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【第80話】悔悟の輪廻

「なんだこれ、隠し道?」

「ええ、サーロッテがいくつか発見しています。この城にはいくつかこういう通路があるようで、ものによっては時折衛兵たちが使っているようですね」

「そういえば確かに衛兵たちがどこからともなく現れていたような……」


 青白い光がゆらめくランプを手にしたリリシアが梯子を降り切ったあとを追いつつ、ロシュートはユイナの辞令交付式の日のことを思い出していた。あの神出鬼没な衛兵たちはこういう隠し道を使って移動していたのか。


「この通路はそのまま城の外へと繋がっていますので、そのまま歩いていけば離脱完了です」

「王城のセキュリティ的に大丈夫なのかよ。というか、衛兵と鉢合わせになっちゃうんじゃないか」

「いつもは鍵がかかっているのを、サーロッテが内部の人間を使ってうまくやったらしいですね、詳しくは知りませんが。鍵がかかっているということはもちろん普段は使われていない通路ですので、衛兵と遭遇することはほぼないでしょう」

「……さっきはお前がそうやって油断しててピンチになったんじゃないのか」


 通路の暗闇の中、リリシアが手に提げているランプの青白い光がびくっ、と揺れた。


「そっ、それはあの見張り、本当に急に階段を下り始めたんです。それまでボーっと時計を眺めていただけの怠け者が、ハッと気がついたように。ドアの外の異常に気付かれなかったのは幸いでしたが」

「お前もボーっとしてたんだろ」

「確かに少々漫然としていた部分はありますが」

「ヒヤヒヤしたんだから反省してくれよ本当。この通路はまあ、流石に誰も居なさそうだけどさ」

「はい……すみませんでした」


 ロシュートの指摘に薄暗闇でもわかるくらいどんよりとしたオーラを漂わせ始めたリリシア。


(ちょっと言い過ぎたか……?)


 言葉は棘だらけでものすごく厳格な印象のある彼女の意外な反応に、思ったよりもいい子なのかもしれないと感嘆しつつも、助けてもらった身で文句を言ったことの罪悪感から、ロシュートは何か間を持たせる話題を探した。


「あー、そうだ。そういえばお前のあの、イノナントカとかいう魔法。アレは何属性の魔法なんだ?あんまり見たことない魔法みたいだけど」

「……ああ、『穢レヲ祓ウ聖樹苗(イノセント・シュート)』ですか」


 リリシアがクロスボウを担ぎなおし、金属パーツの擦れる音が鳴る。


「これは教えを広める神聖な力であり、属性などという枠組みに当てはまるようなものではありませんよ」

「魔法ではあるんだろ?」

「ええ。『穢レヲ祓ウ聖樹苗』は命中対象の青き原罪を吸い上げ、花を咲かせます。花が散るとき吸い上げた青き原罪は霧散し、自然の中でゆっくりと天へと還りますが、摘み取って燃すことでより早く浄化できます」


 カラカラ、とランプを振ってみせるリリシア。輪郭ははっきりしないが、たしかにその青白い光は十字状に放射している。


「燃料みたいに使えるのか。なんなんだよ、その原罪って」

「青き原罪は人が生まれ落ちし時からその心身に沁み込んでいる恥ずべき罪です。人は懸命に修行し、これをより多く浄化することで次の輪廻を穏やかに迎えることができるのです。もっとも、世にあふれる異端者どもは修行などしませんから、わたくしたちの手で償わせてやるのです」

「結局よく分かんねえな……ユイナとかなら分かるんだろうか」

「そう!ユイナがどれほど素晴らしく気高いか、あなたに分かるのですか!?」

「おうおうどうしたんだ急に」


 ユイナの名前を出した途端、リリシアは鼻息荒くまくし立て始めた。


「ユイナ。ユイナ・K・キニアス……彼女は煌々たる魂を持つ、類まれなる赤き純粋人なのですよ。ああ、翻ってわたくしのなんと罪深いことか、異端者どものなんと汚らわしいことか!わたくしたちが目指すべき姿の体現者であり、生まれながらの達成者に、まさか生きているうちに出会えるなんて……!」

「さっきも言ってたけどさ、なんなんだよその純粋とか魂とかって」

「ええ、ええ教えて差し上げますとも。わたくしたちの教義を解さない、あなたのような異端者の蒙を啓くのも務めですから……!」


 ひとりで燃え上がるリリシアに突っ込むのもつかれたロシュートはとりあえず大人しく聞いておくことにした。聞いておいて何なのだが、どれだけ懇切丁寧に解説されたところで自分の理解力じゃ腑に落ちるものでもないだろうと、ロシュート自身思っていたのもある。


「ものすごく平たく言えば、赤き純粋人は輪廻……つまり生まれ変わりを完全な形で達成した者のことなのです」


 だから生まれ変わり、という言葉が出た時、ロシュートは頭をガツンと殴られたような気がした。


「ユイナは本当に、転生、しているってことか?」

「転生はわたくしや、あなただってしているハズですよ。あまねく人の魂は輪廻の中で罪を償い続ける存在ですから。それはユイナだって例外ではない。ただし、赤き純粋人であるユイナにはわたくしたち凡人と唯一にして最大の異なる点が存在します」


 リリシアは立ち止まり、ロシュートにずい、と迫った。


「彼女は、前の輪廻のことを思い出せるのです」


 ランプの明かりがリリシアの興奮に連動して激しく揺れる。


「青き原罪を背負いしわたくしたちが今の人生より前の輪廻を思い出すことはかないません。人は自らの罪を悟り、償ったとしても輪廻のたびにすべて忘れ、次の輪廻で再び原罪を背負って生まれます。しかしそうした輪廻の果てに煌々たる魂を宿すことができれば、前の輪廻のことを記憶した、真に穢れ無き存在として転生することができるのです」

「思い出せるって、ユイナがしょっちゅう言っているニホンとかいう国の話のことか?そりゃ知っているけど、アレは……」


 呑み込むように、ロシュートは言いよどむ。


 確かにユイナはずっと言っている。


 自分は転生者だ。元々はニホンという世界にいた、と。


 実際、妹の才能は凄まじい。意味不明なことを言っていることも多いが、あの知識量と技術は2回目の人生を歩んでいるからだ、と言われれば納得しかけてしまうし、家族のことは最大限信じてやりたい。


 だが。


「ありえない、などと考えるからあなたは異端者なのです、ロシュート・キニアス。どうです、この機にあなたの原罪を『穢レヲ祓ウ聖樹苗』で吸い上げてしまいましょうか」

「いや、いい。それに信じろといったって、根拠はお前らの教団の教義だけなんだろ?それだけじゃ」

「根拠ならありますよ」


 ロシュートの言葉を遮るように言い切ったリリシアは、薄暗い通路の天井にランプを掲げ、そこに手をかざした。


 手のひらのシルエット。そして、皮膚の薄い部分などに見える真紅が、彼女が血の通う生き物であると主張するかのように輝く。


「彼女と初めて会ったとき、無礼にも『穢レヲ祓ウ聖樹苗』を撃ち込んだ私が見たものは、陽光のように、果実のように、鮮血のように()()()()()でした」

「赤い、花」

「『穢レヲ祓ウ聖樹苗』は原罪を吸い上げる……それは少しだけ正確さを欠く表現なのです。実際に吸い上げているのは、その者の魂。罪にまみれた我々の魂は青白く、ただ消える運命が待つ輪廻の中でぼんやりと光るだけのもの。ですが真の輪廻を達成した穢れ無き煌々たる魂は、赤々と輝く花を咲かせる。教義ではそう伝えられています」

「それで、赤き純粋人……」


 教義の記述と一致するから、ユイナは本当に転生者だって?


 到底信じられる話ではなかったが、ロシュートはそれを否定する材料を持ち合わせていなかった。そもそも否定する必要があるのかすらも分からない。


 混乱した頭で、ロシュートは何とか声を絞り出す。


「その赤き純粋人は、どうして前世のことを思い出せるんだ」

「順番が違いますね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ヴェルヴェットは人差し指をぴん、と立てる。


「罪の自覚を持ち、自らの生を悔いたもの。その自覚と悔いを、次の輪廻によって償うという強い意志を死によって忘却しなかったものだけが、煌々たる魂を宿すのです」




「ロシュートお兄ちゃん、お疲れさまでした!ケガはなかったようでよかったです!」

「あ、ああ」

「でも結構お疲れみたいですね」

「……」


 上機嫌に隣を歩くサーシャにロシュートは力なく相槌を打った。


 結局、隠し通路は王城の正門横にある資材倉庫の中に繋がっていた。一晩近く過ごしていたような気がしたが、実はそこまで経っているわけではなかったらしい。おかげでリリシアと別れた後、そのままサーシャがグレース・ロックベルトと風呂上りに歓談しているところへちょうど迎えに行けたのだ。


 そのまま言葉少なに宿へと帰ったロシュートは、そのままベッドに身を投げた。


(罪の自覚と、悔い……)


 リリシアの言葉が頭の中を乱反射している。


 その晩、ユイナに『コール』で話を聞くこともできたかもしれないが、結局ロシュートにはその気が起きなかった。


 顔を合わせて話がしたかったが、顔を合わせたとて、今のこの感情をうまく言葉にできる気はしなかったのだから。

読んでいただきありがとうございます!

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