい。 『倭』という単語はここでは蔑称として認識されている?」


「はい。 蔑称と解釈して頂いても差し支えありません。

我々は美称として『ヤマト』という言葉を使うケースが…

あの?」


「クックック(顔を覆っている為表情が読めない)。  

『ヤマト』ね…。 成程。」


「あ、あの。」


「クックック(逆光で表情が読めない)。

ありがとう。 君のお陰で全て理解出来たよ。

すまないが、もう少しだけ質問を我慢して欲しい。」



司馬懿。

演義でも正史でも非凡な能吏として描写されている通り、洒落にならないほど頭の回りが早い。

恐ろしいのは、俺の知能や知識量を完全に把握した上で、必要な情報を引き出している点。

一切の無駄がない上に、俺が一切の無駄を生じれない状況に追い込まれている。


「上手く言語化出来ないが、この地は後世か?」


やだー、司馬懿さん完璧に言語化してるじゃないですかぁーーー!!


「はい。 司馬先生… とお呼びして失礼ではないでしょうか?」


「はっはっは(目が怖い)。 私をそう呼ぶのは貴方で二人目だ、田中先生。」


どっちだ?

先生呼びは失礼に当たる?当たらないのか?

っていうか、一人目は曹丕?

やばい、地雷踏んだかも!?

俺、やっぱり司馬懿を怒らせてる? 怒らせていない?

どっち!?


「安心して欲しい。 田中君が私に敬意を払おうとしている事は伝わっている。

その姿勢に対して胸中感謝もしている。」


「「はっ!! 田中様のお心遣いに感謝しております!」」


どうせ司馬懿が何らかの合図をしたのだろう。

息子二人が同時に叫んだ。

オマエらよく訓練されてるなー。


「話が逸れて申し訳ありません。

今は司馬先生のご活躍された時代から数えて1800年ほど後の時代になります。」


「要するに我々が尭舜を呼び出したようなものだな。」


「流石は司馬先生! ご明察恐れ入ります!」


「…で紂桀が来てしまった、と。 (凄く怖い顔を近づけて来る)」


「い、いえーーー!! そそそそ、その様なことは!!!」


うん。

まさしくその通りだと思うんだけど、そんなこと言ったら俺殺されちゃうよね?

っていうか今の司馬懿の表情、こっちの思考を完全に読み切った顔をしてるよね?


「さて、と。

この馬鹿げた現状を踏まえた上で、だ。」


「は、はひ!」


「君達日本人は如何なる目的で諸葛殿を呼びつけようとしたのだ?」


え?

いや、確かに。

召喚された側からすれば、一番知りたい点だろう。


「…その国難を救って欲しい。 という建前で召喚の儀を執り行いました…」


「ふーむ。 要するに。 好奇心なり敬愛なり、が理由か?」


「恐らくはそうだと思います。 少なくとも俺、私は諸葛孔明に会えることを凄く楽しみにしておりました。」


「ああ、概ね理解した。」


司馬懿はそう言い捨てて静かに息を吐いた。

或いはこれが彼の溜息の吐き方なのかも知れない。


「続けざまに問いただして申し訳なかったね。

一方的だったと反省している。

君も不審があれば質問してくれて構わないからね。

ニッコリ(目は笑ってない)。」



「し、質問ですか。」


「ああ。 私は一方的に喋り過ぎてしまった。 いやあ、君子の道は実に遠い。」


「そ、それでは一点だけ。」


「如何様にも。」


「し、司馬先生はどうしてそんなに流暢な日本語を話されるのですか?

いや!

わ、我々で通訳や翻訳機を用意していたのですが!

司馬先生が普通に喋っておられるので、驚いてしまって!

しょ、召喚によって得られた能力か何かなのでしょうか!?」



異世界ラノベのテンプレだが。

転生した主人公が最初から自動翻訳スキルを保有しているケースは多い。

今回もそれか?


等と邪推した矢先。

司馬懿が静かに肩を揺らし始めた。


な、なんだ。

お、怒らせてしまったか?

言語に関する話は非礼だったか?



フルフル。

司馬懿の肩がゆっくり震える。

息子二人は表情どころか直立不動の姿勢すら1ミリも崩さない。



「…クックック」



わ、笑ってるのか?

いや、司馬懿って笑うのか?

逆に怒ってないか?


「ふふふ(感情が全く読めない)。 田中君は実に行き届いた男だ。

愚息共に爪の垢でも飲ませたいものだな。」


「…あ、いえ。」


「何故? 君達の言語を操れるか、と?」


「は、はい。」


半秒の間。

そして司馬懿の表情から全ての感情が消えた。

いや、この無こそが司馬懿の本来の表情なのだろう。




「逆にこちらが尋ねたい位だよ。

この程度の単純な言語を覚えた事に何の不思議があるのか、とね。」



何のことは無い。

司馬懿は、この数時間で耳から入る日本語を解析し、咀嚼し、ネイティブスピーカーに匹敵する域に到達した。

ただそれだけの話。

なるほど…

そんなのアリなのか!?




後になって知る事だが。

司馬懿は異世界ラノベに出て来るような特殊能力を一切持ち合わせていない。

ただ純粋に、スペックが常人とは懸絶しているだけである。

ただ純粋に、メンタルが凡人には推し量れない境地に達しているだけである。

俺達はこういう存在を一言で表す単語を普段散々使っているじゃないか…


こういう存在を俺達は『チート』と呼ぶ。


そりゃあ、コイツら天下獲っちゃうわ。

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