【第66話】長デンワ
ぶーん、ぶーん。
「ん?」
王都を駆けずり回って低級の依頼をこなして回った夕べ、ロシュートが宿の一室でくつろいでいるとなにやら羽音のような音がするのに気がついた。一定の感覚で低く唸るその音の発生源を部屋中探しまわった結果、どうやら外して机の上に置いてあったポーチの中であるらしいと突き止めたロシュートはその中を探る。
掴み出したのはユイナから渡されていた端末……という役割らしい魔法陣の刻まれた板だ。ウィンディアン村でウマコトが使っていたものにそっくりなそれは、妹の手によって改良が施されているらしい。どこがどう変わったのかは正直理解していなかったが、この唸る機能がそれなのだろうか。
「こ、これどうすりゃいいんだっけ」
手に取ったはいいものの、使い方が分からずに首を傾げる。というか、これは果たして『使用』できるものなのか?ユイナが作る他の発明と違ってボタンやレバーすらない。以前スケジュール表に臨時で搭載されていた『お守り』機能の時は勝手に作動していたが……肝心の妹からは「たぶんブーブー音が鳴るから、鳴ったら取って」としか言われていないので完全に詰んでいる。
と、そこでロシュートはウマコトが病室でそれを使用していた時のことを詳細に思い出した。確か他の魔法と同じで、詠唱をすることで遠く離れたユイナと話していたはずだ。手元を見れば、ロシュートが手に取ったことで板切れの魔法陣の光が増している。使い方が正しいのか自信はないが、とりあえず普通の魔法を起動するようにして詠唱してみようか。
「こ、『コール』!」
『……お、繋がった繋がった。何とか電池は保ったみたいだね。もしもーし聞こえてる?』
詠唱直後、ザザッ、と耳障りな音が少し混じっているが板がユイナの声で喋り始めた。
「ユイナか……?」
『なんでそんなに怯えてるの。でも聞こえているなら良かった。もー、鳴らしたのに全然取らないから心配したんだぞ』
「いやいや、ちゃんと手に取ったって。片手だけど。ウマコトの野郎が言ってた呪文で詠唱したら喋り出したが」
『あっ。あー、なるほど。そうか。確かに。電話を知らないから取ってと言われたら手に取るところまでか……なるほどなぁこれはミスったわ。ごめんアニキ、これは私の過失。次からはブーブー鳴ったら手に取って『コール』を詠唱してね。とりあえずアニキの魔力属性で繋がるようにはしてあるから』
繋がる、ということは何か紐のようなものがここまで伸びているようなイメージなのだろうか。よく聞くとユイナの声質や高さに少し違和感があるものの、こんなに離れた位置で意思疎通ができるのはやはり驚きだ。
「そもそもなんでこれは急に震えることができるんだ?お前のとこからだいぶ離れてるけど、そんな遠くから触れもせずに魔法を使えるなんて」
『いやいや、何回か見てるでしょ?前のお守りの機能とエルフさんたちの魔法陣と、あとムカつくけどフレストゥリの理論を参考にして、微弱な誘導魔力と合わせて使う起電力ならぬ起魔力は土属性強化ボールの要領で……って、今回はそんな話がしたいんじゃないんだって』
「そうなのか?」
あー、とかえーとか言いよどんでいるユイナの声。ロシュートは妹が技術の話をしようとしないのは意外だなと思いつつ、言葉の続きを待った。
『えっとね、なんか普通の話でいいんだけど』
「普通の話って……そうだな、今は寮の部屋にいるのか?」
『おっ、そうそう、それっぽいわ。めっちゃ兄ちゃんと話してる感じする』
兄ちゃんっぽい話とは。アニキ呼びじゃないのも気になったが、ロシュート個人としては兄ちゃんと呼んでもらった方がしっくりくるため最近は気づいてもあえて突っ込まないようにしていたりする。
『寮にいるよ、ひとり部屋。フレストゥリと相部屋とかなったらどうしようかって思ってたけどね』
「あいつも寮なのか。なんかウマコトは王都に家を持っているって聞いたからてっきりそっちかと思ったんだが」
『王城に通うのがめんどくさいんだって』
「似たもの同士だな」
『そんなこと……いや、やっぱ気持ちは分かるな』
相変わらず引きこもり根性全開のことを言っているユイナにロシュートは苦笑したが、声だけが伝わっているらしいこの状況だと表情は意味がないのだと気づき、ちょっと寂しくなった。その代わりというわけではないが、確認しておかなければならないことを思い出す。
「そういや前にこんな感じで話したときは基地がどうとか、準備がいるって話をしていた気がするが、お前まさか寮でまた何かヘンなもん作ってるんじゃないだろうな。砲とか」
『妹を何だと思ってるの!?全然常識の範囲内のことしかしてないよ!『コール』用の装置は小型化できてるから少し珍しい形のインテリアみたいな感じで置いてるだけだし。作るのに資材はちょっとくすねてきたケド』
勢いよく反論するも徐々にしりすぼみになっていく妹の声にロシュートはため息をついた。
「お前……ほどほどにしておけよ。クビにでもなったら大変だぞせっかくまともな職に就いたのに」
『むしろまともすぎて肩身が狭いっていうかっていうか、ね!そうだちょっと聞いてよ兄ちゃん!!』
突然の大声にロシュートは思わず端末を耳から遠ざけた。
「ど、どうした急に」
『本当にさ、マジで面倒くさいのよマギ研!今日なんかさ……』
技術の話をしているときのように語気が熱を帯びるのを感じたロシュートは、『コール』……ユイナが時折デンワと呼ぶこの技術のことはよく知らないながら、話が長くなる気配を感じ取っていた。
ちょっと短いですが区切りが悪いのでゲリラ更新!
次回はユイナ視点のお話になります。
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